ロシアは、ソ連崩壊直後1992年の経済危機、1998年の財政危機、2008年のリーマンショックと過去3回の危機を乗り越え、強固な経済基盤を構築してきました。その経済成長を支えてきたのが石油と天然ガスで、世界第二位の生産量を誇り、ロシアの輸出総額の約7割を占めています。しかしながら、ウクライナ問題に起因する欧米の対ロシア制裁による石油価格下落やルーブル大暴落などにより、今ロシアは4度目の危機に直面しています。玉川堂メールマガジン第71号(2014年6月1日発行)「ロシア市場の大いなる可能性」配信当時はルーブル大暴落の半年前であったため、日本企業によるロシア市場開拓が急激な広がりを見せていましたが、ルーブル大暴落以降、ロシア経済は一気に冷え込み、日本企業のロシア市場の縮小や撤退が相次ぎました。玉川堂もモスクワに本社を置く代理店がその影響を受け、ここ2年間のロシアでの売上は低迷していましたが、昨年からロシア経済は徐々に回復傾向にあり、今年は経済成長率がプラスへ転じる見込みとのことで、ようやく明るい兆しが見え始めています。
日本とソ連の国交が回復したのが1956年。以来、両国の企業間貿易が行われてきましたが、隣国でありお互い経済規模が大きいにも関わらずその貿易額は少なく、日本と中国間に比べるとわずか10分の1という状態です。しかし、昨年行われた経団連の日本ロシア経済委員会による、会員企業など181社を対象としたアンケート調査では、ロシアビジネスを行っている企業、あるいは今後行う予定企業の77%が「非常に有望・あるいは有望」と回答しており、悲観的とする企業は10%に留まりました。有望であると答えた企業はその理由として「広大な国土と豊富な天然資源の高さ」「1億4000万人の市場規模と潜在力」「平均的な教育水準の高さ」「巨大市場欧州との地理的・習慣的近さ」「日本企業・日本製品に対する強い信頼感と好感度」「老朽インフラの更新需要」などを挙げています。一方悲観的とする企業は「原油安・ルーブル安による事業環境の悪化」「資源依存の経済構造」「欧米との外交関係改善の見通しが不透明」などをその理由として挙げています。このように、いくつかの懸案事項は残るものの、ロシアビジネスに関しては大方の企業が好感触を得ていると言って良いのではないでしょうか。
昨年5月、ロシア・ソチ市で開催された日露首脳会談で、「経済分野における8項目プラン」が発表され、その一つに「中小企業交流・協力の抜本的拡大」が掲げられました。その実現に向けて昨年9月、経済産業省とロシア連邦経済発展省が協議を行い、日露両国の中小企業分野における協力のためのプラットホーム創設に関する覚書に署名。世耕弘成経済産業大臣は「ロシア経済分野協力担当大臣」にも任命され、現在ロシア側と具体的なプランを計画していますが、「日露経済関係をより一層強化することで、アベノミクスの一翼を担いたい」と、大きな期待感を示しています。2014年12月のルーブル大暴落以降マイナス成長のロシア経済ですが、経済産業省は2017年のロシアの経済成長率を0.6%と予測しており、世界銀行は消費や投資の大幅な回復が見込めるとして、経済産業省よりさらに高い1.5%の成長率を予測。昨年からロシア経済は景気後退から抜け出し、プラス成長に転じるとみているのです。
このように、ようやく経済が回復傾向にあるロシアですが、ロシアでビジネスを展開するにあたって留意すべき点が2つあると感じています。一つは、ソ連が崩壊して約25年しか経過していないため、安定した企業社会が形成されておらず、再編が頻繁に起こること。相手を大企業と思い交渉を進めても、他社とのM&Aで破談になったケースもあるそうです。もう一つは、多くが新興企業のため経営者のリーダーシップが強く、短期ビジネスに走る傾向があるため、その見極めが必要であること。しかし、元来ロシア人は欧米流のビジネスに慣れており、品質が納得できれば無理な価格交渉は行わず、取引先には敬意を払い、契約はしっかりと守ります。コミュニケーションを密にして信頼関係を構築すれば、大半のリスクを回避できるというのが、ロシアビジネスを展開している企業の共通の見解です。ロシア人は誇り高く、義理人情にも厚い民族。上手く信頼関係を構築できれば、中小企業にとって頼もしいパートナーとなります。
さらにロシアには親日家が多く、日本製品への信頼度とその需要はとても高いため、より緊密にビジネスを行い、共に発展するパートナーとしてさらなる協力体制を築いていくべきでしょう。2008年のロシア3回目の経済危機の際はすぐに回復へ向かいましたが、4回目の経済危機の傷跡はあまりにも大きく、回復傾向にあるとは言えロシアでビジネスを展開していくには当面難しい時期であることは確かで、日露の輸出入の活性化にはもうしばらく時間が掛かることでしょう。しかし現在のルーブル安は、ロシアの原料輸出に対してメリットは大きく、また経済の停滞は賃金上昇を抑えるため、ロシア企業の経営側にとっての雇用環境は良くなっています。これらがプラスに転じれば、より一層日露の中小企業交流は活性化していくものと考えています。人口減少が顕著となる日本にとって、時代に先んじてロシアビジネスを展開していくことは、次世代の事業に資することに繋がっていくものと信じています。