[第76号]日本ラーメン業界の海外進出

 日本で誕生したラーメンが、世界を席巻しています。これまで世界に知られた日本食と言えば、寿司、天ぷら、刺身が中心でしたが、ラーメンは、それらに取って代わる存在になりつつあります。日本政府観光局「訪日外客訪問地調査」では、訪日外国人が期待する動機として長年1位の座にあった「ショッピング」に代わり、「日本の食事」が1位となっており、特に満足した日本食ランキングでは、寿司44%、ラーメン24%、刺身20%と続きますが、ラーメンは年々高い伸び率を示しており、10年後には寿司を逆転するのでは、という見方もあります。こうしたラーメン人気の背景には、世界ブームとなっている日本のアニメの影響力が絶大で、さらには、日本の「DASHI(出汁)」の「UMAMI(旨味)」に対する注目度の高さも、ラーメン人気拡大に大きく寄与しています。

 海外でラーメン店が誕生したのは今から約40年前。ニューヨークの「SAPPORO」(1975年)、パリの「HIGUMA」(1984年)が先駆けと言われていますが、両店共に日本からの進出ではなく、現地日本人が開業したという共通点があります。当時は現地日本人のニーズに合わせて開業したもので、日本人以外の方がラーメンを食べるというケースは稀だったとのこと。日本のラーメン店が海外進出したのは1992年、「8番らーめん」のタイ進出です。その後、熊本の「味千ラーメン」が続きますが、「味千ラーメン」は現在、中国・東南アジアに約650店舗を展開し、日本以外で初めてラーメンブームを興しました。日本のラーメン有名店が海外進出を始めたのは約10年前ですが、以来、欧米でもラーメンの認知度が高まっていきます。

 海外で世界一のラーメン激戦区はニューヨーク。味は国外最高レベルと言われています。2007年、「せたが屋」「CHABUYA」など、有名店が先駆けてニューヨークへ進出しましたが、2008年に開業した 「一風堂」の存在は、 ラーメンが日本を代表する食文化の一つとして、世界中で注目されるきっかけとなりました。その「一風堂 NY2号店」でラーメンを食したことがありますが、ローカライズされているのか、豚骨はやや薄めなものの、とてもバランスの取れたスープ。店内はほぼ現地外国人で、私の隣の方はスープだけ飲み干し、麺は残していましたが、海外ではよくある食べ方とのこと。ラーメン$14+消費税8%+チップ15〜20%を加えた料金となり、さらに具材は全てトッピングでの追加料金のため、日本円で1杯2000円以上。日本価格の約2〜2.5倍の価格設定です。

 ニューヨークに次いで、日本のラーメン業界注目の海外都市がシンガポール。現在、約150店舗展開していますが、その多くが人気店として繁盛しており、海外で最も成功しやすい国かもしれません。シンガポールは毎年高い経済成長を続けている世界的にも稀有な元気な国。これは積極的な外資・外国人の誘致策や市場開放によるところが大きいと思います。外国企業に対してオープンで寛容であるだけでなく、法人税や所得税が低いこと、食材が豊富で、昔から麺文化が根付いている点からも、日本のラーメン業界の海外投資先として、これ以上の好条件はありません。新潟の大手外食チェーン「三宝」も、今年シンガポールに2店舗出店したところ大繁盛。「三宝」金子社長からシンガポール情報を何度かお聞きしたことがありますが、日本ラーメン業界のシンガポール進出は、さらに盛んになることは間違いなく、近い将来、日本に次ぐラーメン大国になると感じました。

 私の地元・新潟県燕市は、背脂ラーメン発祥の地。背脂開発の由来は、金属加工職人の出前にあります。麺が伸びないよう極太麺とし、塩分補給のためスープを濃く、そして、スープが冷めないよう背脂をたっぷり加えたことで背脂ラーメンが誕生しました。ご当地グルメ・燕ラーメンは、職人文化と密接に関係するラーメンです。世界的なラーメン人気に触発され、日本のラーメン企業と海外企業の橋渡しをする現地日本人が多数出現しており、日本のラーメン企業に対し、積極的に海外出店計画を持ち込んでいるようですが、燕ラーメンの企業にも声が掛かっており、燕ラーメンの世界進出は間近かもしれません。パリ市内人気NO.1のラーメン店「なりたけ」は、燕ラーメンのお株を奪う背脂たっぷりのラーメンで連日大行列。欧州のスープ文化に、背脂スープは見事に的中しました。後塵を拝しましたが、背脂の元祖・燕ラーメンも欧州へ進出すれば、勝機は十分にあります。

 ラーメンを通して、日本の料理のクオリティ、店づくりにおける感性、一期一会の精神を背景とした接客サービスは、外国人に広く認知されつつあります。日本のラーメン業界は、近年の開業ラッシュで国内は飽和状態となりつつありますが、海外市場へ目を向けると、極めて大きなマーケットを抱えていながら、海外進出企業はごく少数。しかも、海外のラーメン店は、寿司店同様、日本人経営の店舗は少なく、日本の食文化、ラーメンの素晴らしさを伝えきれていないのが実情です。海外マーケティングを確実に行った上で、本場の日本のラーメン文化、日本人の優れた食の感性を提案していけば、海外事業成功率の最も高い業界は、私はラーメン業界であると思っています。ここにも着眼点を置いて、クールジャパン事業を推進していけば、日本ブーム「ネオ・ジャポニズム」は、さらに加速していくでしょう。