[ 第36号 ]プレミアムビジネスの時代へ

 成熟消費社会に突入している日本において、「プレミアム」は重要なキーワードの一つです。プレミアムとは、これまでの日本の社会経済を根っこで支配して いた大量生産、大量消費という思想を根本から覆す、全く異なる考え方で、「究極のモノづくり」と「究極のストーリーづくり」が融合し、構築されていきま す。これは富裕層という一部の限定的な層だけを対象とした消費現象ではありません。日本人が本当に良い物を見極め、そのものに対し愛着を持ち、一生大切に 使用することによって、ライフスタイルをより豊かにするという考え方です。このスマートな生産、消費社会への移行が、これからの日本の成熟社会の大きな流 れになっていくものと思われます。
 日本市場において日本発のプレミアム商品は少なく、この領域のほとんどは欧米ブランドで占められています。表参道の街並みを歩いていると、海外有名ブラ ンドの店舗で占拠され、あまり日本の匂いがしません。その根底には「バリュー・フォー・マネー」という日本の企業の考え方にあります。日本の企業は合理化 によって徹底的に無駄を省き、価格に見合った価値の創出を得意としてきました。一方、欧米の企業は逆で、「マネー・フォー・バリュー」という考え方。高い 価値を創出し、高い価格をとにかく付けていきます。ビジネスに対する価値観が根本的に異なり、日本の企業には「マネー・フォー・バリュー」を実践している 企業が少ないというのが現状です。
 マーケティングとは、現状の市場の状況からビジネスプランを作り上げていくということが原点となり、大量生産・大量消費の社会で育まれた最大公約数を取 る戦略、言い換えれば、相対価値の中でモノの優劣をつけていきます。これに対しプレミアムは、「市場に迎合しない」ということになります。自ら新しいマー ケットを創出し、機能面と情緒面の両方の質が際立って高く、プラスアルファの対価を払ってでも手に入れたいものがプレミアムです。作り手の徹底した「こだ わり」を物語として伝えることに成功している企業が、プレミアムとしての地位を構築しており、今後の日本のマーケットには、必要不可欠な要素になっていく ことでしょう。
 日本におけるプレミアムビジネスの先駆的企業の一つが、1834年創業の「千疋屋総本店」。高級果物の代名詞でもある同社は、果物業界では別格のハイエ ンド・マーケットを展開し、驚くほど高価格の果物が販売されています。業界最高級店として徹底して品質にこだわる企業姿勢が、「千疋屋総本店」の伝統を支 えてきました。主力商品のメロンは、20名ほどの生産者を指定し生産を競わせ、最高状態のメロンのみを仕入れています。また、販路拡大には慎重的な企業 で、店舗は「伊勢丹」「高島屋」などの老舗百貨店に限定。安易な規模の拡大や量の追求が、製品の品質低下を招くことを熟知しています。
 燕三条の金属加工メーカーで、プレミアムと位置付けられているメーカーが存在します。国内外に直営店を持ち、日本を代表するアウトドアメーカー「スノー ピーク」です。他メーカーより倍以上の価格で販売し、世界一高価格、高品質のアウトドア製品として知られ、国内はもとより世界中に熱狂的なスノーピーク ファンが存在します。「自分たちが欲しいものを造る。全てはそこから始まる。」をキャッチフレーズに、スタッフ自らユーザーであるという考え方のもと、付 加価値の極めて高いアウトドア製品を次々と創出。一方で、お客様と共にキャンプを実施し、お客様の意見を積極的に取り入れ、ものづくりに反映させる顧客主 義でもあります。「ユーザーの感動がブランドを作る」とは、山井太社長の口癖です。
 プレミアムの源泉は「強烈な主観」、そして、作り手のこだわりが頂点に達した「極上品」です。それは消費者の憧れの対象となり、破格の価値を持ちます。 破格の価値には、当然破格の値付けとなります。今は成熟の時代、飽和の時代。だからこそ、消費者はこれまでとは異なる「豊かさ」を求めています。これから は、今までとは次元の異なる「豊さか」を充足させることの出来る日本企業が増えていかなければならず、世界という舞台でより多くの方々に「豊かさ」という 独自の価値感を提供していくことが求められている時代です。日本国内でプレミアムビジネスを展開する企業が増えた時、日本という国自体がさらに「豊か」に なるものと思っています。