【第214号】ブルゴーニュ&ボルドー 〜異なるスタイルで高みを極める〜

 フランスワインの二大産地「ブルゴーニュ」「ボルドー」。ブルゴーニュは「ワイン王」、ボルドーは「ワイン女王」と称され、ワイン愛好家の垂涎の産地ですが、ワインの味わいや格付けのあり方など、様々な相違点があります。葡萄の品種は、ブルゴーニュは1種類(赤=ピノ・ノアール)のみ使用するため、土地の個性が反映されることから「畑の芸術」、ボルドーは複数種の品種(赤=カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローなど)をブレンドさせるため、その比率によって個性が反映されることから「ブレンドの芸術」とも称されます。つまり、ブルゴーニュは「畑」の個性、ボルドーは「醸造所」の個性の違いを楽しむワインであることから、フランス政府主導の格付けは、ブルゴーニュは「畑」に、ボルドーは「醸造所」に対して行われています。

 ブルゴーニュは、内陸の寒暖差の大きい地域であり、その過酷な環境を生き抜いてきたピノ・ノアール単一品種で勝負する産地。その味わいは、冷涼な地域特有の透明感あるエレガントさが特色です。一方、ボルドーは、大西洋海沿の影響を受けて天候が変わりやすく、その天候リスクを分散させるために、複数の葡萄を育てブレンドさせることから、タンニンの力強さ・果実味・香りなど、各品種の特徴が合わさり、複雑で重厚な味わいに仕上がります。したがって、ブルゴーニュは、天候リスクは覚悟の上で、テロワールを反映させた「土地の個性の最大化」を目指す哲学に対し、ボルドーは、その年の出来の良い葡萄品種の比率を高め、毎年比率の調整を行うなど、常に「完成された美」を目指す哲学に基づいており、気候や風土などによって、その産地の醸造哲学が形成されています。

 ブルゴーニュとボルドーの相違点は、ブランド戦略にも表れています。ブルゴーニュは、「小さいことは美しいこと」であると、少人数だからこそ丁寧で職人技的な醸造を追及し、規模を追わない「少量生産による希少性」を重視したブランド戦略を展開。生産者のファミリーネームが世界ブランド化している、ファミリービジネスの世界的成功事例としても注目されています。一方、ボルドーは、醸造所を意味する「シャトー(城)」に広大な自社畑を所有する大規模な事業者が多く、最新鋭の設備を備え、徹底した生産管理システムを導入することで、「大量生産と高品質」を両立させたブランド戦略を展開しています。世界的なブランドとのM&Aも盛んで、ルイヴィトン・エルメス・シャネルなどもシャトーを所有。世界の農業ビジネスの最先端を行く産地です。

 フランスワインは、格付け制度と厳格な法制度によってブランド価値を高めてきましたが、その契機となったのは1855年パリ万国博覧会です。万博会場でボルドーを代表する61シャトーを、1級〜5級に評価する格付けを発表。以降、世界の富裕層へ認知され、産地での競争力も高まりましたが、特筆すべきは171年経過した現在も、格付けは不変のまま、全てのシャトーが老舗シャトーとして現存していること。この驚異的な不変性がボルドーワインの魅力を一層引き立たせています。一方、ブルゴーニュは「畑」が格付け対象となっており、特級・1級・村名・地域名と、細かく4段階に評価されています。中でも特級畑は「聖地化」され、世界中のワイン愛好家が畑見学を行う聖地巡礼が100年以上前から続いており、産業観光の世界的先進地としても知られています。私もワイン好きが高じて畑見学を行い、この体験から産業観光に目覚め、工場を観光資源とし、燕三条を国際産業観光都市へと発展させていきたいという契機にもなりました。

 ワイン王のブルゴーニュ。ワイン女王のボルドー。長きに渡り切磋琢磨し、競合するのではなく、それぞれ異なるスタイルで高みを極めてきたことが、フランスのみならず、世界のワイン産業の発展に大きく寄与していきました。「1本のワインボトルの中には、世界中の全ての書物よりも深い哲学がある(ルイ・パスツール)」。1本のワインボトルの中には、脈々と受け継がれた歴史と生産者の情熱が濃縮されており、書物などの表面上の 知識ではなく、実際に生産者と対話し、畑を観て、その歴史や哲学などを熟知した上で味わうと、人智を超越する奥深さを感じるとも解釈できます。それは日本の地場産業にも共通し、工場見学を行い、生産者と対話することで、製品に愛着を持ち続けることにも繋がります。「ワインは、入手できる全ての物の中で、最も感覚的な喜びを与えてくれるものである(アーネスト・ヘミングウェイ)」。国内外の多くのワイン生産者と出会い、玉川堂のものづくりに活かしていきたいと思っています。