[第171号] 究極のコーヒーを求めて

 本日10月1日は「国際コーヒーの日」。日本では全日本コーヒー協会により、約40年前から10月1日が「コーヒーの日」と制定されていましたが、世界各国が独自で制定しているコーヒーの日は一致しておらず、それぞれにコーヒーイベントが開催されてきました。そこで、コーヒーの日を世界で統一しようと、世界75ヵ国(日本も加盟)が加盟する国際コーヒー機関(ICO)が指揮を取って定めたコーヒー新年度が10月1日であることから、2015年より正式に10月1日を「国際コーヒーの日」と制定。以来、世界一斉でこの日にイベントが開催されるようになり、コーヒー関連の団体や企業、そして全国各地のコーヒーショップなどでは、キャンペーンや企画品などが目白押しで、毎年賑わいを見せています。

 人口一人当たりの国別コーヒー消費量は、北欧(フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク)が常に上位にランクインしており、アジア圏ではお茶文化、欧州ではワイン文化が根付いているように、北欧ではコーヒー文化が根付いています。北欧以外の欧州では、エスプレッソをはじめとする「深煎り」が主流ですが、北欧では「浅煎り」が主流であり、浅めの焙煎によってコーヒー豆(コーヒーチェリー)本来の味わいを引き出し、酸味の効いたフルーティーな香味を楽しむのが北欧スタイルです。北欧では浅煎りを「ノルディックロースト」と呼んでいますが、「ロイヤルコペンハーゲン」「イッタラ」を筆頭にリビング用品の世界的ブランドが多く、そのノルディックローストを生かすためのコーヒー道具やカップ類の開発も盛んな地域です。

 近年、日本や中国などのアジア圏でも、浅煎りが主流になりつつあり、私も毎日のように浅煎りコーヒーを楽しんでいます。その背景としてお茶文化があり、特に黒茶・紅茶などの中国茶は、浅煎りの味覚に比較的近いものがあるため、アジア人の嗜好に向いているのかもしれません。また、豆の生産地のみならず、生産への想いも感じながら味わおうと、コーヒー農園に対する意識が高まっており、ワインと同様、豆のテロワールの違いを楽しむ時代となりました。コーヒー豆の販売店では、農園の特徴や生産者の想いを説明するお店も増えてきたことから、より自分好みの豆を選択できるようになり、生産者と消費者の距離が縮まっていることを実感しています。浅煎りは焙煎を控えめにする分、豆本来の味覚を感じやすい、つまり、生産者の想いとテロワールを感じやすいことから、今後、アジア圏のみならず、世界的に浅煎りの傾向が強まるのではないかと考えています。

 コーヒーの淹れ方は十人十色で、コーヒー愛好家へ自分好みの淹れ方を問うと、それぞれ違う回答が返ってきます。しかし、一点だけ共通することがあり、それは、挽いた粉ではなく豆の状態で購入し、淹れる直前に豆を挽くことです。コーヒーは「究極の生鮮食品」であり、挽いた瞬間から香味を含んだ炭酸ガスが放出され、一晩空気に触れるだけでも味覚に影響が出ます。なお、抽出の注意点として、豆を挽く際の「粒度」は、細かいと濃く抽出され、荒いと薄く抽出されます。抽出のお湯の「温度」が100度〜95度位の場合雑味が強調されるため、およそ90度に冷ましますが、90度以上の温度は濃く抽出され、それ以下の温度は薄く抽出されます。その他、抽出のポイントはいくつかありますが、中でも「粒度」と「温度」の2つは味覚を決定する大きな要素となります。まずは粒度と温度で色々試し、自分の好みの「度合い」が見つかると、コーヒーの楽しさや世界観は一気に広がります。

 コーヒーを抽出するための道具は多種多様ですが、豆の素材を最大限に引き出すという点において、私個人の見解では「ハンドドリップ」が最も適していると思っています。つまり、コーヒーポット、ドリッパーを使用する抽出方法です。淹れ方の技術で味覚に影響が出やすいものの、正しい知識をもとに淹れることで、豆の持つ素材力を存分に感じる究極の一杯に仕上がります。弊堂のコーヒー関連の製品も、ハンドドリップを前提とした商品開発を行なっており、胴体と注ぎ口の形状バランス、注ぎ口から出るお湯の流れ方、グリップの持ちやすさなど、職人と共にコーヒーを淹れながら、日々研究を重ねています。美しい形状とは、道具としての機能を高めることによって必然的に生まれ、いわゆる「機能美」を追求することがものづくりの原点。この私たちのコーヒーに対する想いを、実際に手に取って感じていただければ幸いです。

 コーヒーカップの形状も、味覚に影響を与えます。カップは日本の伝統工芸の他に、欧州や中国の景徳鎮など、こちらも多種多様に存在し、あくまで私の感覚ですが、浅煎りの場合、できるだけ縁が薄いカップを、そして、エスプレッソなどの深煎りは縁の厚いカップを使用すると、より味覚が伝わりやすくなります。浅煎りの場合、一般的な筒形のコーヒーカップよりも口広形のティーカップ(紅茶用)を使用すると、浅煎りの特徴である酸味の美しさが際立つと感じており、私は縁の薄いティーカップを求め、国内外の生産者をリサーチしています。幾分涼しい気候になり、暖かいコーヒーが美味しい季節となりました。本日10月1日「国際コーヒーの日」を契機に、皆様それぞれの味覚に合う至高の一杯を求め、コーヒーのひとときを楽しんでみてはいかがでしょうか。