[第65号]東京オリンピックとデザイン

 日本の未来を輝かす今年の出来事として、私は2020年東京オリンピック開催決定を真っ先に挙げます。オリンピック開催を決定付けた最終プレゼンテーションでクローズアップされた言葉は「お・も・て・な・し」。今年の流行語大賞にもノミネートされています。日本は1964年東京オリンピックにおいても、世界の人々を迎え入れるにあたり、おもてなしの細かい心配りを忘れなかったと言います。それは、ホテルやレストランなどのサービス業に限ることでは無く、多種多様の産業が東京オリンピックを美しいスポーツの祭典と位置付け、美しい都市形成に日本の産業界が一致団結。日本はおもてなしを通じて、世界を代表する国際都市へと発展していきました。

 1964年東京オリンピックは、戦後、日本に新時代を構築させた最大のイベントとして、経済成長に大きな貢献を果たしました。東京オリンピックの公式ロゴマークは、新潟県燕市出身・燕市栄誉市民でもある世界的グラフィックデザイナー亀倉雄策氏が手がけました。日の丸と五輪のマークにTOKYO・1964の文字を配置したオリンピックのロゴマークは、極めてシンプルでありながら、インパクトがとても強く、造形的に完成度が高い日本を代表するデザインです。また、ユニホームのデザインは森英恵氏や石津謙介氏、建築では丹下健三氏が斬新な国立代々木競技場を設計。日本が一丸となって取り組んだデザインや技術力は世界を驚かせ、先進国日本をアピールさせました。

 東京オリンピックにおいて初めて導入したピクトグラム(絵文字、シンボルマーク)も、世界中の方々から高い評価を得ました。言葉の壁を超えた相互理解のため、世界中の方々をスムーズに誘導させることが可能なピクトグラムは、日本人デザイナーが考案したものです。競技種目からトイレ、レストランなど、さまざまなピクトグラムが配置されましたが、これは日本が生んだデザインの傑作「家紋」をヒントに開発されたものであり、日本人の感性を踏襲した世界に誇る文化遺産とも言えます。美しく分かりやすいピクトグラムは、世界の人々に対する「お・も・て・な・し」。2020年も、前回東京オリンピック以上に美的感覚溢れ、統一感のあるピクトグラムを開発すれば、日本に対する好感度はさらに上がることでしょう。

 同時開催のパラリンピックにおける情報のバリアフリー化も、日本に与えられた課題と言えます。視覚、聴覚などに問題を抱える世界の方々に対し、どれだけ素早く、的確に、そして美しく情報を伝えることが出来るか。日本という国の知性が問われると共に、日本の公共デザインのレベルを上げるチャンスでもあります。1964年東京オリンピックによって開発されたデザインの数々は、オリンピックの象徴にとどまらず、デザインという概念が日本の産業界にも広がり、日本の経済成長にも大きく貢献。それらのデザインの数々は、日本社会に欠かせないインフラストラクチャーとなりましたが、2020年東京オリンピックでも、デザインの力で日本の経済を動かしていきたいものです。

 一方、オリンピックは地場産業の技術・デザイン力を世界へ発信する、絶好の機会でもあります。新潟県では、燕市が選手村での燕製洋食器のご使用、また、金属加工技術を活かした燕製メダルなど、世界有数の金属加工技術をアピールすべく「つばめ東京オリンピックプロジェクト」を設立。そして小千谷市では、開会式に着用する日本選手団のジャケット公式ユニフォームに、小千谷縮の素材を使用していただくプロジェクトを結成。夏場に開催されることから、涼感に優れた天然素材である小千谷縮は最適の素材であることを強調し、今後PR活動を行っていきます。これは新潟県内のみならず、全国の地場産業において、東京オリンピックに向けたプロジェクトが始動していますが、オリンピックを通じて、地場産業とデザイン業界の協働による革新的な地場産業製品を開発、アピールしていきたいものです。

 日本がオールジャパン体制を整え、世界中から訪れる方々に日本の文化的成熟度を示すことが、意義のある「お・も・て・な・し」であると考えています。オリンピックはスポーツの祭典であると共に、平和と文化の祭典でもあります。その国の文化のレベルを向上させ、その文化の力を通じて、国際社会をさらに豊かなものへと高めることが可能となります。2020年東京オリンピックでは、日本人の感性と技術力を発揮させる最高の舞台でもあることが、日本の経済成長を加速させる重要な位置付けとなります。日本の文化を世界へ示す絶好の機会である2020年東京オリンピック。今こそ日本の産業界が一致団結、デザインの力を発揮させ、新しい日本を構築していく時です。