[第87号]6次産業による農業活性化

日本の農業の競争力を高め「強い農業」を実現すべく、6次産業化の必要性が叫ばれています。6次産業とは、1次産業=農業、2次産業=工業、3次産業=サービス業、これらを全て足すと「1+2+3=6」となることから「6次産業」と呼ばれています。自ら育てた農産物を加工品として生産し、それを自ら販売することで農作物の付加価値を高め、収益を増やす農業経営の実現を目指し、国が積極的に進めている事業です。特にTPPの議論が始まってからは、TPPに対応すべく国際社会での競争力を持ち、海外の農産物に対抗するため、自らの農産物に対し、どのようにして付加価値を高めていくのか。その手法として6次産業がクローズアップされています。

ヨーロッパの先進諸国の農家は、高い国際競争力を保持し、農作物の高い付加価値水準を実現させており、安定した高収入を得ています。また、農場、加工所、レストラン、宿泊施設などが一体となって、モノ、人、お金の循環を作り、幅広い雇用と観光客を生み出しており、6次産業の先進的事例としても知られています。しかし、日本は流通業者への依存度が極めて高いため、こうした取り組みは浸透しておらず、日本の農業経営は市場価格や天候の出来不出来に左右されやすいというのが実情です。日本の農業がこうした状況から脱却し、日本の食や農地、田園風景といった地域資源を維持、発展させていくためには、6次産業による農家の自立と、近代的経営手法の導入が求められています。

日本の農業が衰退している一番の原因は、農家が農作物を作ることだけに集中し過ぎたことにあると考えています。農作物は流通業者へ丸投げの状態で、多くの農家は顧客目線の事業運営が出来ていないというのが実情です。今、時間に追われている都市部の住民が求めているのは、鮮度の高い野菜や果物だけでなく、手早く調理できる美味しい加工食品がコンスタントに入手できることであり、加工品の需要は年々高まっています。農家が加工場を所有すれば、農家の閑散期に加工食品を生産することが出来、農繁期と農閑期の差が無くなり、何より農家にブランディングの鉄則である価格決定権が生じます。農産物より加工品を売る方が高く売れるため収入は増加し、また、加工場の稼働率が上がることによって雇用も生まれてきます。

6次産業は、農作物のブランド化や収益の向上が期待できる一方、まず最初に立ちはだかる壁は、資金調達、人材確保、商品開発、販路拡大など、事業運営のノウハウ習得です。家族経営の農家が、加工品の生産(2次産業)や小売(3次産業)に至るまでの全ての業務を行なうことは、様々な要素でリスクを伴います。このようなリスクを低減するために、まずは食品加工メーカー(2次産業)と食品小売店(3次産業)などとの共同事業による、農商工連携からスタートしていく事例が多数ですが、中には「お客様の元へ届くまで、全て自分たちの手でこだわりたい」との想いで、加工品の生産、小売という全ての業務を一手に請け負い、農業の多角化経営に挑戦する先進的農家が、全国に多数出現するようになったことは、日本の農業にとって大きな前進です。

一世を風靡した花畑牧場は、自社で生産した牛乳を生キャラメルやチーズなどに加工し、直営店などの販売で大成功を収め、日本の農家に与えたインパクトが大きい、6次産業の代表的事例です。これに近い事例が新潟県にも存在ます。弊社に程近い岩室温泉近くのフジタファームは、3戸の農家が共同で法人化し、自社の牛乳を活かしたジェラートを直営店で販売し、周辺は農作地帯にも関わらず、休日になると大行列の人気ぶり。新鮮な牛乳を飲めるカフェも新たに開業し、その牛乳を活かして作られたソフトクリームも絶品です。加工による販路開拓の事例として、沖縄の紅芋が挙げられます。紅芋は害虫により生鮮品として本土への出荷は不可でしたが、独自の製法で「紅芋タルト」を開発。これにより全国への発送が可能となり、今や沖縄のお土産の定番商品としての地位を確立しています。

日本の農業は6次産業の推進によって、競争力のある強い農業へと転換しつつありますが、衰退産業というイメージも根強く残っています。しかし、農業は成長の余地が大きく、大きな発展が望める業界であることは間違いありません。着実に成長産業へと発展させていくために、6次産業の強力な推進は、もはや必要不可欠の条件と言えるでしょう。これは我々伝統工芸業界でも同じことが言え、お客様と最短距離で接するビジネスを展開しなければ、伝統工芸の未来はありません。モノを作ることだけがモノづくりではなく、流通開拓も重要なモノづくりであり、流通開拓を行わなければ、いいモノづくりは出来ません。6次産業化は、様々な業界に当てはまることでもあり、これからの日本の経済成長に欠かせない要素でもあります。