[ 第33号 ]地域活性化の鍵を握る街歩き

    今、全国的に「街歩き」ブームです。書店では街歩きに関する本が多数並べられており、新潟県でも各市町村の街並みや商店街などを詳細に紹介した街歩きの 雑誌が発行され、好評な売れ行きとのことです。大手旅行会社も街歩きツアーを開催しており、その傾向は全国的に広がっています。観光客と地域住民がふれあ うという新しい観光スタイルは、観光都市の新たな観光ツールとして、また、地方都市では地域活性化の新たな手法として注目され、全国多数の地域において街 歩きが実施されています。

    街歩きブームに火を付けたのは、2006年に開催された日本初の街歩き博覧会「長崎さるく博」です。「さるく」とは、長崎弁で街をぶらぶら歩くの意で、 グラバー園をはじめとする長崎の観光ガイドブックではあまり紹介されていない街並みを歩き、長崎の街の新たな魅力を探るというイベントです。開催期間約 7ヵ月、約1000万人の集客と、800億円を超える経済効果があり、大成功をおさめました。長崎では市民一人ひとりが観光都市という意識を再認識する機 会となり、博覧会開催5年後の現在も「長崎さるく」としてプロジェクトを継続中。長崎は一躍、街歩き都市として全国に注目される存在になったのです。

   長崎の成功事例を契機に、街歩きは全国の自治体が観光の新しいスタイルとして注目するようになりました。私の住む燕市と三条市の協働によって立ち上げた 「燕三条ブランド」においても、市や商工会議所、観光協会などが連携し、「燕三条まちあるき」を実施しています。金属洋食器や刃物などの金属加工業の工場 見学&製作体験、古い街並みやガーデン巡り、良寛と石川雲蝶ゆかりの地巡り、背脂たっぷりの燕ラーメンと三条カレーラーメンを食すコースなど、燕三条の地 域資源を存分に堪能できる15コースが設定されており、毎回、どのコースも満員、予約街という盛況ぶりです。

   弊社見学も「燕三条まちあるき」コースに組み込まれており、登録有形文化財・弊社建物、無形文化財・鎚起銅器の製作工程、人間国宝・玉川宣夫の作品をそ れぞれ解説した後、弊社工場を開放し、径10cmほどの小皿の製作体験を行います。製作体験後、皆様一様に出来上がった作品に目を輝かせながら「一生大切 に使います!」とお喜びになられ、鎚起銅器を認知していただく素晴らしい機会になっています。その後、燕ラーメン店へ移動。燕は背脂ラーメン発祥の地で、 背脂たっぷり、うどんのような極太麺が特徴です。金属加工工場へ残業用の夕食としてラーメンを配達する際、麺が伸びないよう麺を太くし、スープが冷めない ように背脂を加えたことが由来と言われています。

   街歩きはその地域に住んでいる方々の暮らし、受け継がれてきた独自の文化、風習、料理などを体感することが出来ます。観光客の方々は、知らない街の異文 化にふれて新鮮な興味を覚え、地域住民の方々にとっても自分の街の魅力を再発見する機会となります。観光客と地域住民のふれあい、街と人との交流が拡大し ていくことによって、街の魅力はさらに磨かれていきます。街歩きを繰り返し開催することによって、観光客の方々は街の文化に愛着を感じることになり、一 方、地域住民の方々は街を誇りに思うようになり、しいては地域の潜在的資源が深く見直され、時代に適応した形で有効活用されていくことになります。

   これからの観光のポイントは「人(ひと)観光」と言われています。名所旧跡を訪ねる観光から、人を訪ねる観光です。「あの街のあの人に会いに行きた い」。街歩きは、そんな欲求を満たす観光です。街歩きの定着した長崎では、自分の街に対して自負を感じ、街を少しでもきれいにしようと清掃したり、街歩き の方々に気軽に声を掛けたりする姿が多く見受けられるようになったそうです。このような市民のホスピタリティー(おもてなしの心)の向上が、観光客の満足 度を高め、リピーターを呼び込むことになります。市民参加型の観光スタイル「街歩き」は、地域活性化、そして、全国的に衰退著しい商店街活性化の鍵を握る ものと思っています。