[第142号] アフターコロナを首都圏からの機能分散の機に

 世界人口は年間1億人に近い数値で増加しており、今後30年間でさらに約20億人の増加が見込まれています。その人口増加に伴い、森林などの自然破壊は深刻さを増しています。自然が破壊されることで様々な動物が近接せざるを得なくなり、病気が動物から動物へ伝染し、それが新型のウイルス形成の要因になっていると言われています。それら食用として狩られた野生動物は、アフリカやアジア地域の食肉市場で販売され、さらには、集約農場で年間数十億匹の動物が容赦なく詰め込まれているという現実。こうした環境が蔓延していくことで、ウイルスの種が動物から人間へ伝染していきます。ここ100年間を振り返っても、多種多用な新型ウイルスが発生していますが、全ては自然破壊の副産物とされ、人々は公衆衛生と医学の進歩によりこれらの感染症を克服してきました。

 しかし世界は、またも新型ウイルスの脅威にさらされています。しかも、近年発生した新型ウイルスによる影響を比較すると、世界経済へのダメージは深刻です。世界各地からもたらされたウイルスは、人口密度の高い都市ほど感染リスクも高まります。中でも東京は世界一の人口密度の高さで、首都圏人口は約3800万人。2位ジャカルタ3200万人、3位デリー2700万人と比較しても、首都圏の人口集中は世界でも突出しています。1950年代、首都圏人口が国内総人口に占める割合は約15%でしたが、現在は約30%と年々肥大化しており、それに伴って鉄道網も発達。過度に集中した都心の職場へすし詰めの満員電車に乗って通うという、世界でも稀な働き方が主流になり、ここでも感染リスクが高まります。

 首都圏の集中の弊害は、感染リスクだけではありません。いつ発生してもおかしくない直下型地震、都市人口を支えるために地方都市から大量のエネルギーや食料などが運び込まれる日々。首都圏が大災害にあった時の日本経済へ与える影響は計り知れません。誰もがこの社会構造では、持続可能な社会の構築は難しいと考えていながらも、変化のきっかけが掴めませんでした。この度の新型コロナを教訓に、効率性を追求する社会構造を根本から見直し、首都圏集中の社会構造を変えていくことが、アフターコロナの日本最大の課題ではないでしょうか。世界人口の増加により、近い将来再び新型のウイルスの発生が懸念されており、この社会構造を変えることが出来なかった場合、日本経済のダメージは今回以上に大きくなることは容易に予測出来ます。

 経済効率の良さという日常の論理から、ウイルスや災害に備えた非常時の論理を優先し、まずは、省庁の地方移転を再度議論すべきでしょう。1992年「国会等の移転に関する法律」が成立しましたが、各地方都市からの誘致合戦が熾烈を極め、結局実現には至りませんでした。しかし来年2021年、文化庁が京都へ移転することで、次に続く省庁移転を早急に検討して欲しいものです。そして、首都圏からの分散論を地方創生と一体として政策化し、過疎化対策、地域の教育や医療の充実、地場産業の活性化などに繋げていきたいものです。ここ数ヶ月間でテレワークを採用する企業が急激に増え、首都圏に人が集まらなくても高い利便性が実現出来るようになりました。今後、テレワーク機材は人間の五感に及ぶ進化が見込まれ、省庁のみならず、企業本社機能の地方移転もこれまでのハードルが下がっていくものと考えます。

 アフターコロナの日本は、グローバリズムからローカリズムへと、大きく変化していくものと考えています。首都圏にお住いの方々の地方移住も増加が見込まれます。自然を破壊して新興住宅地を作るのではなく、増加に歯止めが掛からない空き家のリノベーションを進め、官民一体となって空き家対策を行い、温かく首都圏の方々を受け入れたいものです。そして、地方のインバウンドも大きく様変わりします。海外の団体客が大挙して観光名所を訪れる現象は影を潜め、今後は、個々人の趣向に合わせた地方での過ごし方に焦点が集まります。観光力=人間力、つまり、訪日外国人と地域の方々との、より親密な関係作りが、今後の観光のあり方になっていくでしょう。戦後最大の危機を国民の力を合わせ、より良い日本へ、そして、より良い日本人へ。アフターコロナには、困難を乗り越えた先に生まれる新たな価値を見出し、それを具現化する日本が到来するものと信じています。