[ 第20号 ]ドイツ経済を支えるマイスターの職人魂

ドイツは巨大企業が少なく、中小企業による熟練技を駆使したモノづくりによって成り立っている国です。陶磁器「マイセン」、万年筆「モンブラン」などが その筆頭格として挙げられ、ドイツ製品の品質は、世界的にも大変高いことで知られています。また、商品開発力にも優れ、国際特許出願数はアメリカに次いで 世界第2位。EU15ヶ国の約40%のシェアを占めます。それらの背景には「マイスター制度」が大きな影響力を与えており、ドイツ経済の根幹を成していま す。

ドイツでは政府が若者に対し、職人としてのビジネスを人生の重要な選択肢として位置付け、マイスターへの道を積極的に奨励しています。マイスターは難関 である最高国家試験に合格した方のみに与えられる権威あるもので、称号を重んじるドイツでは、医者や弁護士などに比肩します。マイスターは時計製造、ビー ル醸造、理容師など、様々な職種が対象で、試験に合格すると独立開業が可能となり、自らのブランド名で売り出すことが出来ます。

しかし、マイスター制度は崩壊の危機に直面しています。ドイツの失業率は毎年10%前後で、失業者が新たなビジネスを始めようとしてもマイスターの資格 習得には膨大な時間と経費を要すため、政府はマイスター対象94業種のうち41業種でマイスター制度を廃止したのです。資格不要になったのは時計製造・靴 製造などで、これらの業種はマイスターの資格なしでも開業が可能となりました。残る41業種は大工や食肉加工などで、第三者の健康や生命に危険を及ぼす恐 れがある等の理由から残されることに。

先月の2月12日〜16日、ドイツ・フランクフルトで開催されたリビング業界世界最大の見本市「アンビエンテ」に出展し、現地の方とも交流しましたが、 ドイツは職人数も手工業の売上も減少しているとのこと。また、マイスターの一部廃止によって技術不足のまま開業する方が増え、トラブルが発生しているとも お聞きしました。この職人の減少は、ドイツに限らず、日本でも同じことが言えます。日本では永年に渡り先人達が築き上げた技術が、今の次代に途絶えてしま う業種も出始め、同じ伝統産業の世界で事業を行っている私としても、大変残念なことです。

昨年の「アンビエンテ」は、リーマン・ショック直後ということでブースの空きが目立ち、不況感漂う見本市でしたが、今年は例年通りの出店数で景気回復の 兆しを体感できる見本市でした。世界各国のメーカーの情報をお聞きすると、伝統的な熟練技を駆使し、圧倒的な独自性と高付加価値の商品を見本市に出展して いるメーカーは、世界各国のバイヤーから多数のオファーを得ており、業績も順調です。今後、限りなく低価格を売りにしているメーカーと、限りなく高付加価 値を売り物にしているメーカーとの二極化は、ますます進んでいくということを体感しました。

ドイツはマイスター制度が一部廃止されたものの、永年に渡って構築された職人魂はドイツ人のDNAにしっかりと受け継がれ、また、ドイツ人の質実剛健の 性格も相まって、伝統技術を確実に継承させ、商品の付加価値をより高めていこうという動きが見られます。今も昔も、ドイツ経済はマイスターの職人魂によっ て支えられています。5年前、ドイツの職人10名が日本のモノづくりの現場を視察するため弊社にもご来社され、情報交換を行ったことがありました。今後、 これをさらに発展させ、モノづくり先進国・日独の国レベルで、ブランド、人、技術を育てる仕組みを確立すべく、国境を越えた交流を推進していきたいと思っ ております。