[第49号]日本は世界に冠たる老舗企業大国

   戦争や災害など幾多の困難を乗り越えて、日本各地で長く歴史を刻んできた老舗企業が注目されるようになりました。長い年月を生き延びてきたこと自体が信頼の証となって、商品やサービスに付加価値が付いていきます。帝国データバンクによれば、老舗企業には、共通する3つの要素があると定義付けています。1.ひたすら真面目に正直に、毎日の仕事を続けてきた。2.時代の変化を恐れない、動じない。3.自社の発展だけではなく、社会や地域の発展も望む気風が養われている。そこには、身の丈に合った経営、人間関係の重視、そして、地域性と時代性を併せ持つことが、老舗企業の共通事項と言えるでしょう。
 
 日本は世界に冠たる老舗大国。日本人の寿命が世界一なら、日本企業の寿命も世界一。創業100年以上の日本の企業は、約50.000社、200年以上は約3.000社存在します。これだけ多くの老舗企業が存在する国は、世界広しと言えど例がなく、創業200年以上の企業は、世界総数の約40%を占め、世界の約半数が日本企業です。創業200年以上では、日本の次が、2.ドイツ(約800社)、3.オランダ(約220社)の順。老舗イメージの強い欧州では、ブランドが継続しても、実際には他企業に売却されるなどして、創業者一族が経営から手を引いているケースが多く見受けられます。
 
 日本に老舗企業が集中した最大の要因は、極東の島国で被侵略と内戦が無かったことが言えるかと思います。侵略と内戦に見舞われなかった期間が長ければ長いほど老舗企業は存続するため、これは世界に共通する、いわば法則のようなもの。そして、継続を美徳とする日本人の価値観も影響しているものと考えられます。それを端的に示すのは、老舗企業の跡継ぎ養子の多さ。家業の長子相続にはこだわらず、長男が経営者に不向きなら養子をトップに据えることに、さほど抵抗感が無いという傾向があります。日本には「老舗の土台を築くのは、3代目あたりの養子」という言葉が存在するほど。これは、血族最優先の他国の家業とは、際立って異なる点です。
 
 さらに老舗企業の業種と地域の順位も調べてみました。業種のトップは清酒製造。次に、2.酒小売、3.呉服、4.旅館、5.婦人服小売と続きます。地域別に見ると、老舗企業数のトップは東京都。次に愛知県、3.大阪府、4.新潟県、5.京都府。企業比率では、トップは京都府、次に島根県、3.新潟県、4.山形県、5.滋賀県と続きます。上位に島根、新潟、山形が位置しているのは、北前船の寄港地としての影響、滋賀は近江商人の存在です。さらに地域を狭め、老舗の多い市や区のトップは、京都市東山区。町内単位では、新潟県柏崎市西本町がトップ。西本町は、3社に1社が創業100年以上という、老舗密集エリアとして知られています。
 
 さて、昨今、決まり文句のように「100年に1度の大不況」というフレーズが使われていますが、果たしてそうでしょうか。この100年の間には、昭和恐慌や第二次世界大戦という、今以上に深刻な不況要素があり、日本全国約50.000社以上の企業は、それを必死に乗り越えてきた過去があります。老舗企業は、「成長する」ための戦略だけでなく、「生き延びる」ための戦略を必要とする時期を、何度も経験してきました。特に、戦争や大災害は、インフラや人材、販売する商品が欠け、再起を果たすための原動力は、成長戦略よりも今日明日をどう生き延びるかという日々。幾多の不況期を乗り越えた経験は、時代を超え、会社継続のための教訓、家訓となり、後世にしっかりと根付いていきます。
 
 帝国データバンクが老舗企業経営者に「老舗企業として大事なことを漢字一字で表すと」の問に、「信」と回答が最多でした。「真心を込め、長い年月をかけてお客様や取引先と信頼関係を築いてきた」「地域の信頼関係を築いてこそ、企業は活かされていく」。一方、「変」「新」といった文字も上位に並んでいます。「老舗と言われるけど、先祖代々、革新的事業を行なってきたからこそ、今がある」とは、老舗企業の経営者なら誰もが強く体認していること。老舗とは信頼によって構築されると共に、革新の連続であり、不連続を連続させていくことで構築されていくもの。「変わらないために変わり続けていく」。これは今も昔も、日本企業に求められる普遍的な要素であり続けていくことでしょう。