1872年(明治5年)に「学制」が公布されると、全国的に学校が建設されるようになり、以来140年以上、学校は日本人の教育の場となりました。しかし近年、少子化による児童生徒数の減少、市町村合併などの影響により多くの学校が廃校となり、その数は全国で毎年約500校に及び、その後の施設の有効活用が求められています。文部科学省は、廃校した校舎を解体するのではなく有効活用することで、地域活性化に繋がり、地方創生に大きな役割を果たすとの認識から、「みんなの廃校プロジェクト」を立ち上げました。廃校を活用してほしい地方公共団体と、廃校を活かしたい企業、NPO法人、福祉施設などのマッチングを行うプロジェクトです。これにより円滑なマッチングが促進され、体験学習施設、福祉施設、宿泊施設、カフェ、保育園、病院など、全国様々な廃校プロジェクトが誕生しており、廃校の有効活用は、新たなビジネスモデルとして注目されています。
文部科学省ホームページ掲載の最新データ、2014年公表「廃校施設活用状況実態調査」によると、2002~2013の公立学校の廃校数は年間500校前後で推移しており、この間の累計は約5,800校。都道府県別で比較すると、北海道が597校で他の都府県と比べて圧倒的に多く、以下、東京245校、岩手233校、熊本232校、新潟201校と続いています。そのうち約700校は解体され、現存している廃校約5,100校のうち、約3,900校はその後も活用されていますが、活用の用途が決まっていない廃校は調査時点で約1,200校あるのです。その理由として、「地域からの要望がない」「施設が老朽化している」「立地条件が悪い」などが挙げられています。また廃校を生かした事業を行っても、廃校になるだけあって、周辺人口の少なさや、交通アクセスの不便さというハンディを抱えているケースが多いため、その多くが順調な運営が行われているとは言えない状況です。
廃校活用のモデルケースとなっている代表的な事業の一つに、「世田谷ものづくり学校」が挙げられます。2004年、旧世田谷区立池尻中学校を再生すべく、デザイン・建築・映像・アート・ファッションなど、様々な分野の若手クリエイターにワーキングスペースとして教室を開放。働くスペースを提供する事業だけでなく、一般向けのものづくりイベントも多数開催しており、全国的に注目されています。この「世田谷ものづくり学校」の廃校プロジェクトに感化された島根県隠岐の島町は、2012年、全国から隠岐の島へ若手クリエイターを呼び込もうと、廃校となった旧隠岐の島中村小学校を活かし、「隠岐の島ものづくり学校」を開校。さらに新潟県三条市も、2015年、廃校となった旧三条市南小学校の校舎を活かし、燕三条のものづくり産業の高付加価値化、情報発信力の強化、次世代ものづくり人材の育成などを目的に「三条ものづくり学校」を開校しました。隠岐の島町と三条市共に行政の運営ではなく、世田谷ものづくり学校を運営する株式会社ものづくり学校の経営によるプロジェクトです。
廃校活用は、地方公共団体やNPOが多数を占めていますが、民間企業も積極的に行うようになりました。芸能事務所「吉本興業」の東京本部の社屋は、商売繁盛の神様として知られる花園神社隣・旧四谷第五小学校の校舎をそのまま活かした、遊び心溢れるオフィスになっています。小学校特有の横に広い建造物で、もともと教室だった部屋には黒板なども残ったまま。同所の「よしもとクリエイティブカレッジ」では、校舎の中で芸人の育成が行われています。生ハム製造量日本一「白神フーズ株式会社(秋田県大館市)」は、統合で空き校舎となった大館市の旧山田小学校の校舎を、生ハム製造工場として活用しています。白神山地の山すそに位置しているため、年間を通して冷涼な気候の土地であることや、窓が大きく風通しが良い建物のため、生ハム製造には最適とのこと。神戸市・三宮「北野工房のまち」は、旧神戸市北野小学校の廃校を活かした体験型ショッピングモール。スイーツ、パン、地酒、神戸牛など、神戸ブランド22のショップが軒を連ね、施設内では販売だけでなく体験も可能で、神戸市の人気観光スポットの一つになっています。
新潟を代表する廃校プロジェクトとして、長岡市(旧三島郡和島村)の旧島田小学校の校舎を改装した「和島トゥー・ル・モンド」が挙げられます。地域のシンボルとなっていた昭和2年建築の木造校舎は今、新潟県内屈指の人気フレンチとして話題となっており、連日大勢のお客様で賑わっています。長岡市内の社会福祉法人が経営し、東京から敏腕シェフを採用、調理補助は地元の障害者を採用し、障害者にも門戸を広げています。校舎脇のグランドは野菜畑になっており、毎日鮮度の高い食材が楽しめます。また、佐渡の醸造元「尾畑酒造」は、2014年、廃校となっていた旧西三川小学校を酒造りの場として再生する「学校蔵プロジェクト」をスタートさせ、新銘柄「学校蔵」を売り出しました。生まれ変わった学校の校訓は、酒造りを通した人のつながりから幸せを醸すとの想いを込め、「幸醸心(こうじょうしん)」に。学びの場であり、交流の場であった学校。日本酒講義などによる日本酒の学び場としても開放し、佐渡の地酒の魅力を発信しています。
地域の人々にとって、学校は誰もが親しんだ建物であり、心の故郷です。廃校になったからといって思い出は消せないもの。地域外の人々にとっても学び舎は、自身の若い頃を重ね合わせて、どこか愛着を感じます。廃校活用は、地域住民の心の拠り所を残すだけでなく、古い建物から新しい力を生み出し、人を呼び込むことで再びその場所に命を与えるもの。それが、地域の核となり絆となれば、廃校への地域の人々の想いはより深まります。そして、廃校プロジェクトは民間が運営していくことで、福利厚生や文化促進といった側面のみを重視し、公共施設が陥りがちな回収見込みのない管理コストの問題点もクリアでき、新たなビジネスの場にもなっています。また、更地から建物を作る訳ではなく、低コストで工事費が抑えられることもメリットで、全国各地に眠っている資産の筆頭は、まさに廃校と言ってもいいでしょう。教室・体育館・プール・家庭科室など、ビジネスと生活にまつわる資源が揃っており、これをリノベーションすれば、活用方法は無限大です。廃校は今後も増え続けると思われ、一考する価値のあるビジネスフィールドでもあります。