[第43号]日本のものづくりに求められる流通改革

  日本のものづくりは岐路に立たされており、日本のお株を奪うかのような海外産の新製品が次々と開発され、日本市場を席巻しています。家電メーカーは、テレビでは「サムスン」、掃除機では「ダイソン」が日本のメーカーを追い抜き、トップランナーを独走中。調理家電に関しても、量販店では海外製品が売り場の多数を占め、携帯電話では「Iphone」をはじめとする新興勢力は、まさに破竹の勢いです。このように、海外ブランドの台頭は著しいものがあり、今、日本のものづくりはマネジメント力の真価が問われている時です。特に、「ものづくり」と「ブランディング」の関係をどう結び付けることが出来るか。世界一と言われる日本の技術力を活かした高付加価値の商品開発と同時に、これからは「流通改革」をセットにして開発していく必要性があります。

  日本は優れた製品を生み出しても、その多くのメーカーは、お客様が望む本来のマーケティングが出来ているとは言えません。例えば、家電製品は量販店の煩雑なチラシに掲載され、破格値で販売されています。これではメーカーのブランドイメージが高まるはずもなく、メーカーで選ぶというよりは、むしろ価格で選ぶ消費者が多くなり、勝者無き価格競争の渦に呑み込まれてしまうことに。また、せっかく高額な経費を費やしCMを製作しても、それは映像のみのイメージだけで、CMイメージが店頭に浸透していないケースも見受けられます。車業界の場合、ディーラーのショールームへ行くと、風船を貼ったり、手書きのベタな張り紙に貼らされ、車のブランドイメージが伝わって来ないことも。
 
  ブランドの代名詞とも言える「ルイヴィトン」。日本上陸の1981年、当時はマイナーブランドでしたが、「自分たちの店で、自分たちの社員が、自分たちの商品を丁寧に売る」というコンセプトのもと、徹底して自前の販売にこだわり続け、今や世界を代表するブランドへと急成長を遂げました。そして、今話題の「apple」社は、世界中に直営店を開設し、「apple」ブランドの世界観とブランドの全体像を巧みに表現しています。量販店で販売されていることもありますが、ブランドイメージを損なわれない展示が成されています。また、重要なことは、「apple」側がブランドの鉄則でもある価格決定権を持っているため、小売価格は「apple」側がコントロールし、安売りの被害に直面していません。

  日本のメーカーの多くは、安易に量販店におもねるばかりに、本来の優れた商品力が消費者に伝わりにくく、商品の魅力を失っているというのが現状です。乱暴な表現をすれば、センスのある商品が、センスのない方によって潰されているのです。そう考えると、ただ単に「いいものづくりをしている」だけでは、今の世の中、すでに限界に達しているということが言えます。技術力は世界的に評価されながら、ブランディングは技術力に追いついておらず、これが日本の多くのメーカーの現状です。お客様が本当に求めていることは、価格ではなく高い満足度。その満足をどう解釈していくかが、我々日本メーカーの課題であると思っています。

  農業に目を転じても、同様の問題に直面しています。農家→農協→卸売市場→仲卸業者→小売店といった流通を経て、農作物は消費者に届けられます。それぞれが中間マージンを上乗せしますので、小売価格が高くなるのは当然です。望ましい流通ルートは、「農家→小売店→消費者」、最も理想なのは「農家→消費者」。TPP問題に直面し、日本の農業は今、変革の時を迎えています。ただ、変革されるべき対象は、農業そのものの生産性ではなく、流通過程の効率性ではないでしょうか。農業の流通改革を進め、生産者と消費者を直接結び付けることが、日本の農業の発展につながり、後継者不足は必然と解消されていくはずです。
   
  ものづくり日本がこれから取り組むべき課題は、モノを生み出してから最終的にお客様の手に渡るまで、どのようなプロセスを経るかに尽きます。製品を流通業者へ渡し、それ以降は一切業者任せという従来型の流通過程に落とし込んでは、ものづくりの真の答えは永遠に出てきません。アジア諸国の台頭で、高付加価値の商品開発を求められる日本にとって、「感性あるマーケティング」はもはや必要不可欠の条件となっています。流通開拓こそ、今、最も求められている「ものづくり」であり、これはすなわち、顧客目線に立った本来のものづくりの姿でもあります。「メーカーは、製品をお客様の手に渡るまでの、全ての業務に対して責任を持つこと」。これは、今後の日本の経済成長に欠かせない、重要な要素になっていくものと考えています。