[第199号] 浅煎りで切り拓く台湾茶・台湾コーヒー

お茶は、不発酵(緑茶)・半発酵(烏龍茶)・完全発酵(紅茶)など、同じ茶葉でも発酵度合いによって品種が決まりますが、台湾では烏龍茶が主流です。台湾は九州本土とほぼ同じ面積ですが、標高3000m以上の山が268座も存在する、世界一の高山密集国であり、その中でも海抜1000m以上の茶畑で栽培される「高山茶」が、台湾茶の特色です。朝晩の気温差が大きいため、上質な甘みが際立ち、高山茶の品質と価格は、標高に比例して高まる傾向にあります。そして、発酵の他に焙煎によっても味覚は異なり、以前は深みのあるコクと香りを引き出すために、強めの焙煎「濃香(ノンシャン)」が好まれましたが、近年は、茶葉本来の香りを引き出すために、焙煎を行わない、または弱めの焙煎「清香(チンシャン)」が主流となっており、色彩も味わいも、烏龍茶でありながら緑茶に近い印象となっています。

お茶王国・台湾において、近年、コーヒー文化の進化は目覚ましいものがあります。日本統治時代の1900年頃、天皇の献上品としてコーヒー栽培が始まったことが、台湾コーヒーの起源ですが、それから100年後の2000年頃より、台湾でコーヒーブームに火が付き、国内のコーヒー消費増加率は世界トップクラスにも上る勢いです。このコーヒー需要の高まりを受けて、地産地消を目指すべく、台湾国内のコーヒー畑の面積は増加傾向にあります。中には、台湾茶の生産者がコーヒー豆栽培も行う、もしくはコーヒー豆栽培へ転業するケースも増え、台湾茶の栽培で蓄積された技術と品質管理が、コーヒー豆の栽培にも活かされるようになりました。今台湾は、世界のコーヒー愛好家が注目する高品質の豆の生産国として脚光を浴びており、台湾農業は大きな変革期を迎えています。

昨年2024年11月、台北市内で毎年開催される国内最大の台湾茶・台湾コーヒーの見本市「台湾国際茶業博覧会」「台湾国際珈琲展」の視察へ行きました。お茶とコーヒーの国内最大見本市の同日程・同会場での開催は、台湾ならではの展開であり、お茶とコーヒー愛好家が集結し、身動きが取れないほどの大盛況でした。一般的に、世界のお茶とコーヒー業界は、大企業傘下のもと、賃金の安い国で大量生産が行われますが、台湾はファミリービジネスで規模は追わず、高品質を目指す傾向にあります。その高品質を支えるのは、高山における標高の高い場所での栽培であり、重機の使用は困難なため人手による手作業が多く、よって必然的に高価格となります。見本市会場で多くの生産者と出会いましたが、台湾人の誠実で実直な人柄も、高品質の茶葉やコーヒー豆に繋がっていると感じました。また、茶器やコーヒー道具の展示ブースでは、機能性やデザインの進化に目を見張るものがあり、台湾のものづくりの精神と感性の高さも目の当たりにし、台湾の両産業の勢いと共に、台湾ブランドとしての高い将来性を感じる視察となりました。

台湾茶のトレンドは、深煎りの「濃香」から浅煎りの「清香」へシフトしましたが、世界のコーヒー業界においても、深煎りで強い焙煎香や苦味を楽しむ「セカンドウェーブ(第2コーヒー文化)」から、浅煎りで豆本来の香りを楽しむ「サードウェーブ(第3コーヒー文化)」へシフトしています。コーヒー豆は果物(コーヒーチェリー)であり、上質な肉と同様、火入れは最小限にすることによって、コーヒー豆の産地と生産者の個性が引き出されます。台湾コーヒーの特徴は、台湾茶のテロワール(土壌や気候など)が、コーヒー豆の風味にも影響していると思われ、柔らかな甘味と清々しい酸味が特徴で、どこか台湾茶の味覚に通じるものがあります。それらの特徴を引き出すためには浅煎りが最適で、世界のコーヒー豆の中でも台湾産コーヒー豆は、特に浅煎り向けの素材であり、サードウェーブの時流に乗っています。

 私は以前、焙煎香を楽しむ深煎りコーヒーが好みでしたが、台北市内のカフェで飲んだ浅煎りコーヒーに感銘を受けて以来、その味覚に目覚め、浅煎りの特色である「美しい酸味」の抽出を楽しんでいます。浅煎り特有の酸味が苦手という方も、台湾コーヒーを飲めば、その概念は払拭されるのではないでしょうか。また、浅煎りの台湾茶は、茶葉本来の高原に咲く花のような香りと、透明感のある味わいがダイレクトに伝わってくるのが大きな魅力。和食や和菓子とのペアリングも相性が良く、こちらも是非お試しください。台湾はお茶とコーヒーの両方の栽培に適した稀有な地域で、茶畑と茶畑の間にコーヒー畑が広がる、珍しい景観が広がっています。今年3月、台湾茶と台湾コーヒーを代表する産地「阿里山(ありさん)」へ行き、生産者を訪問する計画を立てています。歴史と文化、テロワール、作り手の想いなどを学び、玉川堂製の茶器とコーヒー道具の商品開発に活かしていきたいと思っております。