[第134号] 日本人のものづくりの精神が醸す、 ジャパニーズ・ウイスキーの魅力

 ジャパニーズ・ウイスキーの快進撃が続いています。ヨーロッパの名だたるコンクールで毎年優勝し、今や日本は、スコットランドやアイルランドなどと並んで「世界5大ウイスキー」と称されており、名実共にウイスキー王国・日本の地位を確立させました。ジャパニーズ・ウイスキーの歴史は100年に満たず、世界5大ウイスキーの中ではかなり後発ですが、日本人のものづくりの精神がウイスキー醸造にも反映され、評価は年々うなぎ登りです。先日8月16日、希少なジャパニーズ・ウイスキーが香港で競売に掛けられ、約1億円で落札されたことから日本でも大々的に報道され、ジャパニーズ・ウイスキーの世界的な評価があらためて示された形となりました。ハイボールブームや朝ドラ「マッサン」のヒットなどを受けて需要が拡大し、取り巻く環境はこの10年で激変しています。

 ウイスキーの語源は、スコットランドの言語であるゲール語で「命の水」を意味します。日本は軟水のため、まろやかな味わいになる傾向にありますが、1本のウイスキーを製造するために、想像を絶するほどの労力と時間を掛けており、中でも有名銘柄は、3年から数十年熟成された数千〜数万の樽の中から目的の味に到達するために必要な100種以上の原酒を用い、官能検査というわずかな味や風味・香りの違いを選別する、まさに五感を総動員させてのブレンドを行い、再び熟成させるための再貯蔵を行います。このような工程を経てようやく一本のウイスキーが完成しますが、日本人が古より酒にこだわり、深い研究心を持って積み上げてきた酒造りの知恵は、例えばウイスキーの発酵の段にも生かされるなどし、繊細な感性で追求する姿勢と伝統の技術が、世界に認められる品質を実現したのです。

 財務省の貿易統計によると、日本の酒類の輸出は、量と額共に毎年急増しており、2018年の輸出額は日本酒222億円、ウイスキー150億円となっています。ウイスキーの2010年輸出額は17億円であり、ブームと共にわずか10年で、一気に約10倍増えたことになります。ウイスキーの輸出増加率は特筆すべきものがあり、輸出額において長年1位の座を君臨している日本酒に迫る勢いとなっています。さらに、訪日外国人の増加も、人気に拍車をかけています。日本で提供されるジャパニーズ・ウイスキーの味や香りに魅了され、お土産の購入や帰国後のネット通販での購入など、ファンを確実に増やしており、さらには日本のウイスキー蒸留所の工場は、訪日外国人の見学名所として注目され、来訪者の約30%が訪日外国人という人気ぶりです。

 このように国内外の消費が急激に増加したため、市場では慢性的な品薄状態が続いており、一部の銘柄は原酒不足のため販売終了となりました。中でも有名銘柄のビンテージ物は枯渇状態で、定価の数十倍以上で取引されている銘柄もあり、さらには転売も横行しています。ジャパニーズ・ウイスキーの国内年間消費量は1983年の38万klをピークに、2007年には7万klと約80%も落ちたため、当時は将来的に大きな需要は見込めないと推測され、業界全体でウイスキーの原酒は減産体制になるという「冬の時代」もありました。しかしその予測に反しての急激な大ブームは、突然到来したのです。ビールなどの醸造酒のように短期間で市場に流せる商品ではなく、数年から数十年樽熟成させる、手間も時間もかかるウイスキーですから、需要と供給のバランスが全く取れていない状態になっているのが現状です。

 このような原酒の品薄状態の中、大手メーカーの原酒不足を絶好の商機と捉え、全国の酒造会社などが相次いでウイスキー製造に乗り出しています。原酒の生産には少なくても数年、より理想形を追求すれば、10年以上の長期熟成が必要となり、投資回収が長期化する難しいビジネスですが、今後は地ビールに続き「地ウイスキー」が新たな地場産業として発展していく可能性も出てきました。しかし、日本の酒税法で規定されるウイスキーの品質基準は、世界5大産地のそれよりも製法や表記の点に於いて明確な規定がないため、いまその基準を見直そうという動きも出てきています。ジャパニーズ・ウイスキーは日本のものづくりの精神と日本の豊かな食文化によって育まれた、日本が誇る無形の文化財。永年に渡り築き上げた大手メーカーの世界的な評価を損なうことなく、ジャパニーズ・ウイスキーの世界的地位のさらなる向上を期待したいものです。