[第139号] ASEAN市場の商機と展望

 国際経済のグルーバル化が進む中で、生産拠点として注目されてきたASEAN(東南アジア諸国連合)は、近年、内需主導型の経済成長に転換しており富裕層が急激に増加し、今消費市場として世界から注目を集めています。ASEANは人口増加が著しく、現在約6億4000万人。2000年代に入り人口約5億2000万人のEU(欧州連合)を超え、10年後の2030年には、さらに1億人の増加が見込まれています。そしてASEANの富裕層数は、現在の約5700万人から10年後の2030年は約1億3600万人へと増加すると見込まれ、実にASEANの7人に1人は富裕層に位置付けられることになります。このような状況下で日本はASEANを、中国・香港・台湾・韓国などの近国アジアに次ぐ輸出先として、また日本のインバウンド対象国として、大きな期待をもって注目しているのです。

 ASEAN経済共同体(AEC)によって、域内の関税撤廃、交通インフラ整備、短期滞在のビザ撤廃など、ビジネス環境の柔軟性は年々高まっているほか、地理的にも比較的近距離であることもあり、日本企業のASEAN進出は破竹の勢いで増加しています。JETRO(日本貿易振興機構)による日本企業対象「サービス産業の海外展開実態調査」によると、今後、海外市場開発で重視していく国として、1位中国(28%)、2位タイ(13%)、3位米国(12%)、4位ベトナム(8%)、5位シンガポール(6%)と続き、6位以降もASEANが軒並みランクインされており、データから見てもASEANへの注目度の高さがうかがえます。中でもASEAN主要6カ国(シンガポール、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム、フィリピン)は、今後、日本経済に大きな影響を与える新興国として、存在感を増していくことでしょう。

 ASEANは国ごとに経済発展の状況が異なり、カンボジア、ラオスなどの低所得国がある一方で、シンガポールのように日本を遥かに上廻る高所得国もあります。また、文化・言語・宗教なども多種多様な国々で構成されています。それらを総合的に踏まえ、各国のマーケティングは慎重に進める必要がありますが、総じて親日性が高く、日本の文化やビジネス習慣への理解度も高いため、日本企業が新規参入しやすいと言えます。特に、陸海空全てのインフラが整備され無関税のシンガポールは、近年最も日本企業の進出が著しく、ASEAN進出の筆頭格です。その他にも、日本企業数と日本人数はASEAN最多で日本文化が広く浸透しているタイ、親日国家で日本語を話せる人も多く日本人特有のビジネスマナーを心得ているマレーシア、儒教の教えにより学びの姿勢を大切にし勤勉なベトナムなどが、参入の有力候補として挙げられるでしょう。

 燕三条地域でもASEAN市場開拓が活発化してきました。1964年・東京オリンピック開催年に設立した「燕三条貿易振興会」(事務局:三条商工会議所・参画企業80社)では、海外ビジネスに精通した企業が所属しており、10年後の燕三条の貿易は、ASEANの中でベトナムのシェアが最も大きくなるとの予測から、昨年12月、利器工匠具などのメーカー約10社が出資し、首都ホーチミン市内に燕三条の直営店「燕三条ショップ」を開業。ベトナム市場で、燕三条製品の啓蒙を図ります。「燕三条工場の祭典」実行委員会(事務局:燕三条地場産業センター)では、シンガポール市内にて、昨年11月に次ぎ今年2月、2回目の燕三条イベントを約1ヶ月間開催します。これを機に燕三条の文化や技術が認知され、燕三条の産業観光へお越しいただくことが目的のイベント開催です。

 昨年、中国の実質経済成長率は、1990年代以降最低の数字となり、今後中国の経済成長のスピードはさらに失速していくものと思われます。一方で、中国人パスポートの取得率は世界的にも低い約5%(約7000万人)ですが、10年以内に取得率10%(約1億4000万人)、20年後は20%(約2億8000万人)に達すると予測されています。つまり、訪日中国人は年々増加することが見込まれており、当面日本経済は、中国人インバウンド無しでは語れません。ただ、中国はあまりにも巨大な市場だけに、「チャイナリスク」は常に念頭に置く必要があります。政治経済の動向ならある程度の予測は可能ですが、この度の新型コロナウイルスは突発的であり、「チャイナリスク」がもろに露呈された形となりました。巨大市場・中国の近隣諸国に市場を分散させる「チャイナ・プラスワン戦略」に加えて、ASEAN市場開拓をより高めていく必要性が問われる1年となりそうです。