[第86号]ユニークベニューによる地域活性化

観光庁は、特別な(unique)会場(venue)を「ユニークベニュー」として、博物館、美術館、歴史的建造物などの文化施設や野外空間を利用し、国際会議やイベントなどの開催を積極的に進めていく方針です。その地域の文化が凝縮された魅力ある施設や空間を利用することで特別感が演出され、日本や地域の魅力を最大限に発信し、参加者からその魅力を体感していただくことを目的としています。海外では、国際会議やイベントを開催する際、その国や地域を代表する歴史的建造物などを積極的に利用しており、ユニークベニューは一般的な考え方として定着しているものの、日本はユニークベニューの概念があまり浸透していないのが現状です。今後、政府は日本国内のユニークベニューを活用させ、さらなる観光立国としての地位向上を目指していきます。

MICE(マイス)の誘致活動が世界的に盛んとなっています。MICEとは、Meeting(会議・研修)、Incentive tour(招待旅行), Convention またはConference(大会・学会), Exhibition(展示会)の頭文字を取った造語で、一度に大人数が動くだけでなく、観光旅行に比べ一人あたりの消費額が大きいことなどから、交流人口の拡大や地域活性化につながる重要な役割を担うものとして注目されています。そのため、政府はMICEに対して、誘致体制の構築と強化を重要な施策の一つとして挙げており、MICEを誘致する際、競合する他地域と差別化を図るための要素の一つとして、ユニークベニューを推進。ガイドラインを作成し、誘致競争力の強化に繋げていく考えです。参加者に強いインパクトを与えるユニークベニューは、開催後も会場の話題になるなど、MICEの誘致と開催の成功に、もはや欠かせない要素となりつつあります。

海外主要都市では、MICEに合わせてユニークベニューが実践されています。中でもウィーンはMICEの開催地として世界的人気都市となっており、国際会議協会の統計によると、都市別の会議件数は常に世界トップクラスを維持しています。世界遺産に指定された中心部の旧市街をはじめ、街の随所に王宮や宮殿、教会などの歴史的な建造物が数多く残されていますが、こうした建物の多くはユニークべニューとして利用でき、音楽の都・ウィーンならではのコンサートも開催され、世界各国の参加者から絶大な支持を得ています。また、ユニークベニューの世界的有名施設として、パリのルーブル美術館やオペラ座、北京の万里の長城、シドニーのオペラハウスなどが挙げられますが、ロンドンの自然史博物館は、年間で約160回程度貸出しが行われ、ユニークベニューの世界的な事例として知られています。

日本ではまだ馴染みの薄いユニークベニューですが、東京国立博物館は、10年以上前からユニークベニュー活用に取り組んでいる国内のパイオニア的存在の一つです。これまで海外ブランドのファッションショー、海外カーブランドの新車発表会など、様々なイベント&レセプションが実施され、開かれた博物館と言えます。東京国立博物館では、企業と共に企画を進めることにより、先進的な表現手法を学ぶことが出来るため、博物館職員の人材育成の機会となっており、教育の観点からもユニークベニューを推進しています。この考え方は、日本全国の博物館・美術館が学ぶべきことであり、地方の博物館・美術館が地元企業や団体との協働によるユニークベニューを実践すれば地域活性化にも繋がり、さらには、これまでに接点がなかった層にも施設を知っていただくことで、来館者や支援者の増加が期待できます。

新潟県でユニークベニューを先進的に行っている施設が、新潟三代財閥の一つ「旧齋藤家別邸」です。港町・新潟の繁栄ぶりを物語る迎賓館的存在で、美しい自然風景を再現した庭園と格調高い近代和風建築の主屋が一体となった庭屋一如のコンセプトが特長です。2009年に公有化され、年間4万人を超える観覧者が訪れており、2015年には国の名勝にも指定されました。近隣には料亭が点在しているため、ケータリングも可能で、新潟のユニークベニューでは真っ先に候補として挙がる施設です。新潟県では、新潟県交流企画課が県内のユニークベニューリストを作成して情報発信を行っており、県内企業や団体などがユニークベニューを実践するよう促していますが、リスト以外の施設ではユニークベニューの認識が薄く、特に公共施設を利用する場合、何かと制約が多いことや「前例が無い」などの理由で、前向きに捉えられない傾向もあり、さらなる啓蒙活動が必要です。

東京オリンピック開催により、日本に注目が集まる2020年を1つのステップとして、質・量ともに高いレベルの観光立国を、官と民、国と地方が一体となり、ユニークベニューを着実に実現すべき時です。文化財を有するお城や神社仏閣において、コンサートやアートプロジェクトなどが全国的に開催されるようになりましたが、今後、日本のイベントスタイルとして定着していくことでしょう。最近では文化施設だけでなく、水族館の大水槽の前やプラネタリウム内でイベント&レセプションが開催されるなど、「ユニーク」な「ベニュー」活用が生まれており、スペースの概念を変える革新的取組が次々と実践され、その活用方法はまさに無限大です。日本全国、まだ利用に至っていない魅力的なユニークベニューを次々と掘り起こし、地域創生へと繋げていきたいものです。