[第66号]和食が無形文化遺産に登録

  先月、日本の「和食・日本人の伝統的な食文化」、韓国の「キムチとキムジャン文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。食関連の無形文化遺産では、「フランスの美食術」「地中海料理」「メキシコの伝統料理」「トルコのケシケキ(麦がゆ)の伝統」が登録されています。「和食」は一般的に煮物や味噌汁など、いわゆるおふくろの味、もしくは郷土料理や懐石料理などを指しますが、今回、無形文化遺産に登録された「和食」は料理だけではなく、季節の美しさを皿の上で表現する感性や、年中行事との密接な結びつきなど、日本人の食における文化や社会的習慣も指します。政府はこの登録を契機に、和食を海外市場へ積極的に展開し、日本産農水産物の輸出拡大を図ることを計画しています。 

  日本のユネスコ無形文化遺産は、能楽、歌舞伎などが登録され、和食は22件目の無形文化遺産となります。似たような制度に「世界遺産」がありますが、無形文化遺産が形のない文化を対象としているのに対し、世界遺産は建築物や自然など、有形のものを対象としています。和食の無形文化遺産登録の前年2012年は、和歌山県の「那智の田楽」が登録されており、新潟県内では2009年に「小千谷縮・越後上布」が登録されています。政府が和食を登録を目指した背景には、食の多様化による和食離れの危惧、原発事故で広がる東北を中心とした食材の風評被害など、日本の食をめぐる危機感がありました。また、無形文化遺産に登録することによって、日本の食文化が世界市場に広がり、外国人観光客の増加や農水産物の輸出拡大も目指しています。 

  和食が世界に誇るべき特色を列挙してみました。①四季や地理的多様性による新鮮な山と海の幸。②四季の移ろいを取り込み、自然の美しさを表した盛り付けなどの高い芸術性。③生もの、焼く、煮る、蒸す、揚げる、あえる、発酵させる、干すなど、世界でも類を見ない多様な調理法。④その調理をするための道具、盛皿、お椀などの道具も多種多彩。⑤世界中の料理の味覚構成が油脂中心に対し、和食だけが「だし」に代表される旨味が味の土台を形成。英語でも「UMAMI」と表現されている。⑥したがって、動物性脂肪が少ない上に食物繊維が多く、極めて健康的な料理であり、健康食として世界中の医師も注目している、などが挙げられ、これらに無形文化遺産としての価値を見出すことが出来ます。

  こうした一方で、和食の未来を支える足元は危うい面もあります。日本における食生活の洋風化が進み、和食に親しむ機会が減っています。日本ほど世界各国の料理が食べられる国は珍しく、大手食品メーカーのアンケートでは、日本の小中学生の好きな料理の上位に、欧米料理が上位にズラリとランキングされていました。和食が無形文化遺産に登録された一方、和食は「絶滅危惧種リスト」にも入ってもおかしくないと指摘する専門家もおり、若年層の和食離れを危惧しています。また、一人で食事する「孤食」や、家族の食事時間が異なり、各自が好きなものを食べる「食卓崩壊」という現象も近年問題となっており、一家で郷土料理を楽しむ、郷土の食文化を親から子へ伝える、といった伝統的な家庭習慣の意識が薄れてきいる現象にも警鐘を鳴らしています。

  和食を啓蒙させるためには、まず、日本人が和食の普遍的な価値を見直していくことが重要でしょう。地元食材・郷土料理の魅力を再認識し、食材や調理法を受け継いでいくということを、産学官連携で取り組む必要性があると思います。それを踏まえ、世界市場への売り込みも産学官連携で行っていくことが求められます。和食は世界的に注目を浴びていますが、和食を楽しむ外国人は富裕層を中心にまだ一部の方のみ。日本にはフランス人以上に上手なフランス料理を作る料理人はたくさんいますが、日本料理を日本人以上に作る外国人はごく少数。海外の和食のお店では「これが和食と言えるのか?」と驚くような料理を提供するお店も多く、今回の登録によって、和食の世界標準化も推し進めていきたいものです。

    和食は四季の食材を活かし、身体に最も良い影響を与える健康的料理。そして、日本人の持つ繊細で緻密な国民性が表現され、特定の分野を極めようとする専門性、絶えざる技術の果てしなき追求心とが見事に発揮された日本の伝統文化であり、世界に誇る総合芸術でもあります。無形文化遺産・和食を国民レベルで継承発展させ、和食を中心とした食生活による健康の促進、そして、和食の奥深さと可能性を国内外に広く啓蒙していく時です。クールジャパン政策による海外市場開拓の促進、TPP参加も推進させ、和食を核とした食材・日本酒・器など、農商工連携による日本製品の世界市場開発を国を挙げて推し進めていくことが、今年の日本経済活性化策の柱になっていくものと考えています。