[ 第19号 ]世界が絶賛する家紋のデザイン

日本人なら誰もが所有する「家紋」。古来より衣類や用具など、様々なものに家や一族を表すシンボルマークとして使われており、家紋には家のルーツを語 り、多くの逸話や歴史が封じ込められています。また、優れたデザイン群が形成されている家紋は、そのデザイン性の高さに世界中のデザイナーや芸術家らが絶 賛。多数のメーカーがリスペクトし、家紋をアレンジした商品開発が行われてきました。

家紋は平安時代に貴族が使用したのが始まりで、戦国時代には敵と味方を識別するために用いられました。徳川幕府の次代は、庶民の苗字・帯・帯刀を許さな かった幕府も家紋の所有は認め、庶民は家紋を誇りに、着物や持ち物に付けて楽しんでいたそうです。この家紋の文化は世界の歴史からみても異色の存在と言わ れ、西洋とでは「クレスト」と呼ばれる紋章が存在しますが、王侯や貴族などに限定されており、庶民には無縁なもの。身分関係なく全ての日本人に与えられた 家紋は、日本独自の伝統文化といえます。

家紋は基本的なものだけでも約二百種類、同じ種類で異なるデザインのものを合わせると約五万種類以上あると言われています。家紋はデザインの美しさにも 特色があり、古くから花鳥風月を大切にしてきた日本人は、草花や鳥、動物など、それぞれの特徴を的確に捉え、それらが見事なまでにシンプルに表現されてい ます。ヨーロッパのデザイナーとお話しすると、ヨーロッパのデザイン事務所には必ず家紋集があるとのことで、家紋のデザインは、昔からデザイナーや芸術家 らのネタ本になっていたそうです。

家紋が本格的に世界にお披露目されたのは、日本の美術工芸品などを出展した海外博覧会です。1867年のパリ万博をきっかけとして大流行となったジャポ ニズムの影響で、家紋にもスポットライトが当たりました。家紋は海外のデザインにも通用する美しさを持ち合わせており、捉え方と表現の仕方で何様にも変化 するモチーフとして注目を集め、ヨーロッパでも家紋をアレンジした商品開発を行うメーカーが出始めたのです。

その代表例として知られているのが「ルイ・ヴィトン」です。パリ万国博覧会で、薩摩・島津家の家紋の入った品を見たルイ・ヴィトンの関係者がその家紋の 美しさに惚れ込み、家紋をヒントに「モノグラム」のデザインが考案されました。モノグラムの星のデザインは島津家の家紋「丸に十の字」を、花のデザインは 「横木瓜」をアレンジしたものです。ちなみにこの「横木瓜」は、私、玉川家の家紋でもあります。弊社も当時の海外博覧会には多数出展しており、ルイ・ヴィ トン関係者の目に留まったのでしょうか。

さらに代表的な事例をご紹介しますと、日本航空はフランス人デザイナーにロゴマーク作成を依頼した際、「日本には家紋という素晴らしいデザインがある」 と、家紋「鶴丸紋」にアレンジを加えたロゴマーク(JASとの合併前)を作成しました。また、私の好きな画家の一人、ウィーン分離派の巨匠「クリムト」も 家紋の美しさに惹かれ、代表作の一つ「幸福への憧れ」などに家紋の描かれた絵画が存在します。このように、家紋は世界中のデザイナーや芸術家らの感性を刺 激させ、家紋をアレンジさせた商品や作品が多数輩出されています。

世界が絶賛した家紋は、今、あらためて日本人がその魅力を再認識するようになり、家紋を応用した商品開発が全国各地で盛んに行われています。弊社でも、 「鎚起銅器に自分の家の家紋を入れて欲しい」というお客様が増えてきました。家紋に見られる巧みな造形表現は、時の今昔を問わず、洋の東西を問わず、人の 目を惹く視認性と訴求力を持っており、ルイ・ヴィトンをはじめ名だたるブランドのトレードマークに引用されたことは当然の成り行きと思えます。家紋のデザ インは日本人の美意識の結晶であり、これからも日本が育んだデザイン文化として、末永く後世に受け継がれていくことでしょう。