[ 第32号 ] シャンパンの帝王「KRUG」に学ぶ

   「KRUG(クリュッグ)」はシャンパンの帝王と称され、LVMH(ルイ・ヴィトン)グループ傘下のもと、最高品質のシャンパンを製造するフラン ス・シャンパーニュ地方の名門メゾン(メーカー)です。世界最高峰のワインガイド「ル・クラスマン」では、シャンパン最高評価を受け、フランスの公式晩餐 会で「KRUG」が提供されていることでも知られています。黄金色に輝く美しい色彩、極めて芳醇な味わい、信じられないほどの余韻の長さ。その 「KRUG」の麻薬的な魅力にとり憑かれ、熱狂的な「KRUG」愛好家を世界共通語で「クリュッグラヴァー」と言い、ココ・シャネル、ヘミングウェイ、エ リザベス女王といった世界の偉人たちが、クリュッグラヴァーを公言しています。

   1843年、ヨハン・ヨーゼフ・クリッグ氏は、自らの名を冠した比類なきシャンパンを世に出すことを夢見て「KRUG」を創業。以来、「最高のシャンパ ンのためにはあらゆる努力を惜しまない」という考えのもと、現在、6代目オリビエ・クリュッグ氏(45歳)が伝統技術を継承しています。家族経営を貫き、 従業員は約50名。ワインの有名ブランドとしては、異例の小規模経営です。高品質少量生産を徹底的にこだわり、今では「KRUG」のみという30年以上の 古い小樽を使った発酵、他メゾンより長い最低6年以上という長期間の瓶熟成など、シャンパンの伝統技術を継承、発展させ、常に「最高」を目指す努力が続け られています。

   そして、「KRUG」を語る時に欠かせないのが、複数のぶどうをブレンドさせる醸造法「アッサンブラージュ」です。通常の醸造法では、その年の天候状況 により、ワインの出来、不出来のバラツキが生じますが、「KRUG」では約50の畑、6〜10年分の異なる収穫年のぶどうを組み合わせることで、毎年一定 の味覚を実現させています。そこにはシャンパンづくりのレシピは無く、あるのは記憶されたクリュッグ家の舌と記憶に刻まれた感覚のみ。クリュッグ家の秘儀 として受け継がれています。その代々受け継がれてきた五感を基に、毎年約1000回もの試飲が行われるアッサンブラージュは、独自の生産スタイルであり、 同業界から神業と言われています。

   昨年11月、「KRUG」6代目オリビエ・クリュッグ氏が弊社へお越しになり、「KRUG」を飲みながら、ブランディングやモノづくりのあり方につい て、ゆっくりお話しをする機会がありました。「KRUG」における伝統の継承と革新の精神には大変感銘をうけ、心を打たれました。クリュッグ家6代に渡り 研鑽された究極の美意識は「記憶の継承」であり、工業化の進歩著しいワイン業界にあって、昔ながらの「人の営み」が色濃く反映されています。「シャンパン はワインと比べて生産量が圧倒的に少なく、作り方も複雑。誰もがいつでも飲めるものになってはいけないと思う。だからこそ、飲む時には本当に幸せを感じて 欲しい。そのためにも、我々は妥協なきシャンパンづくりを徹底して行っていきたい。」とは、オリビエ氏の言葉。

   そして、何代にも渡り研鑽された感覚を養うべく行われている、クリュッグ家の逸話をお聞きすることが出来ました。クリュッグ家には、生まれたばかりの赤 ちゃんに、「KRUG」を飲ませる慣習が代々伝わっています。現在17歳のオリビエ氏の長男ポール君が生まれた時、オリビエ氏は2本の「KRUG」を病院 に持参しました。1本はお世話になった医師用に、もう1本は生まれたばかりのポール君のために。オリビエ氏はクリュッグ家の遺伝子を注入しようと、誕生し たその日に、ポール君の口に「KRUG」を含ませたそうです。「よくないことに、息子は今のところサッカー選手になりたがっている。将来、どうなるか分か らないけどね(笑)」。

  「KRUG」は、連綿と続くクリュッグ家の絆の賜物といえます。また、「KRUG」は、地域資源を最大限に活かし、昔からの家族経営を実直に守り続けて いる企業です。オリビエ氏は今後も少量生産を貫く考えで、次の言葉がとても印象に残っています。「いたずらに量の拡大を図るのではなく、地道に品質を追い 求めていくことが、時間がかかっても消費者に理解していただく近道なのです。」オリビエ氏のモノづくりの哲学を聴くにつれ、今後もシャンパンの頂点であり 続けていくことを、私は確信しました。「KRUG is KRUG(クリュッグはクリュッグである=唯一無二である)」。常に最高品質を追い求め、比類な きシャンパンを作り続けている永年の努力こそが、「KRUG」を「KRUG」たらしめているのです。