[第133号] 地域の「食」を線で結ぶ。 新潟・庄内ディスティネーションキャンペーン

 新潟と庄内をガストロノミーの聖地へ。1978(昭和53)年、国鉄時代に始まったディスティネーションキャンペーンは、北海道から九州までのJR6社が現地の自治体や旅行会社などと協力し、地域の新たな観光素材をPRし誘客する、国内最大の観光プロジェクトです。今年10月1日〜12月31日の3ヶ月間は、「新潟県・庄内エリア ディスティネーションキャンペーン」が企画されており、「ガストロノミー(美食学)」をテーマとした国内観光プロジェクトとしては、過去最大規模となります。日本海側、特に新潟県と山形県の庄内エリアは、高品質の米・日本酒・魚だけでなく、数多くの在来種の野菜・発酵食・保存食などの食文化が、今もなお深く生活に根付いており、それらは極めて多種多彩。その彩り豊かな食文化は、日本を代表する食文化都市として知られる京都を凌ぐスケールとも言われています。

 明治初期〜中期の日本の人口は、新潟県が全国一、もしくは常に上位を有しており、さらに全国の高額納税番付の上位の多くは新潟県人が占め、今も豪農の館が新潟県内に多数現存しています。新潟は稲作に適した気候で、米の収穫量が大変豊富な土地柄。当時の日本経済は、第一次産業中心に展開していたため、日本の産業は新潟を中心に動いていました。さらに、当時の運送の主役は日本海側を経由した北前船であり、新潟は日本海側最大の港町として栄え、朝鮮や中国大陸との交易も盛んとなれば、国内外から特徴ある食文化が新潟へ流入することで、新潟の食文化も大きく発展し、北前船で訪れる全国各界の著名人たちは、新潟の食レベルを高く評価していました。それに付随し、新潟の伝統芸能も発達。新潟古町芸妓は、京都の祇園、東京の新橋と並び日本三大芸妓と称され、粋を凝らした料亭が軒を連ねる中、格式の高い芸妓の舞で来訪者をもてなし、新潟の食文化を彩りました。

 明治30年代以降、鉄道などの発達によって北前船は衰退し、日本の経済は太平洋側中心に展開していきましたが、江戸時代〜明治時代にかけて根付いた新潟と隣接する庄内地方の質の高い食文化は、今も連綿と受け継がれており、今回のキャンペーンでは、新潟県内7エリア、山形県庄内1エリアの合計8エリアの食文化をPRしていきます。①新潟・阿賀(港町文化と料亭)②村上・新発田(城下町文化)③弥彦・三条(食文化を支える旦那衆)④長岡・柏崎(北前船と醸造文化の地)⑤湯沢・魚沼(雪との共存「雪国文化」)⑥妙高・上越(謙信公が残した食文化)⑦佐渡(佐州と公家文化、そして金銀山)⑧庄内(出羽三山に息づく精神文化)。新潟県の海岸線は直線で東京と名古屋を結ぶ距離があり、庄内を加えると東京と琵琶湖間の距離となり、その北と南では大きく文化が異なります。ゆえに、それぞれ異なる食の魅力を内包した8エリアとなっており、それぞれに個性が際立っています。

 この、世界に誇れる多種多彩な食文化を世界へ発信しようと、行政も動き出しました。新潟市は農業分野で国家戦略都市に指定され、2016年にはG7新潟農業大臣会合、今年はG20新潟農業大臣会合が開催されるなど、食と農のジャンルで選ばれる都市となってきました。田園と港町の共存による食文化を活用し、食を通じて地域の活力を創造する食文化創造都市の構築を推進しており、今回のキャンペーンに繋がりました。国際産業観光都市を目指す私たち燕三条としても、新潟・庄内8エリアの点を、燕三条と線で結ぶ契機となるキャンペーンと位置付けています。国内外から観光客を誘致し、さらに再訪につなげるためには、金属加工技術だけでなく地域の食文化の発信も不可欠です。味覚の記憶はその土地を人々に強く焼き付けます。金属加工・農業・料理人との関係性をさらに深めていき、食を通じて地域を知り、楽しむことができる魅力的なコンテンツ開発の構想を、今改めて編む時であると考えます。

 全国各地でも「食」による町おこしが盛んに行われています。「モノ」を推して売る時代は終焉を迎えており、これから売るべきものは、わざわざ旅してまで体験したい「コト」と「トキ」です。中でも旅行者が求めているのは、各地域の食文化を楽しみ、そして学ぶこと。そこでキーワードとなるのが「ガストロノミー」です。食を旅のおまけではなく、旅の主目的として位置付け、食を通じてその土地の歴史や文化などを体験する観光コンテンツとして磨き上げ、地方都市から世界へ発信することが求められています。単に美味しい食を提供するだけではなく、その背景にある自然・食材・調理法、さらには歴史・文化・地場産業などを知り、食を通して地域の魅力を一体的に体験と共有できる新たな観光形態「ガストロノミーツーリズム」は、もはや地方創生に必要不可欠な存在。そこに地域を挙げて取り組む地方都市に、今後、多くの訪日外国人が訪れることでしょう。