[第50号]伝統工芸の将来展望

   おかげさまで、毎月1日発行の「玉川堂メールマガジン」は50号を迎えることが出来ました。主に出張の移動時間などを利用して、メールマガジンを書いております。4年後の2016年は「玉川堂創業200周年」を迎えますが、折しも、その年に「玉川堂メールマガジン」は100号を迎えることになります。メールマガジンを通じて、現在計画中の200周年事業のご紹介なども、今後、ご報告させていただきます。これからも、「玉川堂メールマガジン」を毎月お読みいただきたく、なにとぞ、よろしくお願い申し上げます。 
   経済産業大臣が指定する日本の伝統工芸産地は、現在、全国で211産地。京都府17産地が全国一の産地数で、次は、新潟県16産地、3番目は東京都と沖縄県の13産地と続きます。伝統工芸は、生活様式の変化、海外からの安価な輸入品の増大などにより、生産額は年々減少傾向にあります。また、企業数・従業員数も従事者の高齢化による自然減が続く中、こちらも減少傾向。生活様式の変化に伴う新しいニーズへの対応が遅々として進まない産地や企業が多くを占めていますが、一方、次世代の若手経営者による新たな動きが全国的に活発化しており、伝統工芸は新時代を迎えようとしています。
    伝統工芸の最盛期は昭和54年。メーカー数は約3万社、従業員数約30万名を数えていましたが、現在、メーカー数は半減、従業員数は4分の1に減少しており、今も減少に歯止めがかからない状況です。また、売上減も著しく、大手伝統工芸産地では、5年間で売上が半減した産地も存在。そして、年間売上100万円に満たないメーカーが、全国の3~4割を占めているという恐ろしい現実。これは高齢夫婦のみで経営するメーカーですが、子孫に跡を継がせない傾向にあり、30歳未満の従業者比率においては、昭和49年の29%を最高に、現在は5%にまで減少しています。現状のままでは、今後、さらに職人数の急激な減少が起こります。
   伝統工芸の発展と衰退の要因の一つとして、産地問屋の存在が挙げられます。バブル期までは、産地問屋を中心とした産業システムで伝統工芸は大きな発展を遂げ、メーカーが製作した商品は、次々と問屋に買い上げてもらえるという安定した仕組みでした。しかし、バブル崩壊で景気が低迷すると、需要は一気に低下。新たな商品開発を行おうとしても、顧客目線でものづくりを行うシステムが構築されていなかったため、未だ旧態依然とした商品が流通されているケースも見受けられます。また、メーカーのほとんどが、メーカー→産地問屋→大手問屋→小売店の流通ルートのため、それぞれ価格を上乗し、さらには、問屋や小売店の圧力によって、メーカーは材料費などの高騰でも値上げ出来ず、薄利を余儀なくされています。
    伝統工芸メーカーは、ものづくりには高い志を持っているものの、売ることに関しては意識が希薄、という傾向があります。伝統工芸の今後の発展に必要なことは、生産だけがものづくりなのでなく、「流通もものづくり」であるという考え方を持ち、メーカー自身が販路開拓を行うことです。生産から販売までのシステムを自社で一貫させ、お客様目線でものづくりを行なっていくことが、商品の魅力に反映されます。そして、逆に産地問屋は、ものづくりにも携わることです。これから産地問屋は、職人を従業員として抱える、もしくは、メーカーとの企業合併を行うなど、産地の常識を大きく打ち破るような大改革の実践が必要不可欠。産地問屋も、新たなビジネスを構築していく時代となっています。
   そして、行政はこれらのサポートを行い、地域の産業システムとして構築していくことが出来るかどうかが、今後の課題となります。企画マーケティング、異業種コラボレーション、国内外の市場開発などの事業を、全て企業に内部化するのではなく、地域的にオープンなシステムとして制度化していくことが必要です。また、企業ブランド構築の士気を高め、それを具体的に実践していくための教育、そのブランドイメージを視覚的にアピールするためのグラフィックデザイナーの登用、海外ビジネスに不可欠な語学力の習得などを、産学官連携によって、より積極的に実践していくことが、これからの伝統工芸にとって大変重要な要素となります。
    全国の伝統工芸の方々とお付き合いがありますが、毎年売上を伸ばしているメーカーはごく少数。地元のしがらみにとらわれない販路開拓を行い、的確なブランディングを実践しているメーカーが成功しています。世界一と評価される日本の伝統工芸の技術力、長年育んできた伝統工芸の歴史と文化、伝統工芸の独自性高い商品力。そこに直販体制を構築し、ブランディングの要素が加われば、伝統工芸ほど有望な産業はありません。付加価値も価格も高い伝統工芸品、丹誠込めて製作し命の宿った製品。だからこそ、生産と販売を一貫して自社で行い、「心を込めて作った商品を、心を込めて売る」「企業意思をお客様へ明確に伝える」ことが、私たち伝統工芸に求められるビジネススタイルなのです。