[第61号]世界最大の情報発信地・ニューヨーク

   ニューヨークは1790年以来、世界最大の都市の地位を維持し続け、世界中の経済、文化などに大きな影響を及ぼしています。市内約800万人の人口と都市圏約1900万人の人口に加え、毎年国内外から約5000万人の観光客が訪れ、名実ともに世界最大のマーケットを誇ります。ニューヨークを何より特徴付けるのが、摩天楼とも言われている超高層ビル群であり、香港と共に世界最大級の数を誇り、その数は約5500棟から成り立っています。ま た、ニューヨークにオフィスを持つ企業の約10分の1が外資系であり、グローバル化された都市として国際的ビジネスを展開。約170の言語が使用され、人口の約3分の2がアメリカ国外の出身であり、世界中からあらゆる分野のフィールドの人々が集結し、世界トップレベルで競い合っています。

 多数の人種がニューヨークでビジネス展開しているだけあり、ニューヨーク市内の食文化のバリエーションも世界有数。中でも日本食の人気は破竹の勢いです。ニューヨーク・マンハッタンでは、20年前、数十軒しか無かった日本食レストランが、今や約600店舗にまで増加しており、日本食をメニューに加えているレストランは約1万件存在するとのこと。その増加率は特筆すべきものがあります。当時は「外国料理」ということで、高めの値段設定をし、顧客側もエキゾチックな雰囲気を楽しめればと、その値段設定を受け入れていましたが、現在は大西洋で獲れた良質で安価な魚を仕入れるなど、企業努力を重ねた結果、価格も味覚も日本とほとんど変わらないほど、進化を遂げています。

 日本食が空前のブームとなれば、当然、日本酒の需要も高まっています。日本酒の最大の輸出国はアメリカで、従来、日系食品商社が輸入・販売を一手に担っていましたが、近年の傾向として、米系の輸入会社や販売会社の参入により、アメリカビジネスの可能性が一層広がっています。特にニューヨーク市内の日本食レストラン増加に伴う日本酒需要は、今後も大きな増加が見込まれ、新潟県内の日本酒蔵元も積極的にニューヨーク市場開発を行なっています。日本酒業界は約40年前から前年比で売上を落としていますが、フランスワインも国内でシェアを落とし続けながら、世界で認知されたことで大きな発展を遂げています。アメリカの輸出強化、特にニューヨーク市場開発は、日本酒業界にとって輸出拡大への試金石となる市場です。

 我々、伝統工芸業界にとっても、ニューヨークは大変魅力的な地域です。世界で最もアーティストが憧れ、集まる街であり、世界的に有名な美術館や博物館が多数存在し、その芸術コレクションは世界有数の規模を誇ります。また、劇場やコンサートホールなどの文化施設数、アートギャラリー数も世界有数。山手線内とほぼ同じくらいの面積のマンハッタンだけでも約4500軒のギャラリーが存在し、世界中のアーティストがニューヨークから世界へと、日々情報発信を行なっています。さらに、それを購入する富裕層のみならず、バイヤー、コレクター、学芸員など、全てにおいて層の厚い地域。芸術分野に関わる企業や作家においても、やはり、ニューヨークは特別な存在です。

  ファッションビジネスの世界は、ニューヨークの街の特色を端的に表しています。ファッションビジネスは、ニューヨークとパリが双璧。パリは「ファッションの交差点」、ニューヨークは「ファッションビジネスのショールーム」とも表現されています。パリは世界各国から優秀なデザイナーが集結し、ファッションを育成・発信する機能が確立されており、民間と行政が一体となってファッションを文化として育てていく土壌が整っています。それに対しニューヨークは、あくまでビジネス勝負の世界。世界各国から常に新進気鋭の業者が参入し、大規模ながらも規制の少ない自由な競争環境の中で、日々激しいビジネス競争が繰り広げられています。

  先月、ニューヨーク新潟県人会25周記念式典に出席しました。ニューヨークで活躍する新潟県人は約1500人、全国規模では約55000人存在します。そのネットワークを最大限に活かし、より積極的にニューヨーク市場を開拓して行きたいものです。大きな夢を持った多種多様な人種が、世界最大の情報発信地で勝負すべく、平等な社会構造の中で奮闘する街。これがニューヨークです。米国経済の取り巻く環境は決して良いとはいえませんが、ニューヨークにおける市場参入は無限の可能性を秘めており、中でも日本人が得意とする、品質とデザインを兼ね備えた高付加価値の製品は、今、まさに注目の的。日本の地場産業が連携し、ニューヨーク市場開発を推進していくことは、日本の地場産業再生の大きな契機になることでしょう。