[第83号]海外市場で急成長を続ける盆栽

  盆栽が海外でブームになっています。日本の伝統文化の一つである盆栽は、国内での需要は減少しているものの、逆に海外市場での需要は破竹の勢いで高まっています。盆栽の年間輸出額に関して農林水産省の統計によれば、2001年の6億円市場が、2006年には23億円、2013年には94億円を記録し、海外での高い需要を考えると、今後もさらなる輸出額増加は確実です。輸出国1位はベトナム、2位中国、3位香港、4位イタリア、5位台湾、次にオランダ、ドイツ、アメリア、ブラジル、スペインと続き、1位ベトナムのシェアは圧倒的で、世界の輸出額の約半数を占めますが、検疫が緩いことが要因とされています。この年間輸出額94億円は、日本酒の年間輸出額105億円を迫る勢いであり、クールジャパン戦略において経済産業省は盆栽輸出を強力に後押ししており、今やクールジャパンのホープと言えます。

 アジアでは富裕層がステータスシンボルとして高額な盆栽を買い求め、欧州では簡易な盆栽がインテリアとして受け入れられる傾向にあり、丁寧に育てられた日本の盆栽は、芸術作品やインテリア製品として世界市場で流通されています。しかしながら、盆栽の輸出にはさまざまなハードルが立ちふさがり、最大の難点は、輸出する国ごとに検疫条件が異なること。植物の種類によっては輸出を禁止されたり、栽培中に検査を行うことや輸出前に消毒を行うことなど、様々な条件があります。この条件は国や地域で異なり、国内の検疫をクリアして海外へ輸出しても、その国の検疫に合格しなければ廃棄処分や船便での返送となり、多額の出費となります。輸出額全国一の埼玉県では、安全な盆栽を輸出し世界へ広めていこうと、約15年前から埼玉県輸出盆栽研究会が設立されています。

 盆栽は、中国・唐の時代から行われていたとされ、日本に伝えられたのは平安時代です。その後、日本の豊かな気候風土、日本人の感性と長年の経験の積み重ねによって、総合芸術と呼ばれる領域にまでに高められ、1900年のパリ万国博覧会では、盆栽を初めて見た欧州人がその芸術性の高さに驚愕したと言います。その後、盆栽の魅力は世界の人々を魅了し、一般的に世界市場に浸透し始めたのは1970年頃から。盆栽は世界的にも「BONSAI」と表記されており、欧米の主要国には盆栽協会が設立され、イタリア、フランスなどでは盆栽の専門学校も存在します。4年に一度行われる世界盆栽大会は、1989年に埼玉県で第1回が行われたのを皮切りに、世界各国で開催され、2年後の2017年第8回大会は、第1回以来、28年ぶりに日本開催(さいたま市)となり、世界中の盆栽業者や愛好家がさいたま市に集結します。
 
 盆栽は新しい時代を迎えており、古典的な盆栽だけでなく、現代のライフスタイルに合わせた盆栽が次々と開発され、都内インテリアショップを賑わせています。「ハリネズミ盆栽」をご存知でしょうか。高岡の鋳物メーカーが製作したブロンズ製ネズミ形ミニ盆栽鉢とハリネズミの毛をイメージした苔を組みわせたものです。インテリア業界のヒット商品となり、他の動物にも応用させた商品も多数開発されています。盆栽×漆器のブランド「ちょこぼん」は、盆栽職人と越前漆器が、盆栽・漆器・受け皿をトータルコーディネート。観葉植物感覚で部屋の中で気軽に楽しめる、モダンなインテリア盆栽を開発しており、人気を博しています。洗練された組み合わせで、盆栽初心者には格好の商材。海外市場でも受け入れられる要素は十分にあります。

 先月ゴールデンウィーク期間中、さいたま市北区盆栽村にて開催された「第32回大盆栽祭り」へ行きました。村内全ての盆栽園が見学用に開放され、村内全域にて約120店が出店した盆栽・盆器の即売会、市民盆栽展、名品コレクション特別展示などが開催され、会場内は大変な賑わい。初めての盆栽祭り見学でしたが、盆栽の魅力をあらためて体認できる祭りでした。盆栽村が誕生したのは大正14年で、東京の本郷周辺で栄えた盆栽業者が震災で被災した後、盆栽栽培に適した新たな土地を求め、集団移住で形成された集落です。昭和15年、世界にも例の少ない行政上の「盆栽町」と言う町名が誕生。日本屈指の盆栽郷で、海外の盆栽愛好家からは「聖地」とも称される地域であり、国土交通省「都市景観100選」を受賞しています。

 さいたま市大宮盆栽美術館で見学した樹齢約450年の盆栽。約450年という永い時を刻み、世代を超えて日々欠かさず手入れを加えられながら慈しみ育てられた荘厳さに、心が震えました。静的な絵画・彫刻などの芸術作品とは異なり、盆栽は生命が宿っており、四季を通して自然が織り成す美しい変化や生命の鼓動を感じることができる芸術作品。このように見事に育った盆栽でも、樹木が成長を続けていく限り完成はありません。毎日の管理は続き、育てる喜びをいつまでも追求していくことができるという点においては、盆栽は完成のない芸術、変化し続ける芸術とも言え、その美意識や感性が、外国人にとっては新鮮なのかもしれません。盆栽はクールジャパンを代表する商材の一つとして、その潜在能力の高さは特筆すべきものがあり、日本を代表する総合芸術として、さらなる発展が期待出来ます。