[第41号] 急成長を遂げる日本ワイン

 近年、日本ワインが注目を浴びています。日本でワイン造りが始まったのが今から約140年前の1870年代の山梨県にて。その後、日本という風土の中で脈々と受け継がれてきましたが、醸造設備もノウハウも無く、ほとんど手探りで造った「葡萄酒」の時代から、本場フランスでワイン造りを学び帰ってきた新進気鋭の若手らが腕を振るう「ワイン」の時代へ。今、日本のワイン業界は、革命的とも言える激動の時代を迎え、ここ10年ほどの間に大きな進化を遂げています。日本ワインの品質向上ぶりには目を見張るものがあり、その証明として、海外で開催される国際コンクールで金賞を受賞するワイン、世界的ソムリエから絶賛されるワインも出現しています。

 日本にワインブームをもたらせたのは、1987年のボジョレーブーム、そして、1997年の赤ワインブームです。赤ワインにはポリフェノールが含まれ、高血圧、動脈硬化、心臓病などに効果があるという謳い文句で、大きな話題となりました。欧州人が動物性脂肪の食品を大量に摂取しながら心臓病発生率の低い要因は、赤ワインを飲んでいるからと言われています。一方、白ワインには非常に強い殺菌作用があります。「牡蠣にシャブリ」と言いますが、牡蠣との相性の良さだけではなく、シャブリなどの白ワインを飲めば、その強い殺菌効果によって食あたりを起こす可能性は、極めて低くなります。白ワインは、魚介類とのマリアージュのみならず、胃を守る強い見方なのです。

 日本ワインの多くは、輸入ワインをブレンドしたり、海外産の濃縮果汁を発酵させて造られています。自前で育てた葡萄を100%使用すると、地代、人件費、資材などの経費が重く伸し掛かりますが、輸入品を使用することで大幅にコストが削減できます。しかし、近年、国産葡萄を100%使用したワインの品質が著しく向上し、世界で高い評価を得ていること、また、輸入のブレンドは消費者に誤認を与えるとして、数年前、日本ワイン表示基準が大幅に改定され、原材料を明確に表示するようになりました。コスト面や天候面のリスクを背負っても、日本の風土を活かし、国内産葡萄を100%使い、高品質のワインを造ろうとする生産者が増えている中、表示基準の改定は、日本ワインの躍進を後押ししています。

 日本ワインの産地は山梨県と長野県が双璧。山梨の「甲州」はフランス・パリの三ツ星「ジョエル・ロブション」でも提供されるほど世界的評価を受けており、長野県の「桔梗ヶ原メルロー」は赤ワインの日本最高峰とも言われ、しっかりとした骨格と芳醇な味わいは、本場フランスを凌ぐものがあります。日本ワインは全国各地で生産されていますが、低温の北海道では、同じく気候の厳しいドイツで栽培されている品種「ケルナー」を育て、大きな成果を上げています。「ケルナー」は、ドイツを代表する「リースリング」などの高級品種と比べ、白ワインの二流品種として扱われてしまいがちですが、北海道に適した品種ということで、世界的に評価され始めています。

  新潟でも次々とワイナリーが開業されていますが、特に将来性を感じるワイナリーが、2006年開業、新潟市西部海岸近くに位置する「フェルミエ」です。雪国、雨量の多い新潟でありながら、積雪はほとんど無く、春から収穫の秋にかけての降雨は全国有数の少量という、ぶどう栽培には絶好の土地。その「フェルミエ」が新潟の風土に最も適した品種として探し当てたのが、スペインの白葡萄「アルバリーニョ」です。スペインでは「海のワイン」と言われ、魚介類とは見事なマリアージュを実現させます。日本で初めて栽培している葡萄ですが、秀逸な味わいで、新潟魚介類との相性は抜群。新潟の日本酒と共に、新潟を代表するワインとして、その将来性には太鼓判が押せます。

  日本で育てた葡萄で造ったワインは、日本の風土が否応なしに反映されます。日本では、欧州の高級品種の栽培が積極的に行われていますが、そのワインの多くが果実味や凝縮感など、欧州などのワインと隔たりがあるのは否めません。市場での人気を優先させ、むやみに欧州の高級品種を扱うのではなく、無名の品種でも、日本の風土、食材に合わせた葡萄を栽培していくことの方が、むしろ、日本ワイン業界の発展につながっていくのではないかと思います。日本ワインに改革を興すべく、新進気鋭の生産者が急増し、新時代を迎えている日本のワイン業界。その土地に寄り添い、その土地の風土に適した葡萄を栽培、その葡萄を100%使用していくことで、日本は世界を代表するワイン国の一つとして認知されていくことでしょう。