先月、台湾茶・台湾コーヒーを代表する産地「阿里山(ありさん)」の農園を訪問し、生産者と対話する機会を得ました。阿里山は山の名称ではなく、18の高山から成るエリア一帯を示す地域名を指し、台湾最高峰の茶葉・コーヒー豆を生産する地域ブランドとして、特にアジア圏の愛好家から絶大な支持を得ています。台湾は標高3000m以上の山が268座存在する世界一の高山密集国であり、その地形を生かした標高1000m以上の土地で栽培される「高山茶」「高山コーヒー」は、高山特有の朝晩の寒暖差、強い日差しと頻繁に発生する霧によって、香り高く、旨みが凝縮され、世界トップクラスの高品質を誇ります。
標高の高さは、高い品質を維持するための栽培要素である一方で、急斜面の畑が多く、機械力を駆使することが困難であるため、台湾茶・台湾コーヒーは手作業による少量生産となり、よって必然的に高価格となります。また、世界のお茶やコーヒー業界の多くは大企業傘下のもと、後進国での機械化大量生産が主流ですが、台湾はファミリービジネスにおける少量生産が主流です。近年はブランディングの意識の高まりによって、直販体制が構築され、さらに人材確保の観点からも適正価格を目指した高価格化が進んでおり、価格に関しても世界トップクラスです。ただ、最近の傾向として、最上級クラスを中心に、アジア圏の茶・コーヒー愛好家による買い占めが激化しており、中でも台湾コーヒーは、国内最大の消費地・台北市内においても品薄状態となっています。
台湾の高山茶・高山コーヒーは、高山の恵みと手作業による丁寧な栽培によって、極上の1杯が堪能できます。まず、「高山茶」の特徴として、高山特有のテロワール(土壌や気候など)を含んだ様々な香気が感じられます。①ズズっと、すするように飲むと、新緑のような清々しい香り「高山気(こうざんけ)」が鼻から頭全体へ広がります。②次に上質な甘み「回甘(ふいがん)」が広がりますが、飲んだ瞬間ではなく、次第に広がってくる甘みです。③それらの香気は、喉元を包み込むような余韻で満します。この余韻を「喉韻(ほうゆん)」と言い、台湾茶愛好家を虜にする所以です。これらは標高が高くなるほど強く感じられる傾向にあり、この感覚をマスターすると、台湾茶の楽しさは格段に広がります。台湾の高山が育むテロワールを五感で感じるお茶のひととき。是非、皆様もお試しください。
そして、台湾コーヒーは、台湾茶の土壌の影響を受けてか、どことなく台湾茶の香気がを感じられ、華やかな香りと、高山特有の美しい酸味が特徴です。複数のコーヒー農園を訪問しお聴きしたのは、その特徴を引き出すためには「焙煎は浅煎りにして欲しい」というのが、生産者の共通の想いだということです。コーヒー豆は「コーヒーチェリー」という果実の種であり、もとはフルーツ。焙煎を強く(深煎り)するほど、焙煎の香ばしさが勝ることから、「焙煎によって素材感を崩してはいけない」という信念を持っており、阿里山の生産者直営のカフェでは、全て浅煎りで提供されます。世界のコーヒー業界は、セカンドウェーブ(深煎り)からサードウェーブ(浅煎り)へと移行しており、焙煎香は出来る限り弱めにして、コーヒー豆のテロワールを五感で感じる時代になっていることを、あらためて体認しました。
茶畑の隣にコーヒー畑が存在する、珍しい光景が広がる台湾。お茶とコーヒーが、同じ産地で産業として発展していることは、世界的にも稀なケースであり、台湾農業の特異性とも言えます。長年に渡り継承された茶栽培の技術が、近年、畑の面積が拡大しているコーヒー栽培の技術にも応用され、産地内における異業種連携も盛んに行われています。先祖代々、一族の繋がりを大切にする台湾人は、自国の文化を尊重しながら、より高い栽培技術の向上を目指し、高価格ではあるものの、その品質には揺るぎない信用性があります。この度の視察は、台北市内の直営店で、阿里山高山茶を製造販売する社長のご案内による3日間の阿里山訪問でしたが、歴史と文化に触れ、生産者のものづくりの想いをお聞きし、多くの気付きと学びがありました。実際に産地を訪問し、生産現場を生で見る、そして生産者へ耳を傾けること。この重要性を再認識した視察となり、燕三条の産業観光、玉川堂の工場見学にも活かしていきたいと思っております。