[第187号] 台湾茶の香りを聞く

世界のお茶の起源は約4700年前(紀元前約2700年)、中国雲南省・四川省周辺での茶栽培とされ、中国で広く茶栽培が行われたのは唐時代(618〜907年)以降です。日本では平安時代初期(810年頃)、遣唐使によってお茶の種が伝わったことが起源とされ、茶栽培が広く浸透したのは鎌倉時代後期(14世紀)以降です。そして、台湾では約230年前、台湾の対岸である中国・福建省より苗木が輸入されたことが起源とされ、国史の関係上、中国や日本と比較するとかなり後発ですが、1970年代以降、台湾内需の増加と共に茶産業は飛躍的な発展を遂げ、今や世界に冠たるお茶王国として君臨しています。

お茶は、①緑茶・②白茶・③青茶(烏龍茶)・④黄茶・⑤紅茶・⑥黒茶(プーアル茶)の6種類に大別されますが、もとは全て同じ茶葉であり、発酵度合によって種類が分けられます。不発酵の①緑茶から、完全発酵の⑤紅茶の順に発酵度合が強まり、⑥黒茶のみ微生物を利用した後発酵となります。台湾茶の多くは半発酵の③青茶であり、中でも「凍頂烏龍」「東方美人」「文山包種(ぶんさんほうしゅ)」「木柵鉄観音(もくさくてっかんのん)」は、台湾4大銘茶と称されますが、この4種の中でも、発酵度低め(15〜20%)の文山包種は緑茶の香りに近く、逆に発酵度高め(70〜80%)の東方美人は紅茶の香りに近いなど、それぞれにタイプが異なります。台湾茶の全体像を理解するためには、まずはこの台湾4大銘茶から飲み始めることをお勧めいたします。

そして、さらに台湾茶の奥深さを味わうためには、標高1000m以上の茶畑で栽培された「高山茶」の存在が欠かせません。台湾には南北に連なる山脈があり、「阿里山(ありさん)」を筆頭に、「杉林渓(さんりんけい)」「梨山(りさん)」の各産地で栽培された高山茶は、台湾3大高山茶と称され、台湾茶における地域ブランドの代表格です。年中雲霧に覆われ、昼夜の寒暖差の激しい環境で栽培された茶葉は成長が緩やかとなり、養分をたっぷりと蓄えることから、標高が高くなるほど香りも高くなる傾向にあります。高山茶の香りは「高山気」と称され、ズズッと空気を含ませるようにすすると、高山茶特有の香りが鼻から頭へと抜けるように、五感を刺激します。それはまさに、高地に咲く花のように甘い香り、高原の空気のように澄み切った味わい。そして、長くいつまでも続く余韻に、心と身体が解き放たれるような感覚を覚えます。

日本茶は蒸す製法で「旨味」を重視することに対し、中国茶・台湾茶は炒める製法で「香り」を重視します。台湾茶の世界では、香りを楽しむことを「香りを聞く」と表現し、専用の杯「聞香杯(もんこうはい)」という茶器があります。1970年代に開発された台湾発祥の茶器で、筒状の縦長のため、香りが立ち上がりやすく、香りをダイレクトに聞けることから、台湾茶を楽しむための道具として必需品です。日本でも「香りを聞く」風習があり、香道の世界では、香木の香りを聞くことを「聞香」と称し、また、日本酒の香りを聞く「利(聞)酒」は、広く知られている名称です。これらは香りを嗅ぐこととは異なり、心を傾けて香りを聞き、心の中でその香りをゆっくり味わうことを意味します。

日本の「茶道」を参考とし、1970年代、台湾では「茶藝」という用語が生まれました。形式や流派に捉われず、自分好みのお茶の道具を揃え、自分好みのお茶の淹れ方で香りを聞くことを目的としており、店主好みの淹れ方で香りを聞くカフェ「茶藝館」も次々と開業しました。玉川堂では月1~2回、終業後にお茶会(茶藝会)を行なっています。中国や台湾出張の際に購入した茶葉を使用し、銅器だけでなく、様々な素材の茶器を使用する「香りを聞く会」です。茶器の形状や素材の違いによっても、香りの聞こえ方が変わり、毎回新しい発見があります。心を癒す香りと、舌から広がる深い味覚の世界に身を委ねると、新たな自分との出会いが生まれてくるように思えます。