[第197号] 時と共に成長する沖縄泡盛「仕次ぎ」

 文化庁は先月11月、ユネスコが「伝統的酒造り」を無形文化遺産に登録するよう勧告したと発表し、今月12月初旬、正式決定される見通しです。日本の「酒造り」は、麹の使用という共通の特色を持ちながら、全国各地でそれぞれの気候風土に合わせて、日本酒・焼酎・泡盛・みりんなどが製造され、複数の発酵を同じ容器の中で同時に進める、世界でも珍しい技術を活かした酒造りです。この日本の伝統技術に加え、「酒が祭りや結婚式などの日本の行事に欠かせない役割を果たしている」など、酒造りの文化的側面が日本社会において深く根付いていることも評価されました。2013年、「和食」が無形文化遺産に登録され、世界へ普及する後押しになったことから、日本の酒も世界市場拡大の追い風となりそうです。

 この発表は新潟県内でも大きな話題となっており、歓迎ムードに包まれています。新潟は酒蔵数が全国一の県ですが、日本酒の生産量は兵庫県・京都府に次いで第3位という数字が表しているように、大規模な酒造会社のある兵庫や京都に比べ、小規模の酒蔵が点在していることが新潟の特徴です。量より質を追求する傾向が強く、高品質の吟醸酒や純米酒が生産され、料理を引き立てる日本酒が本流であるという精神のもと、「淡麗辛口」「新潟淡麗」と評されるスッキリとしてキレのある味わいに特色がある新潟の日本酒は、まさに食中酒として最適です。様々な料理と合わせやすいことから、和食以外のペアリングも無限大で、登録を契機に、世界の食文化と新潟清酒のマッチングが期待できます。

 先月11月、沖縄で開催された「ファミリービジネス学会」において、沖縄県酒造組合会長で瑞泉酒造6代目・佐久本社長は、無形文化遺産登録は泡盛の魅力を国内外へ発信していく好機であると意気込んでおられました。琉球王朝時代から約600年の歴史を持つ泡盛は、日本最古の蒸留酒であり、徳川幕府や薩摩藩への献上品としても珍重された日本の酒文化を象徴する存在。琉球王府が認めた家以外での酒造りは禁止され、さらに、首里城周辺の指定地域のみ酒造りが許された名残から、瑞泉酒造は現在も首里城の脇で酒造りを行っています。佐久本社長曰く、泡盛の最大の特徴は、数百年以上の熟成に耐える「古酒(くーす)」であると主張しており、古酒に関する様々なお話をお聞きし、沖縄独自の酒文化の風習に感銘を受けました。

 古酒(くーす)は、熟成を重ねた泡盛に若い泡盛を少しだけ注ぎ足す「仕次ぎ(しつぎ)」を繰り返すことで3年以上熟成されたものを指します。親酒に2番酒を、2番酒に3番酒を、3番酒に新酒を、という順番で仕次ぎを行いますが、それを年に1回、各家庭の記念日などに行います。ワインや日本酒なども、適温の環境下で長期熟成は可能ですが、一定期間を過ぎると熟成のピークを過ぎることに対し、泡盛は注ぎ足しによって酒を定期的に目覚めさせ、半永久的な熟成に耐えることが最大の特色と言えます。仕次ぎの配合は各家庭で異なることから、古酒は一族の味とも言え、家宝として親から子へ、代々受け継いでいくことが沖縄の文化です。

 沖縄には100年以上の長期熟成の古酒が多数存在し、文献によると300年以上熟成させた古酒も存在したとされていますが、戦争によってその多くは焼失しました。しかし、沖縄の人々は再び古酒を育てようと、仕次ぎ文化の再生を図っています。仕次ぎの年数が経過するほどに芳醇さが増し、舌触りがまろやかになる泡盛は、世代間の心の継承を象徴しており、工芸品と同様に「経年美化」していくお酒。玉川堂の銅器も長年のご使用によって色合いに深みを増し、光沢を湛えていくことから、「時と共に成長していく」という思想に親和性を感じました。沖縄は地域柄、世界平和と一族繁栄を願う意識が強い地域。沖縄県民にとっての無形文化遺産は、泡盛の「酒造り」だけでなく、「仕次ぎ」も含めた登録との認識が強く、仕次ぎ文化の存在が無形文化遺産登録を契機に、国内外へ広く認知されることを期待しています。