[第109号]ビジネスの好機はシンガポールにあり

シンガポールは東京23区とほぼ同じ国土面積で、人口は約560万人という非常に小さな国ですが、6人に1人が100万ドル以上の金融資産を保有し、富裕層が集まる国として知られるスイスや香港を抑えて、富裕層の割合は世界一です。また、世界有数の低税率の国であり、2008年には相続税が廃止され、海外企業や富裕層が集まりやすい国と言えます。人種の構成は、中華系約74%・マレー系約13%・インド系約9%など多民族国家となっており、そのうち約35%は外国人という、外国人比率の高い国です。今年で建国52年という歴史の浅い国ですが、それ以前は100年余りの間イギリスの植民地であり、地理的に東南アジア・東アジア・中東・オセアニア・ヨーロッパを結ぶ中心地として、古くから東西貿易の拠点として発展し、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、中国やインドから多数の移民が移住し、現在のシンガポール人のルーツとなりました。開国以来、急速に経済成長を遂げ、香港・韓国・台湾と共にアジア四小龍と称され、シンガポールはその代表格であり、さらなる経済発展が期待できる国として注目されています。

シンガポールは、世界銀行が発表する「世界で最もビジネスに適した国」のランキングにおいて9年連続1位を獲得するなど、常にトップクラスに位置付けられ、また、「世界の都市総合力ランキング」では、ロンドン・ニューヨーク・東京・パリに次ぐ世界第5位に位置し、世界の有力企業が次々とシンガポール進出を果たしています。その進出の最大の理由は、アジアのハブとしての魅力です。ASEAN諸国の中心という地の利を最大限に活かすべく、古来より海上を行き来する貿易船の拠点として発展してきた歴史を持つシンガポールは、世界有数のコンテナ取扱量を誇る港湾施設の設備や、機能性・利便性に富んだ空港など、陸送・海運・空輸などの全てのインフラが、近隣諸国と比較して格段に整備されています。また、シンガポールの様々な優遇制度も海外企業にとっては魅力的で、法人税率は最大17%と低く、キャピタルゲインは非課税です。会社設立も容易で、100%独資(個人株主・会社株主)が認められているほか、法人を設立して3年間は、税額控除による軽減措置も受けられます。

シンガポールが掲げる国家目標のひとつに「グローバル・タレント・ハブ」があります。 「ヒト=人材のハブ」を目指すという国家戦略です。 国自体が東京23区ほどの面積しかなく、人口の増加にも物理的な限界のあるシンガポールには、世界中から国の経済発展に寄与する優秀な実業家・研究者などを国内に囲い込むべく、緻密な戦略が敷かれています。金銭的なサポートだけでなく、ビザ手続きの簡素化や人材獲得に関する税制優遇制度など、ありとあらゆる手段を駆使して、高度な能力を持つ人材の獲得を目指しています。 この国策としての人材育成は、シンガポールを拠点とする海外企業にも優秀な人材が確保できるというメリットがあり、人材確保に苦心する海外企業にとっては、事業を成功させる上で大きなアドバンテージとなることは言うまでもありません。また、シンガポール国立大学はアジアトップの大学ランキングで知られており、国内全体的に高水準の教育が実践されているため、知識豊富で優秀な若年層が多く、国内企業の発展に大きく寄与しています。

シンガポールに住む日本人は現在約37,000人おり、その大半が駐在員とその家族です。シンガポールへ進出している日本企業は、シンガポール・ジェトロ調べによると約1,600社ですが、少なくとも2,000〜3,000社は存在しているとのこと。2002年、日本とシンガポールの間で「新時代経済連携協定」を結び、関税撤廃など両国間の人・資本・サービスなどの連携が深まる中、日本企業のシンガポール進出は年々加速しています。日本食もシンガポールではかなり浸透しており、シンガポールの飲食店約7,000店のうち約1,200店が日本食の店で、実に6店舗に1店舗が日本食の店ということになります。特にラーメンは大ブームを巻き起こしており、日本の有名店が続々と進出し、今や200店舗以上のラーメン店が凌ぎを削る、日本国外では世界一のラーメン激戦区になっています。飲食関連の新潟企業のシンガポール進出は「富寿し」と「ラーメン三宝亭」が代表格ですが、「富寿し」はシンガポールの日本食ブームに乗り市内に4店舗を構え、「ラーメン三宝亭」はシンガポール進出後、すぐに2号店を開店。行列に並ばないと入店できないほどの人気店となっています。

シンガポールは日本の地場産業製品を売り込むには最適な国であり、「やる気のある自治体が組んで、スピード感を持ってシンガポール市場に打って出たい」という、当時の佐賀県武雄市長・樋渡啓祐氏の呼びかけで、2013年、7自治体が共同出資によるシンガポール事務所を開設しました。7自治体=佐賀県武雄市・鹿児島県薩摩川内市・福岡県大刀洗町、福岡県鞍手町・香川県宇多津町・富山県南砺市・新潟県三条市と燕市が出資する第三セクターの燕三条地場産業振興センター。シンガポールを中心としたASEANへの特産品の売り込みや、各自治体の観光客誘致が狙いで、同事務所には武雄市職員1名が駐在し、日々、市場開拓に奮闘されています。また、事務所の徒歩数分圏内には、シンガポールの大手訪日旅行会社があり、シンガポール事務所との連携事業も行っています。私たち燕三条の事業事例としては、シンガポール・燕三条イベント開催やシンガポール富裕層の燕三条訪問などがあり、シンガポールと燕三条の連携に大きな影響力を発揮しています。

燕三条の主要メーカーは、シンガポール東急ハンズなどでキッチン用品を中心に販売していますが、弊社は今月からシンガポールのセレクトショップとの直接取引が始まり、中心街のダウンタウンコアにて、茶器や酒器など常時100点ほどの商品を販売することになりました。燕三条はシンガポール事務所が設置されているため、そのネットワークを活かし、シンガポールへ進出する燕三条メーカーは増えていくことでしょう。ASEANの中心国でもあるシンガポールをプラットホームに、隣国のマレーシア、インドネシア、タイ、カンボジア、ベトナムなど、経済成長著しいASEAN諸国への展開も期待でき、実際にそのコースを踏みつつ、ASEAN市場を開拓している燕三条メーカーも複数存在します。日本のラーメン業界は、こぞってシンガポール進出を果たし、ラーメンブームを起こしました。シンガポールは極めて可能性の高い市場なだけに、全国他の行政にもシンガポール事務所に出資・参加していただきながら、積極的にシンガポール市場を開拓し、私たち地場産業メーカーも、ラーメンに続いて日本製品のブームも起こしていきたいものです。