[第55号]マツダのプレミアムブランド戦略

   マツダは創業以来、常に「走る楽しさ」の実現を追求することで、歴史を刻んできた広島の自動車メーカーです。環境や社会との親和性が重視される今日、マツダが取り組んでいるのは、高い技術力を駆使した効率性やクリーン性のさらなる向上、そして、作り手とお客様がお互いに共感し合う、人の感動に訴える魅力を備えたクルマ作りです。デザインには、よりスポーティーな動きを追求し、マツダの全てを表現したフラッグシップカー「アテンザ」をはじめ、全車に躍動感溢れるデザインを採用。それはまさに、走るアート作品と言えます。次々と開発される車の数々は、世界各国における自動車デザイン関連のイベントにて多数の受賞歴を誇り、マツダのデザインは世界的にも高く評価されています。
 
   バブル崩壊以降、赤字続きだったマツダは、1996年、フォードの傘下に入り経営の再建に取り掛かります。当時の井巻社長は「マツダらしさが車に表現されていなかった」と語っているように、生みの苦しみを味わっている時期でした。そこで1998年、マツダが全世界で目指すべき方向を規定した「ワールドワイド・ブランド・ポジショニング」を策定。類似した製品で溢れる車市場において、マツダを選んでいただくためには、お客様の心の中での「強い結び付き」が必要であると考え、モノづくりの現場から、お客様まで一貫性のある結び付きを、いかにして強めていくかをブランド戦略の最重要課題と位置付けました。同時に、現在使用しているマツダのロゴマークも発表され、統一されたマツダブランドを展開し、新生マツダとして動き始めます。

   「10人中5人に認められるよりも、10人中1人でもマツダでないといけない顧客を創出していく」。経営の大改革に取り組んだ結果、「アテンザ」「RX-8」「デミオ」「アクセラ」「ペリーサ」「プレマシー」などを次々と発表し、洗練されたデザインと機能性、そして、その真摯なモノづくりの姿勢は、世界中のコアな顧客層を惹き付け、売上高、営業利益共に過去最高を記録していきます。そして、マツダはさらなるブランド力向上を目指し、2007年、言語的にお客様の心へ、よりマツダの理念を伝えるべく「Zoom-Zoom」を設定し、明確なブランドコンセプトを全世界へ訴求。親会社フォードが経営不振にあえぐ中、マツダは好調を維持し、2010年、フォードはマツダの株式を売却しており、現在は戦略的提携関係となっています。

   先月、マツダ本社にて鎚起銅器のプレゼン、その後、マツダ・デザイナーの方々との情報交換の場を設けていただき、マツダのブランド戦略などを学んできました。マツダ・デザイナーの方々は、デザイナーである前に、自らがマツダ車を誰よりも愛する熱狂的なユーザーであり、カーデザイナーとは、車を愛すべき生き物のような存在として車を表現していくことであると語っています。その基本となる考え方は、ブランドコンセプト「Zoom-Zoom」に込められています。「Zoom-Zoom」とは、子供の頃に感じた動くことへの感動を意味しており、創造性と革新性によって子供の頃に感じた動くことへの感動を持ち続け、心ときめくドライビング体験を提供したいという、マツダのモノづくりに対する強い気持ちが表現されています。

   さらにマツダは、2010年、より具体化した新デザインテーマとして「魂動(こどう)」を発表しました。野生動物が獲物を狙って跳びかかる瞬間や、日本古来の武道である剣道の突きの一瞬に垣間見る、研ぎ澄まされた力のバランスや爆発力、スピード感、緊張感など、「生命感に溢れ、心ときめかせる動き」をクルマ作りに取り入れようとする考え方です。マツダのデザインは、これまで長きに渡って「動き」をもとにしたデザインを提供し続けてきましたが、より躍動感ある「動き」をテーマにすることで、確固たるオリジナリティーの確立を目指し、デザインの力でマツダブランドをより強固なものにしていくという意気込みを感じます。

   世界の自動車市場7500万台のうち、マツダの販売台数は120万台と、世界シェアの2%弱。自動車メーカーとしては小規模ながら、世界で輝く存在として認知されるためのマツダのブランド戦略は、お客様と共に創り上げる「価値づくり」です。世界中の幅広い支持を得なくても、独自性の高いモノづくりに経営資源を投入し、マツダが目指すモノづくりに感動してくれるお客様と強いつながりを持ち続けること。そして、マツダ車がお客様の人生においてかけがえのない存在であり続けること。お互いが深い感動を共感しあう「プレミアムブランド」をマツダは目指しています。感動と心のつながりを引き起こす「Zoom-Zoom」は日々進化し続けており、マツダファンの熱狂ぶりは、ますます高まるばかりです。