[第78号]北陸新幹線開業による地域再生

 今年3月14日、東京〜金沢間の北陸新幹線が開業します。現在の東京と金沢間の移動時間約4時間が、これから約2時間30分へと大幅に短縮されます。これにより、北陸地方は関西・東海中心の経済圏から、関東も経済圏に加わることになり、北陸地方にとって2015年は、まさに長年の悲願が実現する年となります。しかし、新幹線開業後は、地方から大都市に人が吸い込まれるストロー現象、空港路線の縮小、並行在来線問題など、デメリットにもしっかりと対応していく必要があります。一方、新潟県は上越新幹線に加え、全国で唯一、2つの新幹線が走ることになりますが、上越市と糸魚川市に新幹線の駅が誕生するものの、快速「かがやき」は1本も停車せず、新潟県は素通りに。また、現在、北陸方面の移動に利用されている上越新幹線は、3月14日以降、北陸新幹線へ移行されるため、利用者激減は確実な状況。2015年の新潟県は、新たな課題を抱えることになります。

 北陸新幹線は長野新幹線を延伸させた路線で、長野県、新潟県(富山寄り)上越市と糸魚川市、そして富山県を経由し、終点は金沢駅となります。北陸新幹線開業で最も脚光を浴びる金沢市は、金沢駅から2キロ程度離れた金沢城下が中心地として栄えてきましたが、現在は駅周辺がマンション、商業施設、企業社屋などの建設ラッシュとなっており、新都心への変貌が急ピッチで進んでいます。また、北陸新幹線は2025年に福井県まで延伸させ、最終的には大阪を終着駅とする計画ですが、東京からの直通列車や飛行機便の無い唯一の都道府県が福井県であり、福井県は工期を早め、出来る限り早い開業を求めています。なお、北陸新幹線は、将来的に東京と大阪を日本海側で結ぶルートとなるため、日本海側に新たな国土軸が形成され、東京と京都間における太平洋側大震災時のバックアップ機能としても重要な路線となります。

 江戸時代、新潟は西回り航路の影響で、経済圏は関西地方であり、燕三条の金属加工業者も関西の商社との取引が主流でした。これは、新潟県と群馬県にまたがる三国山脈の存在が新潟と関東の交流を阻んでいたからです。しかし、昭和初期に上越線が開業してから本格的に関東圏との交流が始まり、1982年の上越新幹線の開業によって、新潟は完全に関東圏に組み込まれました。私の地元には上越新幹線・燕三条駅があり、東京駅までの移動時間は約1時間50分。燕三条駅を朝7時に出発すれば9時30分には都内での打ち合わせが可能で、その晩、都内で会食をしても、最終列車22時近くの新幹線に乗れば、その日のうちに帰宅できます。私たち燕三条人にとって、東京への移動は出張という感覚が薄く、もはや通勤圏です。上越新幹線の存在によって関東との交流が劇的に変化し、金属加工産地・燕三条の発展は上越新幹線の存在が絶大。その恩恵は計り知れないものがあります。

 この度の北陸新幹線の開業によって、北陸地方は関東も経済圏に組み込まれるため、北陸地方の地場産業や観光産業にとっては千載一遇のビジネスチャンス到来です。玉川堂メールマガジンは、知り合いの北陸の地場産業経営者にも配信していますが、やはり今年2015年に掛ける意気込みは相当強いものがあり、新幹線開業に合わせた企画や受け入れ体制は着々と進み、2015年を契機に、北陸地方は大きな飛躍が期待できます。そして、特に金沢の観光産業は飛躍の年となりそうです。東京からの新幹線移動時間は、京都と金沢がほぼ同じとなるため、京都ではなく金沢を選択する観光客も増えることでしょう。金沢は観光名所や周辺の温泉施設が豊富なだけでなく、食のレベルは日本海側随一。新潟と富山は素材をそのまま活かした料理ですが、金沢は京料理の影響を受けているため、一手間掛けた創作性溢れる料理を提供し、ミシュランガイドも金沢に注目しているとのこと。

 東京都民の約10分の1が新潟県出身(もしくは祖先が新潟県出身)に代表されるように、地方と大都市が結ばれると、地方から大都市へ人が吸い込まれるストロー現象が起こります。特に新幹線が開業すると必ず起きる現象で、この度の北陸新幹線の開業では、金沢よりも富山の方がストロー現象の対象になりやすいと予測されています。最近の事例として、長野新幹線の開業によって、長野市は東京と約1時間30分で移動できるようになった結果、東京本社の長野支店の閉鎖や縮小が相次ぎ、関東方面からの宿泊出張も減少、さらには長野市内の大規模小売店の閉鎖などを招きました。九州新幹線の開業では熊本で同じような現象が起きており、熊本は福岡に市場を奪われています。新幹線以外では、東京湾アクアラインの開通で、木更津駅前が壊滅的被害を受けたことも、ストロー現象としてよく知られたケースです。

 ストロー現象は悪影響ばかりが指摘されますが、逆を言えば、魅力ある行政や地場の企業が増えていくことで、関東から地方へ人を呼び寄せる絶好のチャンスとも言えます。北陸地方は全国有数の地場産業集積地であり、地域内の連携も強い地域。今、地域が一丸となって地域資源を見直し、工業・農業・食文化など、魅力ある地域資源を積極的に結びつけ、拡大再生産を行い、それを国内外へとアピールしていく時代。ストロー現象を逆手に取り、地方の時代、地場産業の時代へと移行させ、「逆ストロー現象」の先進的事例を構築させていくことが、これからの北陸地方の歩み方であり、使命であると思っています。グローバリゼーションが進み、移動コストが低減していく中で、地域経済のあり方も大きく変化しています。2015年の北陸新幹線の開業によって「地域再生」のあり方について、あらためて問い直す年にしていきたいものです。