[ 第28号 ]ますます需要が高まるデザイン書道

 最近、ショップや飲食店などのロゴ、広告コピーや商品パッケージなどで、デザイン化された墨文字が多数見受けられるようになりました。和への回帰現象と 共に、日本の文化として古来より慣れ親しんできた書道が見直され、書道の持つ芸術性を活かした、新しいアートシーンが演出されています。西洋の多彩でカラ フルなビジュアルに対し、白黒の単色ながら、奥深く、生命力溢れる表現が可能な書という画材そのものへの注目が集まっており、墨文字の需要は、今後、より 一層高まっていくことが予想されます。

 日本の伝統美「書道」の墨文字が持つ趣きに、デザイン性を加えた書を「デザイン書道」と言い、別称「商業書道」とも言われています。デザイン書道は、活 字書体では得られない力強さと美しさがあり、その日本的な造形美の高さから、多方面の業界が導入するようになりました。日本デザイン書道作家協会 (JDCA)によると、近年は、外資系企業によるデザイン書道の導入も活発化しており、デザイン書道は世界的な広がりを見せています。新時代のアート領域 を形成し、デザイン書道の作家は年々増加傾向にあり、お客様のニーズに適合させた書が提供されています。

 弊堂「玉川堂」のロゴは、当主直筆の書を採用することが習わしになっており、現在使用しているロゴは、私が2003年、7代目に就任した際に書いた書で す。私も書道の魅力に惹かれている一人で、文字の造形力と意味、書の持つ影響力などを考えると、書道の楽しみは尽きません。職業上、デザイン書道には無意 識に目が向き、街で美しいデザイン書道に出会った時は撮影するよう心掛けています。また弊社では、毎週金曜日の仕事後、従業員対象の書道教室を実施してい ます。書道は、日本のモノづくりメーカーとしての心構えを養うことにもつながると、考えているからです。

 空間を演出するインテリアとしての「書」にも、年々注目が高まっています。南青山にある「Carre MOJI(キャレモジ)東京店」は、インテリア用創作書道の専門店で、店名となっている「Carre MOJI」は、フランス語で「文字のある心地良い空間」を語源としており、パリにも支店があります。「インテリアにしたくなる書」をコンセプトに、書道と しての文字の線を極めた上で、デザイン的な要素を加えた創作書道を、モダンな部屋にも映えるシンプルな額装にして商品化しています。書を作品としての価値 ではなく、あくまでも消費者ニーズに沿った商品の提供を心掛けており、書を通じて現代のライフスタイルを提案する、注目のショップです。

 一方で、デザイン書道が脚光を浴びるにつれ、あまりにもアート感覚に走り過ぎ、極端に崩れた文字、何を書いてあるのか分からない文字が氾濫する傾向も見 受けられます。デザイン書道とは、単にデザイン化した書道ではなく、古典書道の造形美や線質を踏襲しながら、現代社会に適合した書の表現を目指すべきで、 それこそが真のデザイン書道という想いがあります。書の本質をわきまえず、自由奔放なデザインを追求し、本来の書道とかけ離れてしまっては、人の心に響か せるための訴求力は生まれて来ないと思います。

 デザイン書道の台頭によって、今、あらためて書道の魅力が見直されています。書道とは「白と黒の芸術」、そして、一発で書き上げる「瞬間の芸術」でもあ り、後戻りの出来ない緊張感が書道の醍醐味でもあります。現代社会ではパソコンの普及によって、筆で書を書く機会が失われつつありますが、そんな時代だか らこそ、墨文字の美しさが再認識され、かつ、デザイン書道の人気が高まっているのでしょう。「書道を通じ、自分自身の内面を表現していくこと。」これは、 情感豊かな心を持つ日本人が継承していくべき、大切な自己表現方法ではないかと思っています。