[第112号]新たな日本発信の拠点〜ジャパンハウス

外務省は、日本の戦略的対外発信の強化に向けた取組の一環として、日本の海外拠点施設であるジャパンハウスの設置を進めています。ジャパンハウスは、2014年に閣議決定された外務省の重要事業の一つで、今年2017年4月のサンパウロを皮切りに、来年はロンドンとロサンゼルスで開館します。日本の多様な文化を発信し、幅広く日本への関心を喚起することにより、親日派・知日派の裾野を拡大させ、そこから新たな国際交流やインバウンドを生み出していくプロジェクトです。上記3都市のジャパンハウスの都市選定にあたっては、発信の効果や日本との関係、地理的配分等の要素を考慮し、世界最大の日系人コミュニティが存在するブラジルのサンパウロ、欧州のみならず世界への情報発信のハブであるロンドン、米国内最大の日系人コミュニティが存在するロサンゼルスが選定されました。運営は直接行政が行わず民間への委託とし、そのことでより魅力的な事業展開を行い、世界中のより多くの人々への情報発信を担うのが目的です。

外務省によるとジャパンハウスの狙いは、領土問題や歴史問題について日本に対する国際社会の理解を得ることにあります。日本が経済力で世界を席巻した時代は終わりを迎え、かつてのように海外の関心が自然と集まる状況にないため、戦略的な情報発信の重要性を強調。世界各国の各界の有力者に日本の魅力が伝われば、外交に与える影響も大きいとジャパンハウスの意義を唱えています。ジャパンハウスの誕生をめぐっては、中韓による歴史戦に対抗するため、日本の正しい姿や魅力を含む戦略的対外発信の必要性が高まったことがその背景にありますが、韓国が海外に設置した施設の展示で竹島問題を集中的に取り上げたところ、来場者が途絶えたという事例もあり、歴史認識の発信などに活用することは取り止め、真の日本の魅力を伝えることで日本ファンを増やすことへと方向転換させました。ビジネス、文化、スポーツなど、日本の様々な魅力を海外に伝えることで国際交流を促そうというのです。

ジャパンハウスのコンセプトは、「日本を知る衝撃を、世界へ。日本をいかに知らなかったかの深い気づきと静かな感動を」。ジャパンハウスの総合プロデューサーは建築家の隈研吾氏で、建築デザインも木材を組み合わせた彼の世界感が表現されています。ジャパンハウスは、地域が独自の魅力を再発見し、それを世界へ向けて発信する契機となる施設となり、地域活性化やインバウンドに繋げることを目的としています。ジャパンハウス1号店は今年4月30日、サンパウロで開業しましたが、外務省が想定していた年間15万人の来場者を、開業わずか2カ月で達成するほど現地の話題施設となっており、現在も順調に来場者を伸ばしています。これはサンパウロの特異性であり、ロンドンとロサンゼルスでは、ここまでの来場者数は困難と見る向きもありますが、滑り出しは上々のようです。今後は入場者数の数値目標の達成だけではなく、毎々期待値を上回る、魅力あるイベントや物販などを提供し続けていくことが、これからの当面の課題となります。

ジャパンハウスは5つの発信を柱として事業を進めています。①民間の活力の発信(イベント開催による地場産業の海外発信など)②日本ブランドの発信(各分野の最先端技術など)③地方の魅力発信(アンテナショップ、首長トークショーなど)④日本の政策・国際貢献の紹介(領土保全、歴史認識、安全保障対策など)⑤対日理解基礎強化(日本語教室、情報・交流サロン設置など)。これら旬の日本を紹介するという使命を果たすために、ジャパンハウスでは、イベント、講演会、セミナーなど多彩なプログラムを用意し、大使館や総領事館なども協働して事業展開を行っていきます。その他、イベントの際は、各現地で運営している日本文化センター(国際交流基金)、日本政府観光局、JETRO(日本貿易振興機構)との協働も重要となり、さらに、新潟県で言えばロンドンとサンパウロには新潟県人会が存在するため、現地有力者をご紹介いただければ、より強力な体制を築くことができるでしょう。できるだけ多くの現地人と知り合うためにも、現地の他機関との連携は不可欠となります。

経済産業省が主導する対外情報発信事業「クールジャパン」に対して、今後は外務省が主導する「ジャパンハウス」も加わり、日本を海外へ発信するチャンネルが増えました。クールジャパンは、2010年に経済産業省にクールジャパン室を開設し、2012年には戦略担当大臣のポストも設けられ、国民の関心は高い一方、ジャパンハウスは外務省の重要事業でありながらマスコミの露出が少なく、地場産業の間では話題になっているものの、国民の関心は薄いというのが現状であり、今後国民に十分な情報を届けるべくより広い広報を行う必要があるでしょう。また、巨額の税金を投入しての海外箱物事業だけに、費用対効果を疑問視する声があり、賛否両論があることも事実です。しかし、地場産業や各種業界においては、海外展開の大きなチャンスでもあり、いかにしてジャパンハウスを積極活用していくかが、その成否に大きく関わっていくことでしょう。

私たち燕三条地域では、来年ジャパンハウス(ロンドン)出展を目指して事業を進めており、燕三条の文化と技術力を海外へアピールする絶好のチャンスと捉えています。現在、燕三条ブランドとして欧州の海外見本市へ毎年出展していますが、今後はジャパンハウスという海外拠点施設が増えたことで、海外展開の幅がさらに広がります。ジャパンハウスの場合、領事館や日系コミュニティなどのご支援をいただきながら、現地有力者をご紹介いただくなど的を絞った戦略を敷くことができ、世界各国不特定多数のバイヤーを相手にする海外見本市とは異なる発信が可能となります。世界主要都市には、ニューヨークのジャパンソサエティーやパリの日本文化会館など、日本と世界を結ぶ交流施設は多数存在しますが、今後はジャパンハウスという国を挙げての交流施設が加わり、日本と世界の距離はさらに縮まっていきます。ジャパンハウスは既にスタートを切っています。特に地場産業に関わる方々にはお互い積極的に活用し、情報を共有し合い、地域活性化、そして、インバウドの地方流出へと繋げていきたいものです。