[第56号]第三のイタリアに学ぶ地場産業の活性化

 イタリアは欧州において、ドイツに並んでGDPに占める製造業比率の高い職人大国です。自動車・医療品・精密機械などに強いドイツに対し、イタリアは、ファッション・皮革・家具・キッチンウェアなど、デザイン性に優れた日用品が得意分野。特にイタリア北東部と中部には多様で独自性高い中小企業が多数存在し、世界的にも高い競争力を持っています。イタリアは先進国の中で最も中小企業の比率が高い国で、従業員10名以下の企業がイタリア企業全体の約95%を占めています。この数字はイタリアの産業構造の特色を如実に物語っており、地域に根ざした小規模の家族経営が大変盛んな国。それぞれの中小企業が特定分野に特化し、独自の技術やデザインなどによる差別化を図り、国を挙げて独自性の高い製品を輩出しています。

   ヴェネツィア・ボローニャ・フィレンツェなど、イタリア北東部から中部にかけての都市は「第三のイタリア」と呼ばれ、イタリアの地場産業が集中しているエリアです。地元意識の結束、ファミリー企業の創意工夫、自治体による産業支援や世界規模の見本市開催などにより、世界的競争力を持った中小企業が点在。高品質な製品を生み出す世界的に注目される地場産業エリアです。古来より南北と色分けされるイタリアですが、「第三のイタリア」とは、北東部と中部の地場産業の目覚ましい台頭によって、イタリアには第三の地域が存在するという意味が込められており、「第三のイタリア」には一般に陽気と言われるイタリア人気質と異なり、北部ヨーロッパ的の質実剛健な職人気質が見られます。

   イタリアには約200の地場産業の産地が存在し、その内、繊維が約35%、皮革27%、家具約20%と、イタリアを象徴するような産業が大多数を占めます。また、イタリアの中小企業は海外進出に対して大変意欲的で、地場産品が世界各国に輸出されており、中小企業の輸出比率は世界一。輸出依存率約60%は、日本の中小企業の遥か上を行く高水準です。イタリアの北東部・中部と言えば、アルプス山脈がそびえ立つ大自然豊かな山間地ですが、そこから国際的な競争力を発揮している中小企業が多数出現しています。日本では地方の経済、特に山間地や遠隔地の振興が課題となっていますが、イタリアではアルプスの山中に世界的な産業集積が形成されていることにも特筆すべきものがあります。

   日本とイタリアの中小企業の違いは、日本は大企業の協力会社としての産業構造に対し、イタリアの場合は製販一体型のビジネス構造です。少人数の中小企業製造業であっても、自社で売り込みを図り、エンドユーザーの顔を見てモノづくりを行なっています。このように、イタリアの中小企業の多くは大企業と対等の関係を築き、「Made in Italy」として自社の企画で製造し、自ら営業。それは国内市場だけでなく、世界市場もターゲットとしたビジネスを展開しています。これが日本になると「大手企業の部品を作っている」「大手ファッションメーカーのOEMをしている」など、傘下・系列・取引などに経営資源を集中させる傾向にありますが、イタリアでは製販一体型に経営資源を集中させることが、一般的な経営のあり方とされています。

   イタリアでも「第三のイタリア」が台頭する前、1960年代までは、大企業が幅を利かせたビジネスが展開され、職人技を駆使した製品の開発は影を潜めつつありました。しかし、1970年代のオイルショックによる不況を機に、大量生産した製品を国内外の市場で幅広く売るというビジネスモデルに限界を感じ、いち早く大量生産に見切りを付け、「高くても価値がある、自分たちにしか作れないモノを作り、それを自ら売る」という、それまでとは逆路線に転じ、国もブランド力、デザイン力の強化や輸出支援を積極的に推奨していきました。その結果、中小企業の活性化につながり、ファッションを中心にブランド企業が次々と出現。受け継がれてきた職人による匠の技は、確実に次世代へ継承されるようになりました。

   日本も匠の技を持つ職人は多数存在します。しかし、その多くの職人は大手企業や地元問屋の下請けで、年々仕事量が減り、将来を不安視して跡継ぎを作りたがらない傾向にあります。これに対しイタリアの地場産業は、既に70年代から下請けビジネスから脱却し、国際競争力を持った産業に成長。受け継がれた職人技を継承・発展させています。今の日本の産業システムのままでは、今後、多くの職人技を失う可能性があります。メーカーとしてのPR・発言力を高める産業システムの構築、TPPにも世界の動的均衡にタイミングよく参加し、国際競争力を高めるシステム構築も必要不可欠。日本の中小企業も自立したモノづくりと直販体制を展開し、日本の文化を世界へ伝えていくことは、早急にすべき日本の重要な課題です。