[第71号]ロシア市場の大いなる可能性

  ヨーロッパ、中東、アジアに面し、世界最大の国土を持つロシア。その面積は日本の約45倍です。首都モスクワの人口は1300万人を超え、ヨーロッパ最大の都市であり、東欧からヨーロッパ・ロシア経済圏を繋ぐ中心都市としての役割を担っています。モスクワの経済成長は著しく、モスクワの億万長者の数はニューヨークを抜いて世界第1位となり、世界で最も多くの富裕層が在住する都市です。また、モスクワ市の予算規模はニューヨーク市に次いで第2位であり、世界経済に占めるシェアを急速に伸ばしているBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の最右翼として挙げられ、ロシアはモスクワを中心に、世界経済の牽引役として大きな期待が寄せられています。

  ロシアは石油やガス収入の急拡大と、ここ数年の世界的な価格高騰に伴って給料が引き上げられ、消費が一気に拡大し、ソ連崩壊で休眠状態になっていた生産設備も息を吹き返してきました。このように経済成長は著しいものがありますが、ロシアに対する印象は決して良いとは言えず、中国、インド、ASEAN諸国などに比べて、日本企業のロシア進出への関心は今一つ低いというのが現状です。しかし、ロシアは日本ブームに沸いており、親日的な国民性を反映して、日本製品への信頼度は極めて高く、さらには芸術文化の盛んな国柄、文化認知度も高いため、日本企業にとって大変有利な要素が揃っています。イメージに流されず、今後は客観的にロシア進出を検討することが、日本の経済成長にとって必要不可欠な要素となっていきます。
 
日本企業のロシア進出有望産業の筆頭格は、自動車産業とヘルスケア産業です。欧州での自動車販売台数はドイツに次ぐ規模ですが、人口あたりの乗用車保有台数は少ないため、販売増加の余地が極めて高い国であり、日本企業では、マツダ、トヨタ、日産、三菱は既にロシアでの生産を開始しており、今後の日本車の需要は、さらなる拡大が見込まれています。そして、 ヘルスケア産業も急成長が見込まれる分野です。人口減少に直面しているロシアでは、先進国に比べて短い平均寿命(男:59歳、女:73歳)の改善が急務となっていますが、その原因の一つとして、医療レベルの低さが指摘されています。ヘルスケア産業は外資系を中心に、ロシア参入が活発化していますが、世界有数の技術を要する日本企業がさらに積極的に進出すれば、日本企業のシェア拡大は確実と思われます。

  首都モスクワや第2の都市サンクトペテルブルクを中心に、女性の社会進出が増加し、それに伴って女性の所得水準も上昇。女性の美意識が高い国であり、日本の化粧品業界のロシア進出は年々盛んになっています。その先駆けは、高級化粧品ブランド「POLA」です。2007年、セレブが集まるモスクワ最高級の百貨店「TSUM(ツム)」に、日本法人として初めて直営店を開業。高級化粧品をラインナップするだけでなく、ロシアで馴染みの無かったカウンセリング販売とエステによって絶大な支持を得ている他、寒冷で乾燥が厳しい気候のため、高級クリームなど保湿用品の需要が高く、スキンケアに強い日本企業は参入の余地が高いとのこと。現在「POLA」は、モスクワを中心に約70店舗を展開していますが、数年後、100店舗展開を計画しています。

  弊社はモスクワに本社を置く、ロシアの高級家電の製造販売「BORK(ボルク)」と取引があります。デザインから販売までを一貫して自社で行うロシア最高級家電ブランドで、「BORK ART」を立ち上げ、上顧客の方へ玉川堂製品をご紹介いただいております。現在は玉川堂製品のみの販売ですが、今後は伝統工芸品を中心に、日本製テーブルウェア用品の最高級品を取り揃え、販売していく計画です。先日、5月28日、29日の2日間、モスクワ市内のBORKフラッグシップブティックにて、上顧客に加えマスコミ約20社をご招待し玉川堂イベントを行いましたが、親日家の多さ、そして芸術文化のお国柄、文化認知度の高さには驚くと共に、長きに渡り受け継がれてきた日本の伝統に対する評価も大変高く、モスクワ市場の潜在需要の高さをあらためて体感するイベントとなりました。

  ロシア国民にとって日本は、技術力と感性に優れた製品を生む国として日本製品に対する評価は絶大で、日本製品を世界一評価する国かもしれません。日本食も破竹の勢いで浸透し、既にブームを超えてロシア国民には欠かせない食となっており、ロシアのレストラン市場の総売上高約30%を占め、自国ロシア料理に次ぐ人気ぶりです。ロシア取引にあたって、強固な官僚主義や通関手続きの煩雑さなどはあるものの、資源大国ロシアの潜在的なビジネスチャンスの大きさは図り知れないものがあります。広い国土と多くの人口を抱えるロシアは、世界一の富裕層から消費意欲旺盛な中間層といった様々な消費者層が存在しており、メイドインジャパンの技術をロシアへ広く浸透させていくことで、冷え込みつつある日露関係を好転させ、共存共栄の日露関係を構築していきたいものです。