[第72号]中国茶の世界の奥深さ

  中華人民共和国成立後、故毛沢東首席によって発令されたのが、「山の斜面に茶畑を開くべし」という国民へのメッセージ。衰退の一途をたどった中国の茶産業を復活させると共に、お茶を「国飲」 として位置付け、茶栽培に国力を注いでいきます。これを機に茶園が次々と開拓され、1950年代から中国のお茶の生産量は急激に伸び、再び世界的な茶産地として蘇りました。最近では、2008年の北京オリンピック開会式にて「茶」という文字が大々的に提示され、また、2010年の上海万国博覧会においては「中国茶展示区」が設けられ、中国茶の存在を世界へと発信。中国の茶文化は、優良な民族文化の一つとして国内外に認知されています。
 緑茶や紅茶など、世界中で飲まれているお茶のルーツは中国で、その起源は、約5000年前、現在の四川省あたりで栽培が始まったとの説が有力です。その後、多種多様な品種が開発され、現在栽培されている中国茶の数は、何と約2000種。味わいを愉しむ飲料としてだけではなく、昔から薬としても飲まれています。人間の身体の約60%は水分で構成されており、中国茶には身体に有効な成分が多く含まれているため、毎日口にする水分をご自身に合った中国茶に変えてみるだけで、身体の不調は徐々に改善されていきます。一例を挙げると、冷え性に「鉄観音」、体脂肪減少に「プーアル茶」、目の疲れに「菊花茶」、花粉症に「凍頂烏龍茶」、便秘に「大紅袍(だいこうほう)」など。中国茶に含まれる栄養素も多種多様ですので、毎日の生活の中に取り入れていきたいものです。
 日本でお茶と言えば緑茶をイメージしますが、世界全体では紅茶が主流となっており、世界のお茶の生産量の約80%を占めています。中国茶は緑茶、白茶、黒茶、黄茶、青茶、紅茶の6種に大別されますが、中国で最も飲まれているお茶は、日本同様、緑茶です。しかし、同じ緑茶でも、中国茶と日本茶では製法が異なるため、お湯の温度も味わいも異なります。日本茶の場合、甘みや渋みが生命線のためお湯を冷ましてから淹れますが、中国茶の場合、香りが生命線のため熱湯で淹れます。緑茶を好む日本人は、中国の緑茶も受け入れる要素は大きいと思われ、中国緑茶の高い「香り」を日本市場に啓蒙させることが出来れば、烏龍茶に続くヒットアイテムに成長出来る要素を秘めています。
 さて、日本でのお茶愛好家は比較的女性が多いのですが、中国においては圧倒的に男性の世界で、お茶愛好家の95%以上が男性となります。つまり、中国のお茶市場はイコール男性市場となるため、道具に対するこだわりが強くなる傾向にあり、中国人男性は国内外の茶器をこぞって買い求めています。特に付加価値の高い日本の伝統工芸品は、お茶愛好家の中国人男性にとって垂涎の的。中でも鉄瓶は大ブームになっており、お茶愛好家にとって鉄瓶はもはや必須アイテムと言えます。最近では、中国産の低価格の鉄瓶が大量に流通されているため、高級品と普及品、茶器の二極化が顕著になっていますが、一部富裕層の間では、より良い茶葉と茶器を求め、そして、自宅でより良い茶空間を創りだすことに、人生の歓びを味わっています。
 弊社の中国市場は、上海と北京に店舗を構える高級小売店「煙波」にて、製品を展示販売しています。中国市場にいち早く鉄瓶を広めた中国企業で、鉄瓶や銅器の他、日本の伝統工芸品の最高級のみを取り揃え、中国お茶愛好家の間では、中国一の高級店として名の知れた存在です。先月6月25日、26日、上海と北京の「煙波」を訪問しましたが、お茶愛好家の人口は増加し、さらには、茶器に対するこだわりは、ますます強まっていると感じました。弊社製品の場合、ご自宅使用の他、お茶愛好家同士の男性から男性への贈り物として購入されるケースが多いとお聞きしています。現在は衰退しましたが、中国は世界的銅器産地であり、鎚起銅器は中国から伝わった技術。馴染みのある素材のため、お客様の銅に対する愛着は、他国とは少し違うと実感しています。
 中国茶道は歴史的には古いものの、現在の中国茶道は数十年ほどの歴史の中で再編纂されたものであり、確固とした形式はなく、自己流にアレンジして愉しむ方が多いようです。日常生活では急須などは使用せず、耐熱性グラスに茶葉を入れ、直接お湯を注ぐ淹れ方が一般的ですが、お茶愛好家の間では、茶葉、茶器、香り、書、音楽など、自分が求める茶空間を作ることが、「粋」とされ、自分自身のこだわりを茶空間に集め、極上の中国茶を愉しみます。日本茶は旨みが主体ですが、中国茶は香りが主体のため、お香と中国茶の「マリアージュ」は格別で、そのリラックス効果は絶大です。知れば知るほど広がる中国茶の世界の広さ、そして、その奥深さ。日本における中国茶市場は小さいものの、日本人に受け入れられる要素はかなり大きいものがあると思っています。