[第157号] 水を知り、嗜好を深める

 水1リットルに含まれるカルシウムとマグネシウムの量を「硬度」と言い、その成分量によって「軟水」「硬水」に分類され、単位は「mg」が使用されます。世界保健機関(WHO)の基準では、1リットル中120mg以下は「軟水」、120mg以上は「硬水」と区分され、日本は平均約50のため軟水に区分されます。中華圏では上海100、台北35、香港40など、沿岸部は軟水の傾向にあるものの内陸部ほど硬水となり、米国もニューヨーク30、サンフランシスコ55などの沿岸部は軟水、内陸部は硬水の傾向にあります。一方、欧州ではミラノ270、パリ280、ミュンヘン300など、おおむね硬水の傾向にありますが、地域によって20以下の超軟水、1000以上の超硬水など、著しい数値差も見られます。この水質の違いには地質が関係しており、つまり目の粗い火山岩地層に雨水が短期間で染み込み地下水脈に達するのが軟水、カルシウムやマグネシウムを多く含む目の細かい石灰岩地質に長期間に渡って染み込むのが硬水となります。

 その水の影響を受けやすい飲み物として、お茶やコーヒーが挙げられます。お茶は基本的に軟水との相性が良く、緑茶や紅茶などに適した硬度は30〜80とされ、古くから軟水の地域でお茶の文化が発展してきた傾向が見られます。世界のお茶消費の80%が紅茶ですが、その紅茶の文化を世界的に広めた島国の英国は、欧州では珍しく軟水の国。この軟水が紅茶普及の要因となり、さらには軟水を活かしたスコッチも名産となりました。しかしながら、ロンドン周辺地域は硬度200の硬水のため、ロンドンのスーパーやティーショップで販売されている紅茶は、硬水対応ブレンドの紅茶が中心です。フランスやドイツなどで販売されている紅茶も、多くは硬水対応にブレンドされています。なお、ミルクティーは硬水が適しており、ロンドンを中心に欧州では、ミルクティーを楽しむ文化が今に継承されています。特にアッサムのようなコクが強く芳醇な香りの茶葉を使用すれば、極上のミルクティーに仕上がります。

 コーヒーは焙煎の度合いによって、軟水と硬水の使い分けをします。コーヒー豆は、サクランボに似た赤色のフルーツの種「コーヒーチェリー」であり、コーヒーはフルーツであるとの観点から、日本や中華圏では豆(果実)本来のフルーティーで華やかな酸味を楽しむ「浅煎り」、もしくは酸味と苦味のバランスを楽しむ「中煎り」を好む傾向にあり、その場合は軟水が適しています。一方、フレンチロースト以上の強い深煎りやエスプレッソの場合、苦味のエッジが鋭さを増す硬水が適しており、硬水の欧州ではエスプレッソのようにコクと苦味を楽しむコーヒー文化が発展しました。また、それはコーヒー道具にも現れており、日本や中華圏ではコーヒーポットやドリップポットを使用し、じっくりと時間をかけながら抽出することで豆の素材力を引き出します。一方、欧州では高い圧力で一気に抽出することによって苦味を凝縮させる、エスプレッソマシンの使用が主流です。

 日本における軟水は地域差があり、関東と九州は比較的高め(50以上)、その他の地域は低め(50以下)の傾向にあります。また、浄水場によっては局地的に硬度120を超えることもあり、その場合、お茶やコーヒーの味覚に少なからず影響が出ているものと思われます。各市町村の硬度は公表されており、一度確認することをお勧めいたします。水道水の注意点としてカルキ臭が挙げられ、飲み物に与える影響が強いため、完全に沸騰させる必要があります。さらに、湯沸で一晩水を汲み置きすればより効果的ですが、それは日本茶や中国茶などに当てはまることであり、紅茶は例外です。紅茶は水に酸素を含ませることで生じる「ジャンピング」によって香りが最大限に抽出されるため、酸素を失う水の汲み置きは不向きです。さらにミネラルウォーター、朝一番の水道水、電気ポットでのお湯の保管、2度目の沸騰も、酸素を失うため不向きとなります。酸素をたっぷりと含ませるためには、水道水の水を溢れんばかりに勢い良く湯沸に入れ、沸騰したお湯を高い位置からティーポットへ流し込むこと。これが紅茶の淹れ方のポイントです。

 ミネラルウォーターの場合、硬度ゼロ〜2000近いものまで幅広く、購入の際は硬度を確認する必要があります。国産のほとんどは軟水ですので特に問題ありませんが、最近人気の軟度ゼロやゼロに近い超軟水に関してはミネラル分が極端に不足しており、お茶やコーヒーには不向きです。注意すべきは外国産で、硬度60「ボルヴィック」などの例外はありますが、多くは硬水であり、硬度1000以上の水の使用は味覚が大きく崩れます。硬水を使用する際は硬度200〜300程度が適しており、エスプレッソマシンの場合、硬度が高すぎると石灰分が蓄積して故障の原因にも繋がります。お茶やコーヒーは、正しい道具の選択と淹れ方によってより味や香りが引き立ちますが、その前に、水を上手に選択してみてはいかがでしょうか。個々の味覚は様々ですが、水の硬度による特性を知り、飲み物への影響を踏まえて自分に合う水を使用すれば、毎日のお茶やコーヒーの味わいに奥行きが出て、より味覚の楽しみが広がることでしょう。

[第156号] 刃を研ぎ、心を研ぐ

 世界に誇る日本古来の文化として、建築、和食、工芸などが挙げられますが、これらの文化が発展した要因として、刃物の存在が欠かせません。中でも鉋や鑿などの大工道具、和包丁、日本刀などは、海外からも高い評価を受けていますが、刃物を製造する技術が優れているだけでなく、世界にも類を見ない高品質の砥石が日本各地で産出されたことも大きな要因となっています。砥石は、数千キロ離れた赤道付近の海底の沈殿物が、数億年掛かって日本へ移動して地上に隆起したものです。どんなに優れた刃物を使用しても、砥石が悪ければ刃物の機能は最大限に発揮出来ないため、優れた砥石を入手することは、職人にとって重要な任務です。また、ものづくりを極めることは、研ぎの技術を極めることに比例するため、それら優良な砥石を活かした「刃を研ぐ」文化が構築されて、長きに渡り継承され現在に至っています。

 「都は優良な砥石の出る場所で作れ」という格言もあるように、砥石が良いと刃物の切れ味が増し、木材の細胞を痛めることがなく防水性も高まることから、建築物の耐用年数が大きく伸びます。中でも京都付近で産出される砥石は、全国屈指の良質なものとして古くからその存在が知られ、京都やその周辺の歴史的建造物の建築に大きな影響を与えました。宮大工の世界では、「穴掘り三年、鋸五年、墨かけ八年、研ぎ一生」という言い伝えがあるほど、作業の時間の多くを道具の研ぎに費やします。昭和を代表する宮大工・西岡常一氏曰く、優れた宮大工の1日の仕事の割合は、「研ぎが4割に対し作業は6割」であるとし、研ぎの重要性を説いた人物です。また、姿勢も研ぎの質を左右するものであって、悪い姿勢では良い研ぎは出来ず、正しい姿勢を身に付けることで、研ぎの技術は上達します。さらに、正しい姿勢で作業をすることは、身体に負担が掛からず、体幹も鍛えられ、結果として職人寿命を伸ばすことにも繋がります。

 料理人の命である包丁。その研ぎ方一つで味覚に大きく影響するため、包丁の研ぎは料理人の重要な作業の一つです。特に和食は、生の食材を活かした料理が多いため、鮮度が生命線の和食において、包丁の研ぎが優れていると素材の持ち味を十分に発揮します。和包丁は食材ごとに開発されるほど多種多彩な種類があり、和食は和包丁の刃を研ぐことで発展した文化とも言えます。例えば刺身の場合、研ぎが優れていると細胞が破壊されないことで、見た目の美しさ、食感の良さ、そして旨味を逃さず、食材の持ち味を十分に引き出すことが出来ます。野菜の場合も、細胞が破壊されないことで鮮度を保ち、食材の変色も抑えられます。煮込み料理は旨味が増して味に奥行きをもたらすため、調味料は必要最低限で構いません。逆に研ぎを怠った包丁を使用すると、食材の細胞が破壊されることで苦味や雑味成分が出やすいことから、魚は生臭さが残り、野菜は苦みやエグ味が出やすくなります。

 金属工芸は「鍛金」「彫金」「鋳金」と3つに大別され、「彫金」は鏨(たがね)を用いて金属を彫る工芸技術です。鏨は彫金師の命であり、常に最高に切れる状態にしておくことが彫金師としての基本姿勢であり、彼らは作業中、多くの時間を研ぎに費やします。彫金は極めて繊細な作業であるがゆえに、彫る前は精神統一が必要です。鏨を研ぐことは彫金師の精神修行であり、「心を研ぐ」とも言われています。彫金は削り跡そのものが作品となり、研ぎが作品の美しさに直結する「研ぎの美」を表現する芸術。研ぎの優れた鏨を使用すると、彫り跡のエッジが鋭く、繊細で美しい曲線が表現できますが、研ぎを怠ると彫り跡が緩く歪みが生じやすく、美しい曲線が表現できません。つまり、彫金作品を見れば、その職人の研ぎに対する心構えや、作業中の研ぎに掛ける時間がおおよそ判別できます。これは木彫り彫刻にも同様のことが言え、彫刻刀の研ぎの優れた職人の彫りは、エッジの鋭さと木の温もりが調和し、繊細かつ表情豊かな奥行きを表現するのです。

  「木を切ることに8時間与えられたら、私は斧を研ぐことに6時間費やす」とは、元アメリカ大統領・リンカーンが残した名言です。研ぎの甘い斧を使用しては、どんなに力を入れても刃が木に食い込まず、しかも、力を入れるほどに切れ味は悪くなります。一つの物事をやり遂げるには、準備に十分な時間を掛けるべきであると、準備や段取りの大切さを説いたリンカーンの言葉です。また、スティーブン・ゴヴィーの大ベストセラー「7つの習慣」では、「刃を研ぐ」が最後の第7の習慣として記されていますが、人格を磨くことは刃を研ぐことと同じであり、肉体的・精神的・知性・社会的の4つの刃をバランス良く、そして常に研ぎ続けることでシナジー効果が生まれ、深い気付きを得ることが出来ると説いています。現代社会において、そして職人世界においても、効率を求めるあまり、すぐに結果を求める風潮が生まれているようにも感じます。効率を求めると「研ぐ」ことが疎かになり、その大切さも希薄になっていきます。職人にとって研ぎは、その後に続く作業への敬意と祈りを捧げ、命を注ぎ込む準備の時間。刃を研ぐように心を研ぎ澄まし、日常に向き合う心のあり方を、「研ぐ」ことの精神性に倣って見つめ直したいと思う昨今です。

[第155号] フランスワインに濃縮された歴史と情熱に酔う

 ワインの醸造は約8000年前、コーカサス地方(ジョージア)で始まったとされ、その後古代オリエントにも広まり、フランスでのワイン醸造は約2000年前のことです。当時から貴重な飲み物でしたが、その存在価値は、イエスキリストの登場によって大きな転換期を迎えます。最後の晩餐で「ワインは私の血である」との言葉が残されたことで、以降「ワイン=キリストの血」という神聖な飲み物として崇められ、教会や修道院はこぞって葡萄畑を開墾。キリスト教の布教と共にワインの需要は拡大していきました。そして16世紀に入ると、フランスの貴族によって高級ワインを楽しむ文化が生まれ、華やかな宮廷文化をワインが彩ります。醸造技術の高い修道士の手がけるワインは貴族の間でも話題となり、修道士「ドン・ペリニヨン」のシャンパンは代表的な存在と言えるでしょう。18世紀末のフランス革命後、教会や修道院の畑は新政府によって没収され市民の所有となり、現在に受け継がれています。

 パリから南へ約300㎞、特急列車で約1時間半のディジョンは、世界中のワインラヴァーが「ワインの聖地」と崇めるブルゴーニュの玄関口。国道沿いに南下すると、シャンベルタン、ロマネコンティ、モンラッシェなどの偉大なクリマ(畑)が広がり、葡萄栽培の最高条件を備えていることから「神に祝福された土地」と称されています。この「ワインの王」ブルゴーニュに対し、「ワインの女王」はボルドー。パリから約600キロ、南西部の大西洋近くに位置し、ジロンド川の左岸はメドック地域、右岸にはサンテミリオン地域などが広がります。醸造所の名称に「シャトー(城)」が付き、資本力と組織力を備えた生産者が多く、まさにお城のような建物が地域に点在します。この2大産地はそれぞれ異なる性格を持っており、小さな畑で伝統的な製法によって希少価値を生むブランド戦略のブルゴーニュに対し、ボルドーは世界最新鋭の設備を有し、大量生産と高品質を両立させるブランド戦略を誇っています。このような背景から、フランス政府が制定するワインの格付け制度では、ブルゴーニュは「クリマ(畑)」を、ボルドーは「シャトー(醸造所)」を評価するものになっています。

 「ワインと言えばフランス。フランスと言えばワイン」。ワイン界の最高峰として、フランスは他国の追随を許さない絶対的な存在。しかし、それを大きく揺るがせ、世界ワイン史の中で産業革命に匹敵するほどの出来事が1976年に起こりました。今も語り草となっている「パリスの審判」です。パリ市内でフランス産とカリフォルニア産の目隠しのワイン試飲対決があり、両国の当代最高傑作ワインが赤白各5本づつ用意され、審査員は全員がフランスワイン業界の重鎮。すると結果は、赤白共にカリフォルニアの勝利に。本家フランスに対して、無名のカリフォルニアがどこまで善戦するのか興味本位で行われたイベントは想定外の結果となり、審査員も観衆も茫然自失。居合わせた両国のマスコミも対応に苦慮しましたが、数週間後、アメリカのマスコミが特集記事を公開します。以降、世界のメディアがこのスクープを取り上げ、カリフォルニアワインは世界注目のワイン産地として、一躍スターダムにのし上がりました。

  「パリスの審判」以降、ワインの民主化が生まれ、勢力図が大きく変化していきます。カリフォルニアだけに留まらず、チリ・オーストラリア・ニュージーランドなどのワイン新興勢力にも脚光が当たり、それらは総称して「ニューワールド」と呼ばれ、世界のワイン市場を席巻。無名産地の新興ワイナリーであっても、努力と才覚をもって励めばしっかりと評価され、フランスワインの名門を凌ぐことが可能となる。ニューワールドの醸造家たちはこの事実に励まされ、大きく勇気付けられたことでしょう。高品質で低価格帯のニューワールドの存在は、世界のワイン人口を増加させ、日本にもワインブームをもたらします。このワイン人口の増加は、結果として本家フランスワインの注目度を高める契機にもなり、「パリスの審判」でフランスワインの権威は衰えるどころか、一層の輝きを放っています。

 「1本のワインボトルの中には、世界中の全ての書物より深い哲学がある」。19世紀、フランスの生化学者ルイ・パスツールの言葉です。最近はワクチンの開発者・名付け親としてその名が知られていますが、「科学に国境はないが、科学者には祖国がある」と、祖国の名産・フランスワインの品質向上に人生を捧げ、ワイン業界にも多大な貢献をした人物です。彼は、ワイン造りの際のアルコール発酵が酵母によるものであることを解明し、またワイン輸出時に品質を劣化させない約50〜60度の湯煎で微生物を死滅させる「低音殺菌法」を生み出すなど、化学を用いたワイン造りの新たな知識を確立したのです。パスツールが活躍した19世紀は、病害の大流行によってフランス全土の葡萄畑が全滅寸前となり、フランスワイン最大の危機とされた苦難の時代でしたが、幾多の試練を乗り超え、今に至っています。1本のワインボトルには、この約8000年に渡り脈々と受け継がれた歴史と醸造家の情熱が濃縮され、人智を超越する奥深さがあります。その神秘性に酔うことも、ワインの魅力なのかもしれません。

お盆期間の営業について

お盆期間中、燕本店は以下のように営業する予定でございます。
工場見学も随時受け付けております。

銀座店は8月中はお休みなく営業しております。
新型コロナウイルスの感染拡大状況等によっては変更する可能性もありますので、予めご了承ください。

7日(土)営業
8日(日)休業
9日(月・祝)休業
10日(火)営業
11日(水)営業
12日(木)〜16(月)休業
17日(火)〜通常営業

《連絡先》
燕本店:0256-62-2015/info@gyokusendo.com
銀座店:03-6264-5153/ginza@gyokusendo.com

※8月1日配信のメールマガジンのお知らせ内で、休業日の表記に誤りがありました。上記が正しいものです。ご迷惑をおかけし申し訳ございません。

[第154号] ティーペアリングで新たな味わいの体験を

 童謡「茶摘み」でも歌われているように、立春から数え八十八日目(八十八夜)の頃に新茶の茶摘みが行われますが、今年の八十八夜は、本日5月1日。これからまさに日本茶の旬を迎えようとしています。日本ではその年初めて収穫されたものを口にすると病気をせず長生き出来るとされますが、八十八夜の頃に摘まれた新茶も、飲むと1年間無病息災になるとの言い伝えがあります。お茶農家の方曰く、新茶を摘むタイミングは難しいとのことで、発芽が短いと旨味成分であるテアニン(アミノ酸)の含有量が少なく、逆に伸び過ぎても含有量が少なくなるため、発芽状態と天候を見極めて一気に収穫しますが、八十八夜の頃が目安とされます。前年の収穫を終えた茶樹は、冬季の休養によってたっぷりと養分を蓄えているため栄養価も高く、テアニンの含有量が高いことから、鮮度の良い香りと共に旨味も強調されるのが新茶の特色です。

 緑茶は年に何度も新しい芽を出し、3~4回収穫出来る生命力の強い茶樹です。一番茶である新茶にはテアニンが最も多く含まれますが、二番茶・三番茶になるにつれテアニン量は減少します。しかし逆に渋み成分であるカテキンの量が増えるため、夏〜秋に摘まれた緑茶は渋みが強調される味わい深いお茶に仕上がります。新茶の淹れ方は、茶葉を通常の1.2〜1.5倍ほど多めに使用し、鮮度の良い香りを引き出すやや熱めのお湯(80〜90度)を使用することが一般的に奨励されています。新茶の楽しみ方は様々で、私の好みは、テアニンを十分に抽出する55〜60度のぬるま湯の使用です。抽出時間は3分以上、じっくり淹れることで旨味を最大限に引き出し、まろやかに仕上げます。このように、香りを優先するか、旨味を優先するかによって淹れ方は異なり、一番茶であるがゆえに様々な楽しみ方が出来ることも、新茶ならではの魅力です。

 新茶の時期は、料理とお茶のペアリングを味わうティーペアリングが、最も楽しめる時期です。日本茶をベースとし、様々なお茶の旨味と料理の旨味を融合させた新たな茶文化で、和食やフレンチを中心に、全国的にティーペアリングを行うレストランが増えています。ノンアルコールのカクテルやワインなどの場合、甘みのみが強調される傾向にあり、ペアリング出来る料理は限定されますが、日本茶の場合、多種多彩な茶葉や、その抽出方法によっても味覚の表現が広がることから、ペアリング出来る料理は無限大です。さらに日本茶は世界的にも珍しく蒸す製法であり、旨味成分を最も抽出しやすいことから、料理の旨味を引き出すお茶として最適です。以前ティーペアリングは、どちらかというとアルコールを飲めない方が楽しむものでしたが、今では純粋にティーペアリングそのものを楽しむようになり、今後成長の見込める分野です。日本茶の新たなスタイルを確立することで、国内外での日本茶の需要喚起も期待出来ます。

 ティーペアリングは、ご家庭でも気軽に応用できます。よく知られている例として、緑茶と鰹出汁のペアリングがあります。緑茶と鰹出汁の旨味成分の相乗効果は科学的に実証されており、煮物やお浸しなどの他、麺汁との相性も抜群で、特に新茶が効力を発揮します。スパイシーなカレー風味の料理とも相性が良く、新茶よりもカテキンの渋みが強い二・三番茶、もしくは深蒸し茶の方が相性は良くなり、夏場は「水出し」にすることで、スパイスが爽やかに感じられます。ほうじ茶は旨味成分が少ないものの、独特の香ばしい香りと甘みが特徴のため、肉料理などが合わせやすく、私のお勧めは餃子とほうじ茶のペアリングです。ほうじ茶の香りと甘みが、餃子の肉汁と脂の旨味に厚みと奥行きをもたらし、可能であればほうじ茶炒り器でほうじ茶を炒るとさらに効果的です。夕食で緑茶を楽しむ場合、寝る前のカフェインが気になるという方は、60度を超えるとカフェインの抽出量が増えるため、60度以内のぬるま湯で抽出時間を長くします。さらに、水出しにすればノンカフェインとなり、寝る前でも安心してペアリングが楽しめます。

 世界のお茶生産量の約6割が紅茶、約3割が緑茶です。世界の緑茶生産の約80%は中国ですが、中国の経済成長に伴い緑茶生産量は10年間で倍増し、中国のお茶生産の約6割が緑茶です。一方、日本はここ20年間でお茶農家が半減し、生産量も減少傾向にあり、廃業後の耕作放棄地は社会問題にもなっています。日本と中国の緑茶の製法は異なり、日本は「旨味」を引き出す「蒸す」製法に対し、中国は「香り」を引き出す「炒める」製法を採用しており、同じ緑茶でありながら、お茶の色合いや味覚は異なります。日本酒は「食中酒」としてのペアリングに日本酒市場の可能性があるように、日本茶も「食中茶」としてのペアリングに日本茶市場の可能性があります。日本独自の「蒸す」ことによる「旨味」を生かした市場開拓が、今後の日本茶の将来を大きく左右するものと考えています。ティーペアリングの楽しみを、菓子のみならず料理にも広げ、料理の旨味を引き出す日本茶の可能性をまずは日本人が理解し、楽しみ方を共有していくことが、日本茶文化の継承と発展に繋がっていくことでしょう。いよいよ新茶のシーズンです。皆様も是非、ご家庭で日本茶と料理のペアリングを楽しんでみてはいかがでしょうか。

[第153号] 脱炭素化社会と金属素材の持続可能性を考える

 13世紀、マルコ・ポーロが東方見聞録の中で、「黄金の国ジパング」と称するほど鉱業資源に恵まれた日本。江戸時代に入ると徳川幕府は、鉱業王国を構築すべく日本各地で積極的に鉱山開発を推進、世界有数の金銀銅の産出国としての基盤を築き、それは徳川幕府の財政を支える一役を担いました。しかしながら、江戸時代の過度な鉱山開発は金銀銅の枯渇を招き、さらに戦後、円高による価格競争力の低下や日本の人件費の高さも要因となり、日本の鉱山はほぼ全てが閉鉱となりました。現在は、1980年代に発見された菱刈鉱山(鹿児島県)から金が産出されているものの、日本における銀と銅の入手は輸入で賄っています。しかし日本の閉鉱の一方で、世界各国は国家プロジェクトとしての鉱山開発が急激に進んでいます。近年は新興国の経済成長による金銀銅の需要に対応すべく鉱山開発が進んでおり、特に中国はその動きが顕著で、2400以上の鉱山が稼働する鉱山王国へと変貌を遂げています。

 世界の金銀銅の産出国トップ3(構成比)は次の通りです。「金」①中国12%・②豪州10%・③ロシア9%。「銀」①メキシコ23%・②ペルー15%・③中国8%。「銅」①チリ28%・②ペルー12%・③中国8%。今から100年前の1920年、銅の世界産出量は約100万トンでしたが、1960年=約500万トン、2000年=約1300万トン、2020年=約2800万トンと、経済成長による需要増加に伴い、産出量は急激に増加しています。銅の初産出は紀元前7000年頃とされていますが、世界の銅産出の95%は工業化が一気に進んだ1900年以降に産出したものであり、ここ100年余りの産出量は異常な状態と言わざるを得ません。金銀銅は、古来より装飾品や日用生活道具として重宝された金属ですが、現在は主に工業用として多種多様な分野で使用され、特に近年はパソコンや携帯電話の発達が、金銀銅の使用増加に拍車を掛けています。例えばパソコン1台には、金約0.3g、銀約0.8g、銅約80gが含まれており、この銅80gは、10円玉約18枚分に相当する量となります。携帯電話では金0.05g、銀0.3g、銅15gが含まれ、1台で10円玉約3枚分に相当する銅が使用されているのです。

 このように世界経済が急速に発展した結果、金銀銅の枯渇のタイムリミットが迫っています。現在稼働中の鉱山における産出に限界が見えている中、新規鉱山の開発には不便な高地やへき地へと移動せざるを得ず、鉱山の発見は減少しています。さらに、鉱山を発見しても、開発に伴う排煙や鉱毒ガスなどの有害物質が問題となり、周辺環境に著しい悪影響を与えることから、環境基準の高まりにより、鉱山の新規開拓も限界に近づきつつあります。10年前、2010年の段階での枯渇予想年数は、金=20年後、銀=19年後、銅=35年後とされていました。その後、想定を上廻る新規鉱山の開拓もあって、昨年2020年時点での枯渇予想年数は、金=14年後、銀=18年後、銅=35年後と、やや持ち直しています。ただ、専門家の見解を総合的に解釈すると、今後の枯渇予想年数は予想通りになると思われ、仮に若干年数が伸びたとしても、金銀銅の産出は近い将来、全滅することになります。

 今、世界経済が目指す「脱炭素化社会」。温室効果ガスを大幅に削減出来る半面、金銀銅をはじめ多種類の金属を、今まで以上に大量消費する社会となります。一例を挙げると、電気自動車はガソリン車の3倍以上の銅線が使用され、太陽光発電には大量の銀が使用されています。国連での議論や報道のあり方として「脱炭素化社会」のメリットだけが先行していますが、その副作用である金属大量使用による枯渇の加速に関してはほとんど話題になっていません。このまま脱炭素社会が浸透すると、貴重な金属資源を必要なだけ無制限に使用する社会風潮が生まれてしまいます。発展途上国の経済成長によって金銀銅の需要が大幅に増加し、現在77億人の世界人口は、2050年には100億人時代へ突入。そこに「脱炭素化社会」の到来で、金銀銅の需要と供給のバランスは大きく崩れ、枯渇はいよいよ現実味を帯びてきます。

 鉱山開発に限界が見えてきた今、金銀銅の枯渇年数を少しでも抑える方策として金属リサイクルが挙げられます。金銀銅を大量に使用する自動車のリサイクル率は100%に近いものの、家電製品の多くは焼却・埋め立て処分されており、リサイクル率は20%以下となっています。家電製品は「都市鉱山」とも言われており、世界的な金属回収システムの構築は喫緊の課題です。そして、金属枯渇は金銀銅だけではありません。錫=25年後、亜鉛=23年後など、多くの金属は枯渇年数100年を切っています。これらの金属が枯渇した後は、埋蔵されている他の金属などで賄うことになりますが、総じて電導性や伸展性などに乏しいのが現状です。国連が掲げるSDGsの取り組みとして、脱炭素社会は主軸となる考え方ですが、副作用としてもたらされる金属の大量消費社会に対して、今後どのように向き合うのか。そこにも焦点を当てて、「脱炭素化社会」の全体像を考えるべきであると思っています。

銀座店営業再開のお知らせ

玉川堂 銀座店は、本日5月15日(土)より営業を再開しております。当面は、11時~19時の時短営業をいたします。
急なご案内で、ご来店予定を調整していただいたお客様にはご迷惑をおかけすることとなり、申し訳ございません。
クラーク一同、ご来店をお待ちしております。
《お問い合わせ先》
燕本店:
TEL 0256-62-2015
Email info@gyokusendo.com
銀座店:
TEL 03-5153-6264
Email ginza@gyokusendo.com

銀座店臨時休業のお知らせ

玉川堂銀座店は緊急事態宣言の発令によるGINZA SIXの休館に伴い、明日4月25日(日)より当面の間休業いたします。
ご来店を予定されていたお客様にはご迷惑をおかけし申し訳ございません。
営業再開の日程が決まり次第、改めてご案内いたします。
なお、休業中もお電話やEメールによるご注文・お問い合わせは承っておりますので、お気軽にご連絡くださいませ。
《お問い合わせ先》
電話:03-6264-5153
E-mail:ginza@gyokusendo.com

職人による「叩き場展」を開催します

ゴールデンウィーク期間中の3日間限定で、工場内の鍛金場(叩き場)にて職人主催の「叩き場展」を開催します。本展では、職人たちが業務時間外に製作した個性豊かな作品を展示いたします。会社の業務で培った技術、個人が独自の研究を重ね身に付けた技術。それらを活かし、自由な発想で作られた作品たち。普段は表舞台に出ることはない職人の素顔が垣間見える特別な機会ですので、お近くの方、ご都合がつく方はぜひお越しください。

お問い合わせはメール(kouba@gyokusendo.com)にてご連絡ください。

《叩き場展詳細》
日時:5月2日(日)~5月4日(火・祝)
10:00~16:30(最終入場16:00)
場所:玉川堂本店 工場内
新潟県燕市中央通2丁目2-21
(会場へは玉川堂本店入口よりお進みください)
入場料:無料

✳︎特別展期間中は、工場見学は行いませんが、本店店舗は営業いたします。皆様のお越しを心より申し上げております。
✳︎入替制ではありませんが、観覧環境保持のため、展示室の滞在時間を30分以内を目安にご観覧・ご利用いただきますよう、ご協力をお願いいたします。
✳︎感染症予防対策として、展示室内の人数制限をさせていただきます。入場をお待ちいただく場合がありますが、予めご了承くださいませ。

叩き場展(2021年5月2日~4日)

ゴールデンウィークの営業について

GW期間中の営業は以下のようにいたします。引き続き、感染症対策としてご来店時のアルコール消毒・検温にご協力いただいております。

燕本店では、5月2日(日)〜4日(祝)に、職人が就業時間外に自主制作した作品を展示する特別展を工場内で開催する予定です。
※会期中、通常の工場見学はお休みします。

《燕本店》
営業時間:8:30~17:30
4月29日(祝)午後のみ営業
4月30日(金)通常営業
5月1日(土)通常営業
5月2日(日)〜4日(祝)特別展
5月5日(祝)休業
5月6日(木)午後のみ営業
5月7日(金)8日(土)通常営業
5月9日(日)休業

《銀座店》
営業時間:10:30~20:30
※GW中無休