[第74号]高まる工場見学の重要性

 10月2日(木)〜5日(日)、今年で第2回目の「燕三条工場(こうば)の祭典」が開催されます。昨年は参加企業54社、全国約11.000人の方々から見学していただき、おかげさまで大きな反響がありましたが、今年は5社増加し、合計59社に増え、少しづつ認知度も高まっていることから、昨年以上の見学者数を見込んでいます。昨年のアンケート調査の結果では、見学者の年齢層は20〜30代の方が47%、さらには新潟県外の方が45%を占めるなど、若年層が中心、しかも、その多くが新潟県外の方からの見学者でした。また、地元燕三条の方の見学も多く、「近くに住んでいるけど、工場の中に入るのは初めて」という方も多く、燕三条在住の方々に対して、地場の地域資源を再認識していただくためのイベントしても有効性を発揮しています。

 実際のモノづくりの現場を訪ね、モノづくりの大切さとモノづくりに携わる人々の心を学ぶという 「産業観光」への関心が全国的に高まっています。日本は、モノづくりを中心に経済成長を遂げてきたため、全国各地に歴史的価値のある産業遺産、世界最先端の技術水準を誇る工場が数多く存在します。日本の産業発展の歴史やモノづくりに関心を抱いている外国人は多く、こうした資源を活用した産業観光は、訪日外国人観光客誘致の目玉の一つとなります。もちろん、日本人にとっても、こうしたモノづくりの現場に触れることは、日本経済発展の原点に立ち返る貴重な機会でもあり、産業観光が地場産業の発展を促進させ、日本の経済成長の牽引役となっていくことは間違いありません。

 「燕三条工場の祭典」のように町工場を開放するイベントは、既に全国各地でも開催されています。燕三条地域と関係の深い地域の一例として、「台東モノマチ」は5月の3日間、台東区の町工場を開放。「スミファ」は、墨田ファクトリーめぐりの略で、11月の3日間、墨田区の町工場を開放。「大田オープンファクトリー」は、2月の1日限定で町工場を開放。「高岡クラフツーリズモ」は、年2回・1日限定で富山県高岡市の町工場を開放するなど、いずれも町工場で全国区の知名度を誇る地域です。これに追随して、全国の地場産業や伝統工芸でも、地域を挙げて工場を開放しようとする動きが出始めてきており、5年〜10年後には、全国各地、相当数の産地が工場見学イベントを開催することが見込まれ、工場見学は社会現象になるものと推測できます。

 このように産業観光が普及し、町工場の開放は、もはや一般的に行われるようになりましたが、弊社工場も含め共通する課題は、「産業観光」と言いながらも、工場見学を単体として考えると、「観光」をコンテンツとして提供することは難しいということです。稼働中の町工場にとっては、人的、空間的(施設的)な負担は大きく、受け入れ人数にも限りがあります。また、危険な機械や薬品が見学者の間近に配置しており、特にバスツアー客の一部に見受けられる飲酒の方が見学されると、工場内で怪我の可能性も否定できず、万一があった場合、その企業だけでなく、地域のブランドイメージも損ないかねません。あくまで工場は作業の場、神聖な場であるという認識を持って見学していただくためにも、工場見学は観光ではなく、スタディーツーリズムであるという認識を高める動きも、同時に行っていく必要があります。

 工場を積極的に開放し、自社の資源・資産を産業観光に供することは、自社の事業や取組み、自社製品に対する理解増進、ひいてはモノづくりの面での地域ブランド、そして、日本ブランドのアピールにもつながります。製造業は日本のGDPの約20%を占めており、中小企業の町工場はその中核を成しています。しかし、町工場が衰退していけば、技術集積バランスが崩れ、日本が得意とする高付加価値製品の製造も衰退し、日本の経済は悪化の一途を辿ることになります。町工場が保有する高い技術力を確保し、事業を継承発展させるための経営手法としても、実際にモノづくりの現場を見ていただくことの説得力は、何事にも代えがたく、工場見学に勝るものはありません。日本の製造業において工場見学は、もはや必須条件とさえ言えます。

 工場見学の魅力をより一層高め、さらには外国人観光客を日本へ、そして地方にもお越しいただくためには、工場見学に加え、その地域の歴史・文化との関連付け、ストーリー性を持たせた観光ルートの確立は必須です。燕三条地域であれば、周辺の旅館、地産地消レストランとの連携、酒蔵、農業生産者などの連携が対象となります。地域資源を今一度見直し、地域が一体となって連携させることによって、地場産業が活性化されるだけでなく、日本の国際競争力が高まり、外国人観光客も必然的に増加していきます。モノづくりの原点はコミュニケーションであり、これからの職人の「一人前」の定義は、熟練技に加え、コミュニケーション能力も加味されます。職人が国内外の方々と触れ合う環境を創出していくことで、より付加価値の高い製品が生まれ、新たなモノづくり大国「JAPAN」が形成されていきます。