[ 第37号 ]モエヘネシー・ルイヴィトンのブランド戦略

  ルイ・ヴィトンのテーマは「旅」です。人生そのものが旅だというメッセージがブランドに隠されており、ルイヴィトンならではの広告が展開されています。そ の一例として、旧ソ連・ゴルバチェフ氏が、モノグラムのバッグを隣に置き、車でベルリンの壁を通り過ぎる風景。人生最大の仕事を終え、過去を回想している かのように見えます。ファッション広告の王道とは、明らかに異なるコミュニケーション手法です。「素晴らしき人生の横には、いつもルイ・ヴィトンがあ る」。ルイ・ヴィトンの旅とは、人の歴史そのものを指しており、良き人生を送るためにルイ・ヴィトンの鞄を選択するということが一つの素晴らしい生き方で ある、ということを悟っているかのようです。

  創業者ルイ・ヴィトン氏(1821年8月4日~1892年2月28日)は、輸送機関の発達に着目し、積み上げ可能で平らな蓋を持つトランクを開発。 1854年、33歳の時、パリで世界初の旅行鞄専門店を開業しました。その後、事業を拡大し、欧州ではある程度名の通ったブランドでしたが、今日のような 驚異的なブランド力を発揮する契機になったのは、1981年の銀座直営店の開業です。銀座の一等地に鳴り物入りで登場し、年々大きな売り上げ幅を記録。今 や日本人の5人に1人はルイヴィトンを所有し、ルイヴィトンの売上の3割が日本での販売と言われています。フランスの小さな鞄メーカーだった「ルイ・ヴィ トン」は、日本でのわずか数十年の展開によって急成長を遂げ、世界最大のブランド企業へと成長したのです。

  ルイヴィトンは、1987年に酒造メーカーの世界大手「モエヘネシー」社と合併し、「モエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH )」を設立。その後、高級ブランドを次々と買収し、ファッション&洋酒の一大帝国を構築しました。ファッションではロエベ、セリーヌ、フェンディ、洋酒で はドンペリニヨンなど約60のブランドを保有。今年はブルガリを買収したことで大きな話題となりました。LVMHは積極的にM&Aを繰り返しながら、ブラ ンド各社のマーケティング力、ものづくりの感性、人的資源などを結集させ、個々のブランド力強化を図っています。傘下ブランド同士、それぞれ蓄積したノウ ハウをグループ全体で活かし合い、ルイヴィトンも、世界最大のブランド集合体としてのスケールメリットを活した戦略が成されています。

   今年、弊社とボトルクーラーのコラボを行った、シャンパン「KRUG(クリュッグ)」も、LVMHの傘下ブランドです。KRUGでは、LVMHから派遣 された女性の世界的ワイン権威者が社長として就任しており、KRUG家直系のオリビエ・クリュッグ氏(45歳)がKRUG6代目を継承。女性社長と6代目 の両輪で事業を行っています。KRUGは従業員50名ほどで、ブランド企業としては異例の小規模経営ですが、少数精鋭による最高級シャンパン醸造のための 設備投資、その誠実なモノづくりをアピールするための宣伝広告費など、LVMHから資金援助を受けながらブランディングを実践。LVMHの管轄の基、伝統 を正しく継承しつつ、革新的事業を次々と実施しており、LVMHのブランド戦略の一端を目の当たりにしました。

  このように、LVMH傘下になることで、多数のメリットが生まれてきます。ブランドの維持、管理には多額の経費が発生しますが、共同化することでコスト の引き下げが可能です。ブランドイメージの維持向上に必要不可欠な広告においても、数多くのブランドを持てば強い交渉力を持つことが出来ます。また、路面 店戦略においても相乗効果を発揮し、東京では、フェンディ、セリーヌ、ダナキャラン、ロエべの4ブランドの複合ビル「ONE表参道」を展開。大阪には、 LVMH所有ビル「エトワール心斎橋」にディオール、フェンディ、ショーメが出店し、各ブランドの旗艦店として展開。巨大グループ力を活かすことで、商業 都市の一等地に直営店出店が可能となります。

  LVMHのM&Aの特徴は、全てのブランドが統合や合併をしていないという事実です。通常のM&Aは、同一の顧客層をターゲットとしている場合、企業同 士を合併させ効率を高めることが一般的な手法ですが、LVMHではあえてその方法は行いません。企業合併のメリットは、効率向上という企業側の都合が最初 にあり、顧客側のメリットはその次になります。場合によっては、顧客側のメリットを失うことにも成りかねません。LVMHは個々のブランドの歴史とアイデ ンティティに対して深い忠誠心を持っており、それを無視して組織を再編することは、長年築き上げて来たブランドの崩壊と顧客離れを招くと考えています。全 ては顧客のために、そして、個々のブランドが末永く愛されるブランドであり続けるために。LVMHのブランド戦略に世界が注目しています。

LVMH モエヘネシー・ルイヴィトン・ジャパン