[第67号]フランスにおける日本茶ブーム

   日本ブームは世界各国で興っていますが、特にパリを中心としたフランスは、その傾向が強いようです。フランスは、日本食、BENTO(弁当)、漫画、柔道など、日本文化を多様に受け入れていますが、シラク元大統領が、相撲をはじめとした日本文化に精通しており、それを国民に広く認知させたことが、日本ブームをさらに加速させたとも言われています。日本文化の代表格はフランスでも寿司であり、ブームを超えてフランスの食には欠かせない存在となっています。そして、次なるブームは日本茶です。寿司をはじめとした日本食の浸透により日本茶の需要も高まると同時に、パリ市内のお茶専門店のほとんどが日本茶を取り扱っています。また、日本茶が楽しめるカフェやサロン・ド・テも急増しており、今後、さらなる市場拡大が見込まれています。

 フランスには無数の地域ブランド「原産地呼称制度」を持つワインやチーズの文化があり、多様な味覚を区別できる繊細な味覚を持っている人種です。そのため、フランス人には日本茶本来の味わいを的確に評価できる要素が整っています。日本では全国的に日本茶が栽培されていますが、その地域の土壌によって異なる渋みや甘み、熱湯ではなく湯冷ましを行う温度管理、的確な抽出時間による香りの引き出し方など、ある種、ワインの要素との共通事項が多々あり、その奥深さにフランス人は興味を示しつつあります。また、煎茶と玉露以外の日本茶で、同等の人気を誇る品種が玄米茶。独特の香ばしい香りが話題を呼んでいます。玄米茶人気の背景として、フレーバー・ティーの文化がフランスに根付いているからと言えます。

 緑茶の生産量のシェアは、中国が80%、日本10%、その他アジア10%となっており、フランスで飲まれている緑茶の多くが中国産です。近年、寿月堂、ルピシアなど、日本企業のパリ進出によって高級日本茶が次々に流通されるようになると、より香り高く味わい深い日本茶を求める方が増えてきました。パリ市内で日本茶を販売するショップは急増しており、日本茶専門店も登場し、年々、高級化も進んでいます。「この店で一番高価な日本茶がほしい」と言う顧客も一定数おり、教養があるように振る舞おうとする「スノッブ」と言われる文化があるパリらしい現象も、高級化路線に拍車を掛けています。また、飲むためだけでなく、食材、特にデザートとして抹茶の需要も高まり、高級レストランを中心に抹茶が使用されています。

    先月1月下旬、弊社製品を多数お取り扱いしているパリ6区「ルピシア」へお伺いしました。「ルピシア」における日本国内の展開は、比較的若年層を対象としていますが、パリ店ではパリ市内の一等地に店舗を構え、内装も豪華に仕上げ、高級路線でパリ市民に日本茶と茶器の啓蒙を図っています。店内には、日本茶、紅茶、中国茶など、世界各国のお茶を取り揃えていますが、売上の6割が日本茶とのこと。弊社製品だけでなく鉄器をはじめとした日本の伝統工芸品を取り揃え、店内試飲スペースでは茶器を使用し、日本茶を楽しむことをフランス人にしっかりと説明されている姿には感銘しました。また、パリで日本料理初のミシュラン星獲得「あい田」が、和菓子と日本茶を楽しむ甘味処「和楽」を開業。弊社製品を使用して極上の日本茶を提供しています。

 スイスに本社拠点を置くネスレが、プレミアムコーヒー市場で世界的ブームを巻き起こした「ネスプレッソ」のお茶版「スペシャル・テ (Special.T)」が、お茶愛好家の多いフランスから世界 先行販売されました。テレビでも大体的にコマーシャル放映され、フランスでは大ブームになっています。これは紅茶や日本茶が密封されたカプセルをセットするだけで、茶葉によって温度や抽出時間を変え、自動的に本格的なお茶を楽しむことができるマシンです。ネスレはフランスを皮切りに、世界的にマシンの販売を広げています。このお茶マシンの登場により、フランスを中心にヨーロッパでの日本茶の消費が飛躍的に伸びています。日本茶を啓蒙させる良い機会ではありますが、最終的には茶器を使用して淹れることの楽しさと奥深さを、感じていただきたいものです。

 日本茶はワインと同様、それぞれに産地、品種、作り手の個性が現れ、それぞれに味や香りが異なります。それを的確にブランディングしているのが、フランスワインの最高峰・ブルゴーニュ地方です。畑や生産者名そのものがブランド化されており、世界一付加価値の高いワイン産地として名を馳せています。世界中のワインラヴァーはその畑や生産者を崇拝しており、それに応えるべく、フランスはワイナリー巡りを産業観光として推進させていますが、日本でも日本茶のさらなる地域ブランド化、茶園巡りという観光産業を推進させていきたいものです。フランスのレストランにワインリストならぬ日本茶リストがあったら画期的なこと。日本茶のブランディングが促進されるほどに、フランスでの日本茶ブームはさらに過熱することでしょう。