[ 第27号 ]全国各地で伝統野菜復活の動き

全国各地に古くから伝わり郷土色溢れる「伝統野菜」が、今、再び高い評価を受けています。伝統野菜は収穫量が低い、育てにくいなどの理由で、栽培が年々 減ってきているものの、地域資源を見直す機運が高まっている現在、地域の個性を表現する素材として注目されるようになりました。国内では既に「京野菜」 「加賀野菜」が地域ブランドとして伝統野菜の先駆的役割を果たしていますが、地産地消や食の安全をめぐる消費者の意識の変化が、全国各地で伝統野菜の復活 劇を呼び起こしています。

大量生産、大量消費の経済構造により、現在の野菜は食べやすく、育てやすく、売りやすい野菜へと改良され、どれもがほとんど同じ形、同じ味で、1年を通 じてスーパーなどで販売されています。一方、伝統野菜は、その土地の気候風土に適した野菜として確立されてきたもので、スーパーなどで販売されている野菜 を比較すると、生産効率は悪く、しかもサイズの揃いも悪いため、流通にはあまり適していません。また、今は冬でもナスやトマトなどの夏野菜がスーパーなど に並んでいますが、伝統野菜は旬の時期にしか生産出来ない季節限定のため、年間を通して安定した供給も出来ません。

しかし、通常の野菜と異なるのは、伝統野菜の持つか香り・甘み・旨味といった素材感溢れる力強い味わい。伝統野菜には野菜本来の持つ味わいが凝縮され、 食の本質を再認識させられるものがあります。形は確かに良いとは言えませんが、不揃いなのは野菜本来の姿であり、収穫が季節に限定されるのは、「旬を感じ る」感性を磨くためにも大切なことです。地域の風土の中で脈々と受け継がれてきた伝統野菜は、その地域の郷土料理の素材として素晴らしい役割を果たしてお り、伝統野菜が日本人の繊細な味覚と美意識を育ててきたと言っても過言ではありません。

伝統野菜を見直し、京野菜や加賀野菜に続けと、全国各地で伝統野菜を復活させる取り組みが行われていますが、東京でも「江戸野菜」を復活させるプロジェ クトが存在します。もともと伝統野菜は、政令指定都市を中心に大都市で栽培された品種が多いと聞きます。「東京には、こんな美味しい野菜があるのに、高い 輸送費を払って他の地域から仕入れるのはもったいない」と、丸の内のフレンチ「ミクニ マルノウチ」、南青山のイタリアン「HATAKE AOYAMA」は、採れたての新鮮な江戸野菜を活かした料理を提供し、人気を博しています。江戸野菜は 都内レストランの人気食材として、年々、需要が高まっていくことでしょう。

今後、伝統野菜を地域ブランド化していく手法として、野菜の成分と共にその歴史を解明し、「物語」として消費者にアピールしていく必要があるでしょう。 また、学校給食でもなるべく伝統野菜を取り入れ、こどもたちにも昔から地元に伝わる伝統野菜の魅力を伝えていくことも大切なことです。野菜の改良化、流通 の進歩により、季節に関係なく全国各地の様々な野菜を入手できることが食の豊かさではなく、「地産地消のシンボル」と言われる地元の季節折々の伝統野菜を 食すことが、本当の意味での食の豊かさではないでしょうか。

10月16日(土)、17日(日)、APEC・食料安全保障担当大臣会合が新潟市内で開催されます。日本は食料の60%を輸入に頼っているため、食料自 給率を高め、食料の安定供給を確保することが喫緊の課題です。APEC新潟を機に、伝統野菜復活にも着目していただき、生産意欲を高めるための行政支援 や、生産者と消費者をつなぐネットワークづくりの機運が高まっていくことを期待しています。既に消滅した伝統野菜も多数あるようですが、一度絶えてしまっ た伝統野菜は二度と再生は出来ません。伝統野菜は日本の大切な文化。官民一体となって伝統野菜を継承発展してほしいと思っています。