[第209号] 地場産業活性化の新たな施策「アルベルゴ・ディフーゾ」

 複数の空き家を利用し、街全体を一つの宿に見立てる、イタリア発祥の分散型ホテル「アルベルゴ・ディフーゾ」が日本でも人気を集めており、開業する地域は年々増加傾向にあります。「アルベルゴ」はイタリア語で「宿」、「ディフーゾ」は「分散」を意味し、1980年頃、北イタリアの廃村寸前の村を復興させるプロジェクトの一環として開始され、これが過疎化対策の好事例として大きな話題を呼びました。現在は、イタリアで250地域以上、地中海エリアでは300地域以上のアルベルゴ・ディフーゾが存在しますが、地域の空き家や歴史的建造物をリノベーションし、宿泊施設やレストラン、体験工房などに転用することで、観光客の誘致に繋げるなど、過疎化対策だけでなく、地場産業活性化の新たな施策としても大きな成果を上げており、今や世界的な広がりを見せています。

 総務省によると、全国の空き家数は約900万戸、空き家率は約14%ですが、20年後には約25%、4戸に1戸は空き家になると予測され、その中には文化財としての価値を有する建造物も少なくありません。古い建物を解体して新しいホテルを建てるのではなく、地域の歴史や文化を尊重し、既存の建造物をリノベーションすることによって、その街が紡いできた物語を、「生きた文化財」として次世代へ継承することが、アルベルゴ・ディフーゾの基本理念です。日本では2009年、兵庫県丹波篠山市「篠山城下町ホテル・NIPPONIA」が先駆けとなり、以降、全国で地域色を活かしたアルベルゴ・ディフーゾが次々と開業。現在、全国70地域以上、ほとんどの都道府県でアルベルゴ・ディフーゾが存在するほど、勢力を拡大させています。

 宿泊者は、まず分散型ホテルのメイン施設となるレセプションでチェックインを行い、施設だけでなく街の説明も受けます。その後は、まるでその街の住人になったかのように商店街などを散策しながら、空き家を改装した客室へ向かいます。夕食は地元で人気の飲食店で舌鼓を打ち、朝食は昭和の匂いが漂う喫茶店へ。そして、お土産は商店街の和菓子屋で、といったように、宿泊体験そのものが「まちあるき」となり、地域の文化や住民と深く触れることが最大の魅力です。私は、アルベルゴ・ディフーゾの成功事例として特に注目されている、千葉県佐原市と兵庫県丹波篠山市で宿泊したことがありますが、この時の体験に大きな感銘を受け、これからの日本の旅の楽しみ方になると同時に、地場産業活性化としても影響力を発揮すると、確信した次第です。

 街全体で旅行者をもてなす、という考え方は、地域社会に大きな波及効果をもたらします。街の景観美に大きなコストは掛けず、地域社会で残されてきた「ありのままの環境」であることがポイントであり、その街並みの中で、店主や住民との何気ない会話が生まれ、旅行者は「お客様」ではなく、「街の住人」のような感覚を味わうことが出来ます。「暮らすように旅をする」という、この程よい距離感が、アルベルゴ・ディフーゾの最大の魅力と言えるでしょう。また、地域における宿泊施設は限定されるため「オーバー・ツーリズム」は起こりにくく、また、地域住民が旅行者を受け入れる意識を高めることで、旅行者もマナーや節度を持った責任ある観光「レスポンシブル・ツーリズム」にも繋がっていきます。

 現在のアルベルゴ・ディフーゾは、商店街を中心とした商業地域が中心ですが、これからは、町工場が点在する工業地域、中でも伝統工芸業界においては、空き家となっている伝統工芸の工房の活用が期待されます。昭和50年代、全国で約30万人存在した伝統工芸の職人は、現在約4万人と大幅に減少しており、空き家となっている全国の伝統工芸の工房の多くは、手付かずの状態と言われています。その活用方法としては、例えば内装で各地域の工芸素材を活かして地域色を演出し、宿泊施設だけでなく、体験工房やショップなどにもリノベーションするなど、付加価値の創出の可能性を秘めた伝統工芸の空き工房は、日本の宝のように思えてなりません。全国、どの地域にもアルベルゴ・ディフーゾの活用方法は、必ずあるはずです。こうした活用方法についての議論がさらに深まり、空き家を「生きた文化財」として、後世に活かしていく社会を目指していきたいものです。