[第183号] 急須を愛でる「養壺(やんふう)」

茶樹の原産地は中国・雲南省周辺とされ、お茶を飲むルーツもこの周辺とされています。雲南省・普洱(プーアル)市は、普洱茶の産地として樹齢千年以上の茶樹が多数現存しており、先月9月17日、10世紀よりこれらの茶樹を管理してきた古樹林の文化景観が、茶の分野としては初めて世界遺産に登録されました。このような古樹から栽培された茶葉には栄養分が凝縮され、極めて芳醇な香りがあり、さらに数十年以上熟成させた茶葉には高い価値が付けられます。また、福建省や台湾などを中心とした烏龍茶も同様に、数十年以上熟成させた茶葉には高い価値が付けられ、ビンテージワインさながらそれらを長期保存し、お祝い事に誕生年のビンテージ茶葉を楽しむ風習も盛んです。

お茶は全て椿科の樹木「カメリア・シネンシス」の茶葉であり、発酵の度合いによって6種類に分類されます。①不発酵「緑茶」、②微発酵「白茶」、③弱発酵「黄茶」、④半発酵「青茶(烏龍茶)」、⑤完全発酵「紅茶」、⑥加熱処理した後、微生物の働きを利用する後発酵の「黒茶(普洱茶)」。日本と中国では製法が異なり、日本茶は「旨味」を重視するため蒸す製法に対し、中国茶は「香り」を重視するため炒める製法を採用しています。また、茶器の名称も異なり、急須は「茶壺(ちゃふう)」、湯呑は「茶杯(ちゃはい)」などと呼ばれ、飲む前のテイスティング用「聞香杯(もんこうはい)」は、お茶の香りを重視する中国茶ならではの器と言えるでしょう。

中国茶用の急須は、香りを散逸させないよう、一度に飲み切る量だけ抽出する小振りのサイズが主流で、異なる茶葉の香りが混じらないよう茶葉によって急須を使い分けることも、基本的な作法となります。この中国茶用の急須の多くは、江蘇省・宜興(ぎこう)市で生産されています。約1万軒の工房が技を競い合う世界最大の急須産地であり、中でも宜興で産出する「紫砂泥(しさでい)」の急須は、中国茶愛好家の必需品です。日本では江戸時代、愛知県常滑市「常滑焼」が宜興の急須を参考に独自の作風を構築し、日本一の急須産地として発展。現在、宜興市と常滑市は友好交流都市提携を締結し、急須技術の交流を推進しています。

宜興の急須は「気孔」と呼ばれるミクロ単位の小さな穴が無数に空いています。急須内側の気孔は、茶渋などの茶成分が染み込むことで、お茶の香りを引き立たせる重要な役割を果たし、長年使用している宜興の急須は、お湯を入れるだけで豊かな香りが漂います。そして、急須外側の気孔には、素焼きの色合いを深めるため、「養壺筆(ようこふで)」という筆に飲み終わったお茶を染み込ませ、外側全体に満遍なく塗ります。養壺筆も中国茶には欠かせない道具であり、お茶を楽しんだ後はじっくりと筆で塗ることで、急須の経年変化を楽しみます。

このように急須(茶壷)を日々愛用し、繰り返しお手入れすることを「養壺(やんふう)」と言い、親戚や友人同士で「養壺」の急須を見せ合う風習もあります。文字通り、茶「壷」を「養」うことであり、養壺の目的は、急須を愛でることにより、自分自身の内面を磨く(=養う)ことにあります。また、「養壺」の「壺」(ふう)の発音が「福」と同じであるため、「福を育てる」という意味にも通じ、急須を「養う」ことによる心の豊かさが、お茶をより一層美味しくさせ、幸福な人生を送ることにも繋がると語り継がれています。この「養壺」の精神は、玉川堂ブランドメッセージ「打つ。時を打つ。」にも通じ、急須を愛で、お茶の文化を重んじる心は、国境を超えて大切していきたいと思っております。