[第42号] 中国は世界の工場から世界の市場へ

   昨年2011年、中国が日本を抜き、GNP世界第2位に躍り出たとの報道が、世界中を駆け巡りました。2003年から2007年までGDP成長率は5年連続して10%を超え、今もなお、10%前後の驚異的な成長率を維持しています。そして10年後には、アメリカを抜きGNP世界第1位の座に就くのではないかと予測されています。1990年代から、安価で豊富な労働力を求め、世界各国の様々企業が生産拠点を中国へ移し「世界の工場」と言われましたが、最近では、「世界の市場」としての魅力も加わり、中国での現地販売を目的とした企業進出が急増しています。今後、先進国としての発展と共に内需拡大が予想され、今や消費市場大国として世界中から注目されています。

  破竹の勢いで急成長を遂げる中国経済。今後、徐々に経済成長は鈍化していくものと考えられますが、それでも、広大な国土と13億人という溢れんばかりの人口。急速に発展している地方都市も目白押しの状態。今後数年で、中国は世界経済成長の25%以上を担うと言われ、安定的な経済成長に向けて産業構造を「国内消費型」に転換しています。未だかつてない超巨大マーケットであり、有力な消費市場として世界中から注目されるのは至極当然と言えるでしょう。日本企業にとっても現地販売として参入する価値は年々高まっており、特に日本の国内市場は、これ以上大きくならないことが分かっている状況の中、海外への進出、特に隣国である中国への進出は、もはや必須条件でもあります。

  しかしながら、中国は販路拡大のチャンスでもある反面、市場秩序の混乱も著しいものがあります。その陽が強ければ強い分、陰もまた濃いというもので、当然ながら、多くの問題がはらんでいます。急激な経済の発展は、収益性のみを追求したがためにモラルという視点が欠け、コピー商品の問題は、世界中から非難の声が集まっています。品質不良の商品が市場に溢れ、知財保護が不十分のためニセモノの販売も多く、商業詐欺や商取引をめぐっての贈収賄も後を絶ちません。中国が法の支配を依然として確立されていないことが問題であり、契約を順守させ、財産権を保護する適切な法枠組みを確立しなければ、持続可能な成長や開発を長期的に実現していくことは難しいでしょう。

 さて、現在の日本デザインの魅力は、シンプル、素朴、ナチュラルという点に要約できるかと思いますが、中国のデザインは大味であり、デザイン水準は決して高いとは言えません。模倣が評価されるお国柄、アイデンティティに欠けるものがあります。しかし、中国のデザイン、ファッション、建築などの業界では、今、まさに正しい軌道に入りつつあるところで、多くの人材が海外での学習を終えて帰国し、進化発展を追求しています。この状況を後押しするかのように、2年前、温家宝首相はデザイン分野の強化を打ち出しました。今後、中国はデザイン産業の発展と拡大が見込め、主に若年層における商品品質とデザインに対する意識、高品質のものづくりへの意識の高まりが期待できます。

 また、中国の消費の特徴として、ブランド志向が強いことが挙げられます。「見え」の要素が強く、一目でそのブランドと分かるデザインが好まれ、顕示的消費(みせびらかしの消費)の傾向があり、サイズが大きなもの、見栄えの良いものが重視されます。しかしながら、この傾向も大都市に住む若年層になると変化しつつあり、品質や洗練されたデザインへの志向が徐々に強まっています。他国製品のコピーを避け、独自性を打ち出す傾向が見受けられるようになりました。これらの傾向が浸透していくと、「世界の市場」として参入する海外企業にとっては大きな追い風となり、近い将来、中国はますます優良な消費市場大国として変貌を遂げる可能性を秘めています。

  中国市場を一言でまとめると、「多元化市場」であると思います。日本を含めた先進国は、農業社会、工業社会、情報社会と、段階を経て発展してきましたが、中国では、農業社会、工業社会、情報社会が、同時進行で、しかも凄まじい勢いで発展しています。そのため、様々なレベルのニーズが存在しており、中国ビジネスに秘められた可能性は計り知れません。2009年、日本の最大の貿易相手国はアメリカから中国となり、日本の経済や企業の経営を考える上で、中国市場は、もはや避けて通れなくなっています。しかし、中国でのビジネス展開に関して、十分な情報や判断材料、対応方法が不足していることも事実です。まずは中国という国をしっかりと理解した上で、中国とのビジネス円滑化を推進していきたいものです。