[第63号]開け工場!燕三条工場の祭典

 新潟県の中心に位置する燕市と三条市にまたがる地域・燕三条は、金物や金属洋食器をはじめとするものづくりの街。全国最大の工業団地が存在し、市民の多くが金属加工業に従事しています。燕三条製品をお持ちでも、燕三条へ行き、実際に工場を見学するという機会はなかなか無いもの。そこで企画したのが、燕三条が連携し、地域を代表する54企業が一斉に工場を開放、ものづくりの現場を見学・体験できるイベント「燕三条工場(こうば)の祭典」です。明日10月2日(水)から6日(日)までの5日間開催され、燕三条は工場見学ムード一色に包まれます。書物や映像では決して感じ得ることの出来ないのが工場見学。モノづくりに従事する人たちの技や心に触れることで、土地とモノと人との密接な関係を体感することが出来るでしょう。

 燕市と三条市。両市の金属加工産地形成の起源は、江戸時代に製作された和釘に端を発します。低湿地を形成していた燕三条は大洪水が頻繁に発生し、農作物の被害に苦しむ農民の救済策として、当時の幕府の代官が江戸から和釘職人を招聘。冬場の農民の副業として和釘の製作が始まりました。1625年〜1630年頃と言われており、原料である鉄は周辺地域の屑鉄が再利用されていたとのこと。刃物や器物の製作とは異なり、和釘は高度な技術を必要とせず農民でも比較的容易に製作できたこと、そして、城の建設など全国的に大規模な建築が行われていた時期で、和釘の需要が高まっていたことなどから、燕三条の農民は大洪水のリスクを避け、金属加工業へ業種転換を図るようになりました。江戸城をはじめとする全国の城の建築には燕三条の和釘が使用され、次第に燕三条は全国一の和釘産地として発展していきます。

 その後、燕市と三条市は、それぞれ独自の金属加工製品を開発していきます。1650年代、燕は当時支配されていた村上藩の指示で金具などの銅細工が製作され、1690年代、近郊の弥彦山から銅が産出されると銅細工が一層盛んに。1760年代には、仙台の渡り職人が燕に来て鎚起銅器の技術を伝授し鎚起銅器の製作が始まり、その後、弊堂の祖・玉川覚兵衛が継承。銅器産地として発展していきます。また、時を同じくして会津から煙管・矢立などの技術も伝わり、大正時代からは金属洋食器の製作も開始されました。一方、三条は、和釘の製作が長年続いた後、明治時代から刃物の製作が始まり、次第に刃物産地として発展していきます。また、昭和に入ると作業工具も製作され、戦後からは大阪と並ぶ作業工具の二大産地として栄えていきます。燕は銅を中心とし、三条は鉄を中心とした製品開発によって、複合金属加工産地を形成していきました。

 さて、燕三条には世界最高品質の金属加工製品を製造する企業が多数存在します。三条市「スノーピーク」は、世界一高価格・高品質のアウトドアブランドとして知られ、その完成度の高い製品を求め世界中に熱狂的ファンが存在。同じく三条市「諏訪田製作所」の爪切りは、爪切りのロールスロイスとも称され、その優れた技術力とデザイン性の高さは、まさに爪切り世界最高峰の逸品。そして、燕市「山崎金属工業」のカトラリーは、世界中の高級レストランで使用され、ノーベル賞の晩餐会でも使用される世界が認めた最高級品。同じく燕市の「磨き屋一番館」では、熟練の研磨職人が集結し、アップル社iPod裏面の鏡面研磨を行うなど、金属を磨くことに特化した世界が注目する技術集団。この度の「燕三条工場の祭典」では、上記4社の工場も開放します。

 今、全国各地で「産業観光」が注目されています。大手企業や地場産業の工場見学、歴史的・文化的価値のある古い機械器物などを訪ねて、モノづくりの心に触れ、学び、体験する、新しい観光スタイルです。観光という言葉の語源は、中国の古典「易経」から引用された「観国之光」という一節から生まれたとされ、「国の光を観る」ということ。光とは、歴史・伝統・文化。その土地を訪れ光を感じ、その土地の光を通じて、その土地の地場産業や企業に愛着を持っていただくことが産業観光のあり方です。アジア諸国の急激な台頭によって、日本は他国では真似の出来ない技術を用いた高付加価値製品の開発を求められていますが、高付加価値製品を開発し、ユーザーの方々から製品の魅力をより一層深く認知し、製品を所有する満足度を高めていただくためには、実際に工場をご覧いただき、その土地と企業の文化、モノづくりの臨場感を体感していただくことに尽きます。

 産業観光。今後の日本経済の発展に欠かせない重要なキーワードになっていくことは間違いないでしょう。そのためには、これからの時代、地場における連携力の強さがより重要性を増していきます。燕三条の多くの企業が海外進出を果たし、燕三条製品は世界市場へと流通されていますが、これからは、海外進出をより一層加速させると共に、世界中の方々から燕三条へお越しいただき、燕三条を世界的産業観光都市へと成長させることが、燕三条のブランド力を高め、各企業を発展させるための重要な戦略と考えています。その第一歩が「燕三条工場の祭典」です。点在する工場の点を線で結び、おもてなしの心で世界中の皆さまをお迎えいたします。「開け、工場!」。これを機会に、燕三条へ足を運んでいただければ幸いです。