[第150号] 経済成長の鍵を握るファミリービジネス

 日本国内において、創業100年以上の企業は約33,000社存在し、世界比率は約40%を占めています。さらに創業200年以上となると約1300社、世界比率は約65%と増加し、日本は世界に誇る老舗企業王国です。さらに、日本企業の96.9%が同族企業と圧倒的シェアを占め、日本人労働者の約70%は同族企業で働くファミリービジネス王国でもあります。日本においてファミリービジネスは、古い経営形態として捉える傾向も見受けられ、しかも、経営学の学問としては未開拓の分野です。しかし、数字に表れているように企業の長期に渡る持続的成長に深く関与していることから、日本のファミリービジネスからヒントを見出そうとする海外企業は多く、欧米ではファミリービジネスの研究は盛んに行われており、学問としても飛躍的に進んでいます。

 日本のGDP(国内総生産)の半数は同族企業、残りの半数は上場企業を中心とした非同族企業が占めています。大手企業が利益を倍にすることは難事なことですが、中小の同族企業であれば、そのハードルはかなり下がります。経営手法の洗練度は大手企業と比較すれば、中小の同族の方が劣っているケースが多いものの、経営改善の余地が大きい分だけ企業成長のポテンシャルが大きく、日本経済に与えるインパクトも大きくなります。ファミリービジネスの「家業継続の実情」が「経営理論」として体系化され、中小の各同族企業がその理論を応用し、実践していくことで業績が向上すれば、地域経済の活性化にも繋がる。日本のGDPの半数を占めるファミリービジネスが、日本経済の展望の行く末を握っていると言ってもいいでしょう。

 創業100年、星野リゾート4代目・星野佳路社長は、日本のファミリービジネス研究の第一人者でもあります。その星野社長曰く、「ファミリービジネスの最大の長所は、およそ30年ごとに経営トップが一気に若返ることで、これまでのビジネスモデルの検証が抜本的に行われ、30年に一度のタイミングで大イノベーションが起こる。そこに強みがある。」と主張しています。この代替わりをイノベーションに繋げていくには、後継者はリスクを取れる若い年齢の時に思い切って経営することが重要です。世代交代する時は、ある程度一気に任せる経営者の覚悟も必要で、この世代交代のあり方に、企業の長期的な持続性を担保する仕組みが隠されているのではないかと考えます。

 私の場合、大学卒業後すぐに玉川堂へ入社し、間も無くして六代目の父親から経営の軸を任されました。ファミリービジネスとしても異例の、早期での経営のバトンタッチと言えます。バブル崩壊の影響で経営が傾きかけ、私の入社と同時に職人を半数解雇するほどの深刻な状況にあり、1日も早く会社を立て直して欲しいというのが父親の願望でした。既存の経営手法に行き詰まり、いざ自分が経営の手綱を握った時、六代に渡って継承されてきた玉川堂を、自分の代で途絶えさせるわけには絶対にいかないという気持ちが、これまでの経営手法を破る発想を生むモチベーションとなり、問屋商売から直販への流通改革の着想と実行に繋がりました。次世代に会社を繋ぐ使命感は血縁という繋がりゆえ、常に腹の底に重石のように在り続け、これがファミリービジネスならではの長期的経営視点の基であると感じています。

 同族企業の経営者の平均在任期間は約28年、非同族大企業の経営者の平均在任期間は約5年というデータがありますが、非同族大企業の経営者は短い在任期間中に事業を完結させる傾向が強くなります。一方、同族企業の経営者は、短期的な経済環境の変化や目先の収益に惑わされない、事業継承のための長期的視点で経営判断を行うことが求められます。また、長期的な視野で投資を行い、従業員の長期雇用を重視し、後継者育成を早期の段階から計画的に実施出来ることも強みです。さらに、長年に渡って地域に根ざした事業を展開していることから、自社の発展と共に地域の発展も担う社風が養われています。玉川堂は過去幾多の不況時も、地域の力を借りて都度乗り超えてきており、相互扶助の精神が長い年月の中で自然と醸成されていることも、ファミリービジネスの特長の一つと考えます。

 新型コロナの影響により、世界経済は深刻なダメージを受けており、今年2021年も引き続き厳しい経済状況が予測されます。そのような状況下、今年もウィズコロナに即応する目先の利益を追求していくのか、それとも長期的な持続可能性に注視していくのか、どちらを重視するかといえば、ファミリービジネスは後者となります。また、未曾有の事態こそ次世代の育成チャンスであり、過去のしがらみのない後継者がイノベーションを起こしやすい社会環境でもあることから、後継者のいる同族企業は、今年は事業継承の好機と捉えることも一つでしょう。日本経済の成長力の鍵は、同族企業がいかに若い世代へと事業継承させ、成長させられるかにあると言えます。そのような観点から、2021年はファミリービジネスの真価が問われる年であると考えています。ファミリービジネスの家業継続の実情が経営理論として体系化されることに注視しつつ、ファミリービジネスとしての自社を多角的に見直す1年にしたいと思っております。