長い業歴のなかで、数々の災害や需要の変化などを乗り越えてきた老舗企業。世界国別の創業100年以上の企業数は、1位・日本(約33,000社)、2位アメリカ(約20,000社)、3位スウェーデン(約14,000社)、4位ドイツ(約5,000社)、5位イギリス(約1,900社)と続き、日本は世界比率41%を占める世界一の老舗企業大国です。さらに、創業200年以上となると、1位日本(約1350社)は世界比率65%まで上昇し、創業年数が増すごとに比率は拡大していきます。100年以上の老舗企業の割合を都道府県別で見ると、1位・京都府、2位・山形県、3位・新潟県、4位・福井県、5位・滋賀県と続き、江戸時代、北前船によって栄えた日本海側エリアに、上位が並びます。
日本に老舗企業が多い理由として、①戦後の一時期を除き、他国の支配を受けなかった。②日本人の勤勉性。③損得よりも顧客第一主義の国民性。④社員への面倒見が良い(暖簾分けは日本独自の風習)。そして、老舗企業の共通項として、①得意分野を構築し、長い年月をかけ、ひたすら磨き続けてきた。②お客様と長期的に良好な関係を築き、目先の利益は追求しないビジネスモデルを構築。③絶体絶命の状況でも、会社を存続させる強い信念。④自社の発展だけでなく、地域の発展も望む社風が養われている。つまり、社員、お客様、お取引先、そして地域からも、強固な信頼関係を作る「四方」良しの精神が備わっており、老舗企業とは「永く人から愛される存在」であると言えます。
一方で、足元では老舗企業の倒産や廃業が目立っており、2024年は過去最多となりました。「老舗=安泰」のイメージは崩れかけており、今、老舗企業の底力が問われています。中でも伝統工芸業界では廃業が深刻で、増加傾向に歯止めが掛かっていない状況です。最盛期の1983年(昭和58年)に約29万人存在した職人数は、現在、約4万人へ。そして、生産高は約5,200億円から約800億円と著しく減少。伝統的工芸品の産地数は全国で244存在し、産地の平均生産額は約3億円。このような状況下、職人の約40%は、年収100万円以下という低所得であることから、事業承継の意思が無いと回答する事業所は約70%も存在します。このような状況が続くと、伝統工芸業界の規模は、より一層縮小され、多くの技術が失われてしまうという危機的状況にあります。
日本企業の利益の半分は、約4%の大企業が占めており、残りの約96%は中小企業です。星野リゾート・星野代表は、「中小企業の経営手法は洗練されておらず、さらに、ファミリービジネス理論の導入も遅れている。一方で、それだけ伸ばす方法がたくさんあるわけで、いわば原石。中小企業の利益が倍になれば、日本全体で1.5倍となる。」とし、日本経済の成長力は、中小企業の成長にかかっていると指摘しています。中でも特に伝統工芸業界においては、世界有数の技術力に加え、歴史も文化も保有しており、それこそまさに、潜在価値を秘めた原石といえます。そこに経営理論が導入されることで、大きな発展が見込め、私は最も将来性の高い業界の一つであると考えています。
私は折に触れて、「伝統とは革新の連続」という言葉を用います。老舗企業の本質は「不連続の連続」であり、常に変化し続け、革新を遂げる力です。老舗だから変えられないのではなく、むしろ、老舗であることを理由に変えることが出来、変わらないこと自体がリスクであることを、身を持って体認しているのが老舗企業です。非同族企業における経営者の交代は平均約6年に対し、同族企業の場合は約30年。世代交代の時は一気に若返り、物事を全く違った目線で経営が行えるため、イノベーションの可能性が高まります。老舗企業は、30年周期で襷(たすき)を繋いでいく「駅伝」。その時代に合わせた経営手法で革新を行い、老舗企業の存在価値を高めていくことが、日本経済のみならず、世界経済の発展にも寄与していくものと考えています。