[第85号]クラフトビールブームの到来

今、飲食業界で熱い視線を集めているのが、クラフトビール。国内ビール大手5社のビール系飲料の出荷量は、10年連続で減少し続ける中、クラフトビールの出荷量は、ここ数年毎年二桁台の伸びを見せており、その人気はうなぎ登りです。全国的にクラフトビールを楽しめるお店が増加していますが、多数の樽生クラフトビールが楽しめるクラフトビールに特化したお店も次々とオープン。また、スーパーやコンビニでも品揃えが豊富になってきているほか、クラフトビールフェスタが全国各地で開催されるなど、クラフトビールは空前の盛り上がりをみせています。「地ビール」から「クラフトビール」へと呼び名が変わり、20年前の地ビールブームから、次はクラフトビールブーム到来へ。クラフトビール業界から目が離せません。

日本のクラフトビールメーカーは、現在約200社存在するとされていますが、その発祥は1994年の酒税法改正です。ビールの製造免許を取得する際に必要な年間最低製造数量の基準が、従来の2,000キロリットルから60キロリットルへと大幅に引き下げられ、地ビールを解禁する方針が示されました。これにより、全国各地に少量生産・地域密着型のオリジナルビール、いわゆる地ビールが次々と登場し、地ビールブームが興りました。日本における地ビール会社第1号は、1995年 (平成7年) 2月に開業した新潟市(旧・巻町)のエチゴビールです。主力商品の「コシヒカリビール」は、品名の通りコシヒカリを原料としており、モルトにはない米の軽やかさと辛口が特徴で、日本海海の幸などと共に、新潟食材の食中酒として最適。まさに地域密着型のビールと言えます。

1995年以降、全国各地で地ビール会社が開業しましたが、その多くは、地場産業の発展を目的とし、地域おこし的な観点による地産地消型発想でビールが製造されていました。地場産品を副原料とするビールを造り、立ち上がり初期は、その物珍しさも手伝い、どのビール会社も人気を博しましたが、醸造技術が未熟で味わいにクセがあり、コストパフォーマンスの悪さから、5年後の2000年を境にブームは下火に。2003年にはブームは完全に終息し、地ビール会社は激減しました。しかし、生き残った地ビール会社が地ビールのマイナスイメージを払拭すべく品質改良を重ね、高品質で美味しいビールを追求していく中で、地ビールではなくクラフトビールへと名称を変え、2012年夏頃から、今度はクラフトビールとして第2次ブームが興りました。

日本の大手メーカーのビールと言えば、「とりあえずの一杯」に象徴されるように、喉ごしの良いピルスナータイプが大部分を占めていますが、クラフトビールはピルスナー以外にも多種多様なタイプがあり、様々な色や香りのビールが楽しめ、何より大量生産ではない手づくり感がクラフトビールの最大の魅力です。また、ビールは冷たくして飲むもの、というイメージがありますが、多くのクラフトビールの場合、温度をやや上げた方が、その芳醇な香りが楽しめます。キンキンに冷えたうちに一気に飲み干さず、じっくりと時間を掛け、色や香りを味わうと、素材の持つ味わいを存分に楽しむことができます。海外のビールの多くは、インパクトの強さが主張されていますが、日本はインパクトを主張しながらも、繊細さを併せ持つのが特徴で、素材を活かした料理とは抜群の相性を発揮します。

クラフトビールのトップブランド「COEDO」が、今年6月、埼玉県川越市に工場レストラン「COEDO Craft Beer 1000 Labo」を開業し、先日、COEDO 朝霧重治社長と共に、その工場レストランで食事をしました。このレストランの特徴は、創作中華料理とCOEDOビールとのマリアージュです。料理とアルコールのマリアージというと、主にワインを連想させますが、個性派揃いのCOEDOビールと創作中華料理のマリアージュの素晴らしさに驚くと共に、このような食の楽しみ方があるのかと、まさに驚きの連続。クラフトビールに合わせた料理は、日本の新しい食のスタイルになると確信しました。朝霧社長は地ビール時代から約20年、クラフトビール業界を牽引し、世界のビールコンテストで日本初のゴールドメダルを獲得するなど、世界的な評価を受けるまでに成長したクラフトビール業界の革命児。COEDOビールを国内外へと広めるべく、全国そして世界中を奔走されています。

クラフトビールは、小規模の醸造所で職人が手工芸品的に造るビール。日本人の最大公約数の味覚を求め、万人受けする大手メーカーの大量生産形と異なり、作り手の個性と想いがダイレクトに表現されるビールです。それだけに、マッチングするかどうかは、人それぞれの好みの違いとなるのですが、作り手と飲み手の嗜好が合わさった時、格別な喜びを感じるのが、クラフトビールの醍醐味でもあります。大量生産・大量消費の時代、流通力の高い商品だけが店頭に並び、どこに行っても顔馴染みのビール、味覚の似通ったビールばかりというのが、現在の日本のビール市場。しかし、皆が同じビールを飲む時代から、自分の嗜好を理解した上でビールを選び、じっくりと嗜むという時代へと変化しつつあります。1990年代後半の地ビールは一時のブームでしたが、現在のクラフトビールは一時のブームでは終わらず、日本の食文化として着実に根付いていくものと思われます。