[第81号]中国人の爆買い現象

 爆買い。今、中国人観光客の爆発的な買い物が社会現象となっています。「魔法瓶」「セラミック包丁」「洗浄便座」「炊飯器」の4アイテムは、中国で「四大宝」と呼ばれている中国人観光客の人気日本製品。品質が良いことはもちろんのこと、日本では中国国内より半額から3分の1の価格で購入できます。中国でも「四大宝」は手に入りますが、輸入品ということで高額な上、偽物も多く、購入には慎重な姿勢を示しています。「四大宝」購入は個人使用の他、親族や友人へのお土産用として購入します。中国人にとって「日本で買う日本製品」には憧れがあるため、親族や友人が日本へ旅行するということになると、様々な買い物を要求されるとのこと。また、中国人は面子を重んじるお国柄、お土産で安物を贈ることはタブー視されており、お土産でも高額品を購入する傾向にあります。

 中国の国会・全人代で、爆買いが議論を呼んでおり、中国の製造業の弱さを反省する声が続出しています。消費が海外へ流出する現状に焦燥感を強めており、「なぜ中国企業が同様の製品を開発できないのか」と原因を分析する論調が登場した一方、「国民は国産品の品質やブランドを信頼していない」と認め、「国民の信頼を得るためには技術革新が必要。外国製品のコピーはやめるべきだ」と提言。先月、10年計画「メード・イン・チャイナ2015」を掲げ、製造業の品質向上と競争力強化に率先して取り組む姿勢を示したことは、日本でも報道されました。去年のGDPが24年ぶりに低い水準となった中国では、海外での爆買いを減らし、国内での消費を回復させる政策を重要課題として取り組んでいくことになります。

 不動産市場での存在感も高まっています。都内の不動産会社の顧客の相当数が中国人を中心としたアジア系の方々で、その多くが投資目的です。上海や北京の物件は、東京の一等地よりも約1.5倍高いため、日本のマンションや土地は中国人としては割安に感じます。特に2020年東京オリンピック開催の影響は絶大で、首都圏の不動産価格は確実に上昇するものと見込んでおり、東京湾沿岸の高層マンションは奪い合いの人気と言います。中国では土地を購入しても永久的に所有できず、70年後には国に返還する義務があることも、日本の土地を購入する大きな理由となっています。また、日本に不動産や高級マンションを所有することで、中国における周囲の評価が変わり、日本における不動産所有の有無が、信頼性や成功者としての基準にもなっています。

爆買いの動きは、伝統工芸品の世界でも活発化しています。中国はお茶が盛んな国ですが、女性はお茶を楽しむ風習が無く男性の文化。道具にこだわるのが男性の性でもあるため、中国人男性にとって日本製の高級茶器は垂涎の的となっています。特に鉄瓶は高級品ほど需要があり、弊社でも胴体と注ぎ口に継ぎ目の無い「湯沸口打出(くちうちだし)」(35万円〜)に需要が集中します。弊社青山店でも中国人の爆買いがありますが、転売目的の方には販売しないよう細心の注意を図っています。中国では特に鉄瓶の転売が盛んに行われ、中国の茶器市場を賑わせていますが、日本小売価格の約5倍の高値で販売されている商品もあります。適正価格で販売し値崩れさせないことはブランディングの鉄則であり、商品は売って終わりではなく、売ってからの顧客との関係性の深さを追求する流通体制を構築していく必要性があります。  

 習近平・国家主席は、中国での不動産投資抑政策や汚職撲滅のための倹約令を発令し、高級品消費自粛策が敷かれ、取り締まりを強化しました。この政策によって国内の高級品消費が萎縮し、海外での爆買いが一層加速されたと言われています。弊社は上海と北京の高級小売店と取引先がありますが、倹約令によって最近売上が鈍く、弊社製品は日本で購入するという現象が鮮明になっています。そして、人民元の対円レートの要素も爆買いの大きな要因と思われます。1994年の為替市場整備以降、最高値圏にありますが、人民元は基本的にドルに連動するため、ドル高円安が進めば円に対しての元の一段高も十分にあり得る状態です。2020年の東京オリンピックまでは現在のドル高円安の状態で進むと思われ、人民元の対円レートだけ見ても、爆買いは当面継続していくことが予想されます。

 中国人による海外の消費額は、昨年1兆元(約19兆円)を超えており、中国人観光客一人あたりの旅行支出額は約23万円(観光庁調べ)。富裕層だけでなく中産階級が急速に厚みを増し、もはや中国マネーを無視しては経営戦略も地方活性化策も語れなくなっており、人口減少社会にある日本にとって無視できない存在です。しかし、爆買いという中国マネーに頼り過ぎては、中国マネーの下降線を辿った時の日本経済は、果たしてどのような状況になるのか。2020年東京オリンピック開催年よりも、むしろ、翌年2021年以降に重点を置いた対策が求められていると思っています。爆買いが日本経済を刺激している一方、中国人観光客のマナーが社会問題となっており、香港やシンガポールでは深刻な状態とのこと。一時のブームに便乗し、単に「売れればいい」という考え方では、近い将来、行き詰まることは明らか。中国マネーとの付き合い方を、今一度真剣に考える時であると思っています。