[第82号]ミラノ国際博覧会が本日開幕

 本日5月1日、食をテーマとした博覧会「ミラノ国際博覧会」が開幕します。2010年開催の上海万博に続き、国際博覧会条約に基づいた5年に1度の登録博覧会で、ミラノ万博の開催期間は5月1日~10月31日までの6カ月間。世界初の万博は1851年(嘉永4年)に開催されたロンドン万博で、日本が初めて公式参加した万博は1873年(明治6年)開催のウィーン万博となります。明治政府は日本製品の輸出拡大と国際的宣伝、さらには海外の進んだ技術を学ぶことを目的とし、日本全国多数の生産者に対し万博への出展を促したことから、ウィーン万博には玉川堂製品も出品しています。万博の存在は世界各国の技術力を底上げし、国力を高め、近代化を促進させる最高の舞台として大きな影響力を与えてきました。

 今回のミラノ万博のテーマは「地球に食料を、生命にエネルギーを」。食という単一のテーマで行われる万博は初の試みですが、約140の国と国際機関がそれぞれ展示館を設け、各国の食文化を紹介するほか、持続可能な食のあり方を提案していきます。日本館は参加国の中でも最大規模の展示スペースとなり「共存する多様性」をテーマに掲げ、自然との調和を基本とした農林水産業の取り組みや、発酵食品、一汁三菜など、日本の食文化に秘められた知恵や技を紹介していきます。会場内にはイベント広場も設置され、全国の地方自治体を中心に、約40団体が地域で培ってきた多彩な食文化を期間限定でPRしますが、9月24日~26日の3日間は燕三条地域がイベント広場を貸し切り、燕三条の食と伝統技術をPRし、玉川堂製品も出品する予定です。

 ユネスコの無形文化遺産に登録された和食は、世界的な健康志向も追い風に海外でも関心が高まっており、ミラノ万博では日本の食文化の存在感と重要性を示す絶好の機会となります。中でも発酵大国と呼ばれる日本の発酵食品の存在は大きな影響を与えることでしょう。日本は麹カビに関わる発酵食品が多く、主な食品として、醤油、味噌、酢、みりん、日本酒などが挙げられますが、発酵によってさらに栄養分を高めるという知恵は、食の未来へ繋げる世界の宝と成り得ます。さらに、発酵から生まれる深い味わいと品高い香りは多種多様な素材と馴染み、近年、世界の食の業界でも注目を集めています。日本館では大手食品メーカーも出展しますが、それら発酵食品を通じて、世界共通語になりつつある「うま味」「出汁」をアピールし、販売先を世界中へ広げると共に、日本の農産物の輸出拡大も図ります。

 35年後の2050年、世界人口が現在の73億人から90億人を超えるとされ、新興国を中心に今後ますます食料の需要が増大していきます。どのようにして安定的、かつ持続的に食料を確保していくかという方法は、今、地球上全体の課題となっています。ミラノ万博では、食料確保を将来へどのように繋げていくのかという課題を世界各国が提案する万博となりますが、日本館ではこの課題に日本独自の発酵技術を提案していきます。一方、世界の食料の3分の1は、流通や保存の問題で廃棄されているという現実。日本でも売れ残りや食べ残しで多くの食料が廃棄されています。ミラノ万博では食料確保のあり方がテーマではあるものの、食料廃棄についてのあり方も検討すべき課題であることは言うまでもありません。

 開催国のイタリアは、伝統の食文化を守ることを目指す「スローフード」発祥の地。食に対してとても意識の高い国であり、食をテーマとした万博を開催する国としては最適と言えます。イタリアは地域色豊かな食材や調理など、世界有数の食文化を保有するだけでなく、ファストフードのチェーン店が他の先進国と比較して少ないことも特筆すべきことで、国民全体がイタリア料理を愛し、誇りを持っています。スローフード活動は、ファストフードの席巻や郷土料理の減退などを危惧し、気候に適した食材、調理法など、昔から根づいてきた伝統の食文化を継承させ、自然を尊重することで人間の心に豊かさをもたらすという考え方です。スローフード発祥の地で、食の万博が開催される意義はとても大きいものがあります。

 自然や季節との調和。家族や地域などの共同体の中で「いただきます」や「ごちそうさま」など、感謝の言葉を唱えることで、世代を超えてつながる心の調和。地域の食文化を次世代へと継承させていくためには、私たちの地域の食文化を今一度再認識することと、そして何より、地域の食文化を家族や地域の方々と一緒に楽しむことが大切なことであると思います。江戸から昭和にかけての万博は「国威発揚型」が中心で、1970年に日本で初めて開催された大阪万博も国威発揚型でしたが、21世紀に入り、地球規模の課題とその解決の方向を示す「理念提唱型」へと転換しています。地域の食を見直すと共に、安全で持続可能な食料を提案していく今回のミラノ万博。地球上の将来に対し最も重要な課題なだけに、ミラノ万博の成功と万博後のさらなる展開を期待したいものです。